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第94話 火口に集うドラゴン達

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 なんとか、ノワールの説得に成功した一行は、レースの開始時間前に、会場へと辿り着くことが出来た。

 ダマヴァント山脈の一角にある、休火山の火口。高く連なる山々の中に出来ている、その窪んだ土地に、各地から集まったドラゴンと、その騎手達が集まっている。

 ニハル達は、空いているスペースに着陸した後、まずは周りのドラゴン達を観察し始めた。

 どのドラゴンも、筋骨隆々としており、強そうな雰囲気を醸し出している。一見すると、シャープな外見のノワールやブランは、不利そうに見えるが、こと、レースとなれば、スピードがものを言ってくる。そういう点で、ノワールやブランのほうが、有利なのかもしれない。

「あ」

 ユナがある一点を見つめながら、声を上げた。

 いた。ガルズバル騎士団の団長アーフリードだ。その横にいる小柄な少女騎士は、元錬金術師のトゥナ。

 アーフリードも、ユナの姿に気が付き、ちらりと、目を向けてきたが、それ以上特に反応は無く、プイとそっぽを向いてしまった。

「あの人が、騎士団の人?」

 ニハルに尋ねられて、ユナは、小さく頷いた。

「ええ。団長のアーフリードです。でも、私のことを確かに見ていたのに、あえて無視してきました……」

 実のところ、ユナは、騎士団のスパイである獣人チェロから、自分が生きていることはアーフリードに伝わっていると聞いていたので、向こうにとっては生存確認をするまでもない、ということは知っていた。

 だけど、それでも、実際にこうして顔を見せたかったのだ。

 少しは喜んでくれるかと思っていた。けれども、アーフリードは、冷たい反応しか示さなかった。

 なんでだろう、とユナの胸の奥は少しばかりざわつく。

 もしかしたら、もう、アーフリードに見放されてしまったのだろうか。あるいは、ニハル一派に寝返ったと思われているのだろうか。もちろん、ニハル達に進んで協力している面はあるから、あまり言い訳は出来ないのだけれど、弁明させてもらえるのなら、弁明したい気分だった。

 ガルズバル騎士団が用意したドラゴンは、赤いドラゴンと、青いドラゴン。赤いドラゴンは、硬そうな鱗を身にまとっており、青いドラゴンはノワールやブランと同じように優美な毛並みをたたえている。それぞれ、いざ戦うとなると、一筋縄ではいかなそうだ。

「あの人達、どうやってドラゴンを用意したのかしら」
「ニハルさん、ガルズバル帝国は、たくさんの領地を持っています。当然、ドラゴンが生息している地域も治めています。そこから、確保してきたのでしょう」
「でも、ドラゴン乗りが必要でしょ? それは、どこから……」

 などと話していると、アーフリード達の側に、二人の男がやって来た。

 一人は、スキンヘッドで大柄な体格の男。厳めしい顔つきをしている。

 もう一人は、長身で細身の、飄々とした伊達男。ニハル達に見られていることに気が付くと、彼は、片目でウィンクを飛ばしてきた。

「なるほど、スカウトしたのね」
「それか、ガルズバル帝国は、人材豊富ですから、もともと、国で抱えていたのかもしれません」
「とにかく、一番の強敵になるかもしれないね」
「まあ、こと飛行速度勝負となれば、ノワールとブランに勝てるとは思えないのですが……こればかりは、始めてみないとわかりません。何せ、レースをするのは初めてですから」

 そうこうしている内に、火口のど真ん中に建てられた櫓の上に、ローブを着た魔導士然とした男が立った。

 魔法で拡声しているのだろう、会場全体に伝わる声で、全員に呼びかけてきた。

「ようこそ、ドラゴンレースの会場へ! 私は、天帝の代理である魔術師のゲルフォイだ! この第一試合の進行を任されている!」

 天帝の代理、という言葉に、場はざわついた。天帝自ら、運営を行うわけではないだろうから、どのように各試合を進めるつもりなのか、誰もが興味を抱いていたが、まさか、代理の人間を立ててくるとは思わなかった。

 一部の参加者達は、目をぎらつかせている。それも当然だ。あの魔術師のゲルフォイとやらは、きっと、何らかの形で、天帝と接触したのだろう。直接のやり取りは無いにしても、天帝の実態を知る、鍵となるかもしれない。だから、事と場合によっては、ゲルフォイを捕まえよう、と考えているのだろう、ヒソヒソと耳打ちし合っており、何やら不穏な空気が流れている。

 そんなことは気にも止めず、ゲルフォイは、進行を続ける。

「レースのルールは単純! 決められたコースを飛んでいき、最終的に、この会場へ戻ってきてもらう! その時の順位によって、各チームにポイントが割り与えられる。このポイントは、次戦以降も引き継ぐことが出来る! 全ての試合を終えた時、最も多くのポイントを獲得していたチーム、それが優勝者となる!」

 特に奇をてらったところのない、シンプルなルールだ。

 しかし、疑問が湧いてくる。

「コースというのは、どうやってわかるの?」

 ミカが質問した。

 遠く離れた櫓の上にいるゲルフォイには聞こえるはずもない、そのミカの声を、やはり魔法で拾っているのか、彼はしっかりと聞いており、コクンと頷いた。

「いい質問だ! それでは、飛行コースについて、説明しよう!」
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