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第85話 ドラゴン・オークション
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闇のオークション、と言いながらも、大々的に開催していることから、大陸各地より多くの人が訪れてきている。
「別に、闇でもなんでもないわよね。ドラゴンが来ているせいで、目立ちに目立って、明らかにカジノが関与しているってわかっちゃってるから」
オークション開催当日、ニハルと一緒にカジノのレストランで朝食を取りながら、ライカは笑って言った。
「とは言え、チラホラ、怪しい人影もいるから、警戒は怠らないようにしないとね」
チラリと、ライカは、警備に当たっているクイナやイスカのほうを見た。
「そこは問題ない。すでに不審者を二名ほど見つけて、捕縛してある」
「捕縛が必要な不審者が出ている時点で、問題ありありなんだけど……」
「私が言いたいのは、怪しい者がいれば、すぐに捕まえてみせる、ということだ」
などと真面目に話しているクイナだが、相変わらずのバニースーツ姿。魔法の力で脱げなくなっているから仕方がないとは言え、この格好で警備に当たっているというのが、だいぶ奇妙ではある。
特に、イスカに至っては、似合っているからいいものの、男である。男でありながら、ずっとバニーガールの格好をしているというのは、なんとも、当人にとっては落ち着かないものがある。
「ところで、おねーさま。ドラゴンに目星はつけたの?」
「うん。一頭、すごく素敵なドラゴンがいたの」
ニハルは白いドラゴン・ブランのことを思い出しながら、うっとりと空中を見つめた。
「ブラン、っていうの。私、絶対にあの子を競り落としたい」
「えーと、おねーさま。残念だけど、カジノの関係者はオークションに参加できないわよ」
「わかってるってば。もちろん、代理は考えてる」
「誰に参加させるの?」
「ユナ」
その名を聞いた途端、ライカは顔をしかめた。
「ガルズバル騎士団の人間でしょ。私達の思い通りに動いてくれるかな」
「平気だって。あの子は大丈夫」
「それに、オークションの経験も無いんじゃない? ちゃんと狙いのものを競り落とせるのか、不安」
「そしたら、ライカが、オークションのコツを教えてあげてよ」
「いいですけど……」
渋々、といった調子で、ライカは頷くのであった。
※ ※ ※
ユナは戸惑っていた。
まさか、自分がニハルの代理として、オークションに出ることになるとは思ってもいなかった。
どんどん、ガルズバル騎士団の敵であるニハル一派に力を貸してしまっている。そのことの罪悪感もある。
だけど、ニハルが持つ魅力に惹かれているのもまた、事実。
(とりあえず、やるしかないか)
意を決して、オークション会場である、地下の大広間へと乗り込んだ。
元々は地下劇場として使う予定だったのか、奥のほうに舞台があり、フロア一面に階段状の座席が設けられている。オークションをやるのにはうってつけの場所だ。
ユナは、中央の席に座った。
やがて、会場一杯に客が集まってきたところで、オークションは始まった。
「ようこそ、皆様。俺がこのオークションを仕切っている責任者のルドルフだ。本日は大いに楽しんでくれ」
ルドルフの挨拶が終わった後、さっそく一つ目の品が出てきた。
どこかの滅びた国の王族が身に着けていたという、色とりどりの宝石で装飾されたネックレスだ。
(わあ、素敵)
心惹かれたが、目的のものではないので、ユナはグッとこらえた。
自分の役目は、白いドラゴン・ブランを何としてでも競り落とすことである。それ以外のものに気を取られている場合ではない。
他の参加者達の符丁を参考にして、いざ自分が競りに参加する時のシミュレーションをしながら、その時を待った。
やがて、このオークションの目玉である、ドラゴンの競売がスタートした。
司会を務めるバニーガールが、会場内に呼びかける。
「さあ、まずは最初のドラゴンです!」
深紅の色が鮮やかなドラゴンが、ターバンを巻いたチョビ髭男に連れられて、舞台へと進み出てきた。
「このドラゴン、名前はルビー! 鱗の一枚一枚が宝石のような輝きを持つ、希少種です! 最低落札額は金貨三万枚から! では、始めましょう!」
そう司会が宣言した途端、ユナの前方、二段下の席に座っている禿げ頭のでっぷり太った男が、両手を挙げた。左手の指は一千を表し、右手の指は万を表している。
つまり、金貨一千万枚。
「い、一千万……⁉ で、出ました、一千万! 一千万! 他にはおりませんか⁉」
無茶だ。そんな金額を上回る額なんて提示できるわけがない。
中流階級の平均年収が金貨一万枚だ。つまり、一千人を養えるくらいの金額、ということになる。
「出た、ボスコロフだ」
「ボスコロフ?」
ユナの隣の席にいる二人組の男達が、囁き合う。
「サゼフトの闇のオークションでも、場を荒らすので有名な奴だよ。大富豪で美食家。あいつは、特に食えるものだったら、なんでも買いあさるからな。あのドラゴンも調理されちまうんだろうな、かわいそうに」
調理、と聞いて、ユナは胸がギュッと苦しくなる感覚を覚えた。
あんなに綺麗なドラゴンなのに、食べられてしまうの?
だけど、自分にはどうすることも出来ない。
「落札! 落札です! 深紅のドラゴン・ルビーは、456番が落札しました!」
続けて、次々と色々なドラゴンが出てきたが、みんな、ボスコロフが桁違いの金額を提示して、全部落札してしまった。
そして、とうとう、白いドラゴン・ブランの番となった。
(絶対に負けられない!)
ニハルから託された金額は、金貨二千万枚。これで勝負を仕掛けるしかない。
まずは、ボスコロフがさっきから出しているのと同じ、金貨一千万枚を真っ先に提示した。
すると、ボスコロフは右手を挙げた。その指の符丁は、同額を重ねることを意味している。
つまり、金貨二千万枚。
(嘘でしょ……⁉)
やむを得ず、ユナは金貨五百万枚を上乗せした。
だが、ボスコロフは止まらない。さらに金貨一千万枚を追加してきた。これで、総額金貨三千五百万枚。
(ダメだ……)
こうなってはもう、諦めるしかなかった。
最終的に、ボスコロフは、全てのドラゴンをたった一人で競り落とした。
ニハル達の作戦は大失敗に終わってしまった。
「別に、闇でもなんでもないわよね。ドラゴンが来ているせいで、目立ちに目立って、明らかにカジノが関与しているってわかっちゃってるから」
オークション開催当日、ニハルと一緒にカジノのレストランで朝食を取りながら、ライカは笑って言った。
「とは言え、チラホラ、怪しい人影もいるから、警戒は怠らないようにしないとね」
チラリと、ライカは、警備に当たっているクイナやイスカのほうを見た。
「そこは問題ない。すでに不審者を二名ほど見つけて、捕縛してある」
「捕縛が必要な不審者が出ている時点で、問題ありありなんだけど……」
「私が言いたいのは、怪しい者がいれば、すぐに捕まえてみせる、ということだ」
などと真面目に話しているクイナだが、相変わらずのバニースーツ姿。魔法の力で脱げなくなっているから仕方がないとは言え、この格好で警備に当たっているというのが、だいぶ奇妙ではある。
特に、イスカに至っては、似合っているからいいものの、男である。男でありながら、ずっとバニーガールの格好をしているというのは、なんとも、当人にとっては落ち着かないものがある。
「ところで、おねーさま。ドラゴンに目星はつけたの?」
「うん。一頭、すごく素敵なドラゴンがいたの」
ニハルは白いドラゴン・ブランのことを思い出しながら、うっとりと空中を見つめた。
「ブラン、っていうの。私、絶対にあの子を競り落としたい」
「えーと、おねーさま。残念だけど、カジノの関係者はオークションに参加できないわよ」
「わかってるってば。もちろん、代理は考えてる」
「誰に参加させるの?」
「ユナ」
その名を聞いた途端、ライカは顔をしかめた。
「ガルズバル騎士団の人間でしょ。私達の思い通りに動いてくれるかな」
「平気だって。あの子は大丈夫」
「それに、オークションの経験も無いんじゃない? ちゃんと狙いのものを競り落とせるのか、不安」
「そしたら、ライカが、オークションのコツを教えてあげてよ」
「いいですけど……」
渋々、といった調子で、ライカは頷くのであった。
※ ※ ※
ユナは戸惑っていた。
まさか、自分がニハルの代理として、オークションに出ることになるとは思ってもいなかった。
どんどん、ガルズバル騎士団の敵であるニハル一派に力を貸してしまっている。そのことの罪悪感もある。
だけど、ニハルが持つ魅力に惹かれているのもまた、事実。
(とりあえず、やるしかないか)
意を決して、オークション会場である、地下の大広間へと乗り込んだ。
元々は地下劇場として使う予定だったのか、奥のほうに舞台があり、フロア一面に階段状の座席が設けられている。オークションをやるのにはうってつけの場所だ。
ユナは、中央の席に座った。
やがて、会場一杯に客が集まってきたところで、オークションは始まった。
「ようこそ、皆様。俺がこのオークションを仕切っている責任者のルドルフだ。本日は大いに楽しんでくれ」
ルドルフの挨拶が終わった後、さっそく一つ目の品が出てきた。
どこかの滅びた国の王族が身に着けていたという、色とりどりの宝石で装飾されたネックレスだ。
(わあ、素敵)
心惹かれたが、目的のものではないので、ユナはグッとこらえた。
自分の役目は、白いドラゴン・ブランを何としてでも競り落とすことである。それ以外のものに気を取られている場合ではない。
他の参加者達の符丁を参考にして、いざ自分が競りに参加する時のシミュレーションをしながら、その時を待った。
やがて、このオークションの目玉である、ドラゴンの競売がスタートした。
司会を務めるバニーガールが、会場内に呼びかける。
「さあ、まずは最初のドラゴンです!」
深紅の色が鮮やかなドラゴンが、ターバンを巻いたチョビ髭男に連れられて、舞台へと進み出てきた。
「このドラゴン、名前はルビー! 鱗の一枚一枚が宝石のような輝きを持つ、希少種です! 最低落札額は金貨三万枚から! では、始めましょう!」
そう司会が宣言した途端、ユナの前方、二段下の席に座っている禿げ頭のでっぷり太った男が、両手を挙げた。左手の指は一千を表し、右手の指は万を表している。
つまり、金貨一千万枚。
「い、一千万……⁉ で、出ました、一千万! 一千万! 他にはおりませんか⁉」
無茶だ。そんな金額を上回る額なんて提示できるわけがない。
中流階級の平均年収が金貨一万枚だ。つまり、一千人を養えるくらいの金額、ということになる。
「出た、ボスコロフだ」
「ボスコロフ?」
ユナの隣の席にいる二人組の男達が、囁き合う。
「サゼフトの闇のオークションでも、場を荒らすので有名な奴だよ。大富豪で美食家。あいつは、特に食えるものだったら、なんでも買いあさるからな。あのドラゴンも調理されちまうんだろうな、かわいそうに」
調理、と聞いて、ユナは胸がギュッと苦しくなる感覚を覚えた。
あんなに綺麗なドラゴンなのに、食べられてしまうの?
だけど、自分にはどうすることも出来ない。
「落札! 落札です! 深紅のドラゴン・ルビーは、456番が落札しました!」
続けて、次々と色々なドラゴンが出てきたが、みんな、ボスコロフが桁違いの金額を提示して、全部落札してしまった。
そして、とうとう、白いドラゴン・ブランの番となった。
(絶対に負けられない!)
ニハルから託された金額は、金貨二千万枚。これで勝負を仕掛けるしかない。
まずは、ボスコロフがさっきから出しているのと同じ、金貨一千万枚を真っ先に提示した。
すると、ボスコロフは右手を挙げた。その指の符丁は、同額を重ねることを意味している。
つまり、金貨二千万枚。
(嘘でしょ……⁉)
やむを得ず、ユナは金貨五百万枚を上乗せした。
だが、ボスコロフは止まらない。さらに金貨一千万枚を追加してきた。これで、総額金貨三千五百万枚。
(ダメだ……)
こうなってはもう、諦めるしかなかった。
最終的に、ボスコロフは、全てのドラゴンをたった一人で競り落とした。
ニハル達の作戦は大失敗に終わってしまった。
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