90 / 102
第85話 ドラゴン・オークション
しおりを挟む
闇のオークション、と言いながらも、大々的に開催していることから、大陸各地より多くの人が訪れてきている。
「別に、闇でもなんでもないわよね。ドラゴンが来ているせいで、目立ちに目立って、明らかにカジノが関与しているってわかっちゃってるから」
オークション開催当日、ニハルと一緒にカジノのレストランで朝食を取りながら、ライカは笑って言った。
「とは言え、チラホラ、怪しい人影もいるから、警戒は怠らないようにしないとね」
チラリと、ライカは、警備に当たっているクイナやイスカのほうを見た。
「そこは問題ない。すでに不審者を二名ほど見つけて、捕縛してある」
「捕縛が必要な不審者が出ている時点で、問題ありありなんだけど……」
「私が言いたいのは、怪しい者がいれば、すぐに捕まえてみせる、ということだ」
などと真面目に話しているクイナだが、相変わらずのバニースーツ姿。魔法の力で脱げなくなっているから仕方がないとは言え、この格好で警備に当たっているというのが、だいぶ奇妙ではある。
特に、イスカに至っては、似合っているからいいものの、男である。男でありながら、ずっとバニーガールの格好をしているというのは、なんとも、当人にとっては落ち着かないものがある。
「ところで、おねーさま。ドラゴンに目星はつけたの?」
「うん。一頭、すごく素敵なドラゴンがいたの」
ニハルは白いドラゴン・ブランのことを思い出しながら、うっとりと空中を見つめた。
「ブラン、っていうの。私、絶対にあの子を競り落としたい」
「えーと、おねーさま。残念だけど、カジノの関係者はオークションに参加できないわよ」
「わかってるってば。もちろん、代理は考えてる」
「誰に参加させるの?」
「ユナ」
その名を聞いた途端、ライカは顔をしかめた。
「ガルズバル騎士団の人間でしょ。私達の思い通りに動いてくれるかな」
「平気だって。あの子は大丈夫」
「それに、オークションの経験も無いんじゃない? ちゃんと狙いのものを競り落とせるのか、不安」
「そしたら、ライカが、オークションのコツを教えてあげてよ」
「いいですけど……」
渋々、といった調子で、ライカは頷くのであった。
※ ※ ※
ユナは戸惑っていた。
まさか、自分がニハルの代理として、オークションに出ることになるとは思ってもいなかった。
どんどん、ガルズバル騎士団の敵であるニハル一派に力を貸してしまっている。そのことの罪悪感もある。
だけど、ニハルが持つ魅力に惹かれているのもまた、事実。
(とりあえず、やるしかないか)
意を決して、オークション会場である、地下の大広間へと乗り込んだ。
元々は地下劇場として使う予定だったのか、奥のほうに舞台があり、フロア一面に階段状の座席が設けられている。オークションをやるのにはうってつけの場所だ。
ユナは、中央の席に座った。
やがて、会場一杯に客が集まってきたところで、オークションは始まった。
「ようこそ、皆様。俺がこのオークションを仕切っている責任者のルドルフだ。本日は大いに楽しんでくれ」
ルドルフの挨拶が終わった後、さっそく一つ目の品が出てきた。
どこかの滅びた国の王族が身に着けていたという、色とりどりの宝石で装飾されたネックレスだ。
(わあ、素敵)
心惹かれたが、目的のものではないので、ユナはグッとこらえた。
自分の役目は、白いドラゴン・ブランを何としてでも競り落とすことである。それ以外のものに気を取られている場合ではない。
他の参加者達の符丁を参考にして、いざ自分が競りに参加する時のシミュレーションをしながら、その時を待った。
やがて、このオークションの目玉である、ドラゴンの競売がスタートした。
司会を務めるバニーガールが、会場内に呼びかける。
「さあ、まずは最初のドラゴンです!」
深紅の色が鮮やかなドラゴンが、ターバンを巻いたチョビ髭男に連れられて、舞台へと進み出てきた。
「このドラゴン、名前はルビー! 鱗の一枚一枚が宝石のような輝きを持つ、希少種です! 最低落札額は金貨三万枚から! では、始めましょう!」
そう司会が宣言した途端、ユナの前方、二段下の席に座っている禿げ頭のでっぷり太った男が、両手を挙げた。左手の指は一千を表し、右手の指は万を表している。
つまり、金貨一千万枚。
「い、一千万……⁉ で、出ました、一千万! 一千万! 他にはおりませんか⁉」
無茶だ。そんな金額を上回る額なんて提示できるわけがない。
中流階級の平均年収が金貨一万枚だ。つまり、一千人を養えるくらいの金額、ということになる。
「出た、ボスコロフだ」
「ボスコロフ?」
ユナの隣の席にいる二人組の男達が、囁き合う。
「サゼフトの闇のオークションでも、場を荒らすので有名な奴だよ。大富豪で美食家。あいつは、特に食えるものだったら、なんでも買いあさるからな。あのドラゴンも調理されちまうんだろうな、かわいそうに」
調理、と聞いて、ユナは胸がギュッと苦しくなる感覚を覚えた。
あんなに綺麗なドラゴンなのに、食べられてしまうの?
だけど、自分にはどうすることも出来ない。
「落札! 落札です! 深紅のドラゴン・ルビーは、456番が落札しました!」
続けて、次々と色々なドラゴンが出てきたが、みんな、ボスコロフが桁違いの金額を提示して、全部落札してしまった。
そして、とうとう、白いドラゴン・ブランの番となった。
(絶対に負けられない!)
ニハルから託された金額は、金貨二千万枚。これで勝負を仕掛けるしかない。
まずは、ボスコロフがさっきから出しているのと同じ、金貨一千万枚を真っ先に提示した。
すると、ボスコロフは右手を挙げた。その指の符丁は、同額を重ねることを意味している。
つまり、金貨二千万枚。
(嘘でしょ……⁉)
やむを得ず、ユナは金貨五百万枚を上乗せした。
だが、ボスコロフは止まらない。さらに金貨一千万枚を追加してきた。これで、総額金貨三千五百万枚。
(ダメだ……)
こうなってはもう、諦めるしかなかった。
最終的に、ボスコロフは、全てのドラゴンをたった一人で競り落とした。
ニハル達の作戦は大失敗に終わってしまった。
「別に、闇でもなんでもないわよね。ドラゴンが来ているせいで、目立ちに目立って、明らかにカジノが関与しているってわかっちゃってるから」
オークション開催当日、ニハルと一緒にカジノのレストランで朝食を取りながら、ライカは笑って言った。
「とは言え、チラホラ、怪しい人影もいるから、警戒は怠らないようにしないとね」
チラリと、ライカは、警備に当たっているクイナやイスカのほうを見た。
「そこは問題ない。すでに不審者を二名ほど見つけて、捕縛してある」
「捕縛が必要な不審者が出ている時点で、問題ありありなんだけど……」
「私が言いたいのは、怪しい者がいれば、すぐに捕まえてみせる、ということだ」
などと真面目に話しているクイナだが、相変わらずのバニースーツ姿。魔法の力で脱げなくなっているから仕方がないとは言え、この格好で警備に当たっているというのが、だいぶ奇妙ではある。
特に、イスカに至っては、似合っているからいいものの、男である。男でありながら、ずっとバニーガールの格好をしているというのは、なんとも、当人にとっては落ち着かないものがある。
「ところで、おねーさま。ドラゴンに目星はつけたの?」
「うん。一頭、すごく素敵なドラゴンがいたの」
ニハルは白いドラゴン・ブランのことを思い出しながら、うっとりと空中を見つめた。
「ブラン、っていうの。私、絶対にあの子を競り落としたい」
「えーと、おねーさま。残念だけど、カジノの関係者はオークションに参加できないわよ」
「わかってるってば。もちろん、代理は考えてる」
「誰に参加させるの?」
「ユナ」
その名を聞いた途端、ライカは顔をしかめた。
「ガルズバル騎士団の人間でしょ。私達の思い通りに動いてくれるかな」
「平気だって。あの子は大丈夫」
「それに、オークションの経験も無いんじゃない? ちゃんと狙いのものを競り落とせるのか、不安」
「そしたら、ライカが、オークションのコツを教えてあげてよ」
「いいですけど……」
渋々、といった調子で、ライカは頷くのであった。
※ ※ ※
ユナは戸惑っていた。
まさか、自分がニハルの代理として、オークションに出ることになるとは思ってもいなかった。
どんどん、ガルズバル騎士団の敵であるニハル一派に力を貸してしまっている。そのことの罪悪感もある。
だけど、ニハルが持つ魅力に惹かれているのもまた、事実。
(とりあえず、やるしかないか)
意を決して、オークション会場である、地下の大広間へと乗り込んだ。
元々は地下劇場として使う予定だったのか、奥のほうに舞台があり、フロア一面に階段状の座席が設けられている。オークションをやるのにはうってつけの場所だ。
ユナは、中央の席に座った。
やがて、会場一杯に客が集まってきたところで、オークションは始まった。
「ようこそ、皆様。俺がこのオークションを仕切っている責任者のルドルフだ。本日は大いに楽しんでくれ」
ルドルフの挨拶が終わった後、さっそく一つ目の品が出てきた。
どこかの滅びた国の王族が身に着けていたという、色とりどりの宝石で装飾されたネックレスだ。
(わあ、素敵)
心惹かれたが、目的のものではないので、ユナはグッとこらえた。
自分の役目は、白いドラゴン・ブランを何としてでも競り落とすことである。それ以外のものに気を取られている場合ではない。
他の参加者達の符丁を参考にして、いざ自分が競りに参加する時のシミュレーションをしながら、その時を待った。
やがて、このオークションの目玉である、ドラゴンの競売がスタートした。
司会を務めるバニーガールが、会場内に呼びかける。
「さあ、まずは最初のドラゴンです!」
深紅の色が鮮やかなドラゴンが、ターバンを巻いたチョビ髭男に連れられて、舞台へと進み出てきた。
「このドラゴン、名前はルビー! 鱗の一枚一枚が宝石のような輝きを持つ、希少種です! 最低落札額は金貨三万枚から! では、始めましょう!」
そう司会が宣言した途端、ユナの前方、二段下の席に座っている禿げ頭のでっぷり太った男が、両手を挙げた。左手の指は一千を表し、右手の指は万を表している。
つまり、金貨一千万枚。
「い、一千万……⁉ で、出ました、一千万! 一千万! 他にはおりませんか⁉」
無茶だ。そんな金額を上回る額なんて提示できるわけがない。
中流階級の平均年収が金貨一万枚だ。つまり、一千人を養えるくらいの金額、ということになる。
「出た、ボスコロフだ」
「ボスコロフ?」
ユナの隣の席にいる二人組の男達が、囁き合う。
「サゼフトの闇のオークションでも、場を荒らすので有名な奴だよ。大富豪で美食家。あいつは、特に食えるものだったら、なんでも買いあさるからな。あのドラゴンも調理されちまうんだろうな、かわいそうに」
調理、と聞いて、ユナは胸がギュッと苦しくなる感覚を覚えた。
あんなに綺麗なドラゴンなのに、食べられてしまうの?
だけど、自分にはどうすることも出来ない。
「落札! 落札です! 深紅のドラゴン・ルビーは、456番が落札しました!」
続けて、次々と色々なドラゴンが出てきたが、みんな、ボスコロフが桁違いの金額を提示して、全部落札してしまった。
そして、とうとう、白いドラゴン・ブランの番となった。
(絶対に負けられない!)
ニハルから託された金額は、金貨二千万枚。これで勝負を仕掛けるしかない。
まずは、ボスコロフがさっきから出しているのと同じ、金貨一千万枚を真っ先に提示した。
すると、ボスコロフは右手を挙げた。その指の符丁は、同額を重ねることを意味している。
つまり、金貨二千万枚。
(嘘でしょ……⁉)
やむを得ず、ユナは金貨五百万枚を上乗せした。
だが、ボスコロフは止まらない。さらに金貨一千万枚を追加してきた。これで、総額金貨三千五百万枚。
(ダメだ……)
こうなってはもう、諦めるしかなかった。
最終的に、ボスコロフは、全てのドラゴンをたった一人で競り落とした。
ニハル達の作戦は大失敗に終わってしまった。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

神様のミスで女に転生したようです
結城はる
ファンタジー
34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。
いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。
目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。
美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい
死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。
気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。
ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。
え……。
神様、私女になってるんですけどーーーー!!!
小説家になろうでも掲載しています。
URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

十人十色の強制ダンジョン攻略生活
ほんのり雪達磨
ファンタジー
クリアしなければ、死ぬこともできません。
妙な部屋で目が覚めた大量の人種を問わない人たちに、自称『運営』と名乗る何かは一方的にそう告げた。
難易度別に分けられたダンジョンと呼ぶ何かにランダムに配置されていて、クリア条件を達成しない限りリスポーンし続ける状態を強制されてしまった、らしい。
そんな理不尽に攫われて押し付けられた人たちの強制ダンジョン攻略生活。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる