幻想世界のバニーガールがスキル「ギャンブル無敗」で思うがままに人生を謳歌する、そんなちょっとエッチな物語

逢巳花堂

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第86話 黒いドラゴン

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 オークションが終わった、翌日の早朝。

 会議室に集まったニハル達は、全員、ガックリとうなだれている。

 まさか、ボスコロフ一人に、全てのドラゴンを買い占められるとは思わなかった。

「ご、ごめんなさい……私が、上手く立ち回れなかったから……」

 ユナが半べそで謝ってきたのに対して、ニハルは無理やり笑顔を作って、首を横に振った。

「ううん、大丈夫だよ。ユナはよくやってくれたもの。他の誰がやっても、同じ結果になったと思う」
「でも、おねーさま。このままだと砂漠の女神の代理でドラゴンレースに参加できなくなっちゃうわ。そうなったら……」

 ライカの心配は、この場にいる全員が同じように考えていることでもある。

 あの容赦ない砂漠の女神は、ニハル達が代理戦争に参加できないとなれば、きっとニハルにひどい罰を与えてくることだろう。それは、ニハルの純潔を、この上なく残酷な形で奪うやり方かもしれない。

「ふん、俺がせっかく協力してやったというのに、なんてザマだ」

 会議の場には、ルドルフもちゃっかりいる。ただし、警護のバニーとして、クイナとクークー、イスカが三方を固めており、妙な真似は出来ないようにしている。

「カジノには莫大な金が貯まっているだろうが。なぜそれを使わない」
「あらあ、そんなことは認められないわあ。これでもギリギリの経営なのよ~」

 ルドルフの意見に対して、いまのカジノの責任者であるネネは、やんわりと否定した。

「ま、俺には関係ないがな。これはこれで面白い展開だ。ニハルがどんな辱めを受けるのか、最前線で拝ませてもらうとするか」

 下卑た笑みを浮かべて、レロォ、とルドルフは唇を舐める。

 ガタンッ、と席を蹴るようにして立ち上がった者が一人。ニハルの従兄のオルバサンだ。

「落ち着けって。あいつは、ああいう挑発をする奴なんだよ。いちいちキレてたら、やってらんねーぞ」

 アイヴィーがなだめたが、オルバサンはいまにも剣を抜いて躍りかからんばかりに、殺気立っている。

「ニハルに対して侮辱的なことを言うのは許さん」
「知ったことか。俺は、俺の言いたいことを、好きなように言うだけだ」

 両者、睨み合う。

 そんな一触即発の場にうんざりした獣人チェロは、なんとなく、窓の外を見た。

 まだ朝早いため、太陽は地平線から出ておらず、彼方までグラデーションで濃紺の空が広がっている。影が落ちている砂漠には、ボスコロフに買い占められたドラゴン達が整列させられており、やがて来る移動の時間を待っている。

 少しずつ空は明るくなってきている。間もなく、夜明けを迎えそうだ。

「んニャ……?」

 ふと、遠くの空を見て、チェロは目を細めた。

 何か黒い影が近付いてきている。

「あれはなんだニャ?」

 よくよく観察してみると、黒い影には翼が生えていることがわかった。

 かなり遠い位置にあるが、それでも姿形がなんとなく見える。ということは、間近で見ると、かなりの巨体ということになる。

「まさか――⁉」

 チェロが、その黒い影の正体に気が付いた瞬間、

 ギアアアアアアア!

 天地を揺るがさんばかりの咆哮が響き渡った。

「え⁉ いまの、なに⁉」

 ニハルは席を立ち、窓へと駆け寄る。他の者達も同様に、外で何が起きているのか、確認しようとする。

 彼方にいたはずの黒い影は、あっという間にカジノのほうへと急接近し、その威容を空中で誇示した。

 漆黒のドラゴン。目は赤く爛々と輝いており、吐く息には火炎が混じっている。

「どういうこと⁉ なんで、新しいドラゴンが現れたの⁉」
「おねーさま! 急いでドラゴン達を避難させないと、大変なことになるわ!」

 見ていると、黒いドラゴンは、地上にいるドラゴン達に向かって、ガチン! ガチン! と牙を噛み合わせて、威嚇している。体格で劣るドラゴンなどは、すっかり萎縮して、キュウウウンと悲しげな悲鳴を上げている。

 が、そこで、白いドラゴン・ブランが立ちはだかった。杭から鎖を外すと、翼を広げて、黒いドラゴンと向かい合い、キーーーン! と甲高い声で威嚇する。

「何が始まろうとしてるの……⁉」

 ライカが呆然と呟いた、その直後、ブランは動き出した。

 黒いドラゴンの喉笛に噛みつき、その体に爪を立てる。黒いドラゴンは怒りの咆哮を上げながら、口から火炎を放射する。両者は揉み合いながら、砂漠の上を転がるように飛んでいき、だんだんとカジノから離れていく。

「あの黒いドラゴン……もしかして、ブランの知り合いとか?」

 ニハルの呟きに、一同は目を丸くして、彼女の顔を見た。

「知り合い⁉ なんで、そんなことがわかるの⁉」

 ライカに聞かれたニハルは、うーん、と唸りながら、頭をポリポリと掻いた。

「なんとなく……かなぁ。それに、いまから思い返せば、ブランって、いわくがありそうな感じもあったし」

 それは、ブランを連れてきた田舎風少女に、なぜ自慢のドラゴンを売ろうと思ったのか、と聞いた時のことだった。

 彼女は、答えに窮していた。

 さほど興味の無かったニハルは、それ以上追及しなかったが、もしかしたら、あの黒いドラゴンの襲来が一つの答えとなっているのかもしれない。

「あの子を探さないと!」

 事態を集束させるには、実情をよく把握しているであろう、あの田舎風少女を捕まえて話を聞くしかなかった。
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