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第82話 闇のオークション
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「いやだニャ! なんであたしがドラゴンレースになんて出ないといけないのニャ!」
「お願い! あなたしかいないの!」
「さっきも言ったニャ! あいつら、プライドが高いって! そんな連中を操るなんて、無理だニャ!」
「もう一声!」
「何がもう一声だニャ! 全然、あたしは譲歩すらしてないニャ! お断りだニャ!」
チェロは頑として首を縦に振らない。
その時、オルバサンが席を立った。
「チェロ、とか言ったな。とびっきりの報酬をやる、と言ったら、どうだ?」
「お金をいくら積まれても、あたしは動かないニャ!」
「金ではない。マタタビだ」
「!」
マタタビ、と聞いた瞬間、チェロは騒ぐのをやめた。
「……どれくらい、くれるのニャ?」
「とりあえず一年分でどうだ」
「二年分だニャ。それで手を打つニャ」
「よし、決まりだな。マタタビ二年分。その代わり、ドラゴンレースに出てもらうぞ」
驚くほど簡単に話が進んだので、ニハルは目を丸くしている。
「すっごーい、オル君! チェロの好みをよくわかっていたね」
「猫獣人とのことだから、もしや、と思ってな。猫はマタタビが好きだ。一度食べ始めると、頭がおかしくなったように食べ続ける。だから、試しに聞いてみた」
「さっすがー!」
ニハルは手を叩いて大喜びしている。
そんな彼女の肩を、ライカはちょんちょんと叩いた。
「ねえ、おねーさま。大事なことを忘れてる」
「なになに? 何を忘れているの?」
「肝心のドラゴンをどうやって調達するわけ」
あ、と短く声を発した後、ニハルは露骨に慌て始めた。
「向こうが、ドラゴンを用意してくれるんじゃないの?」
「天帝からの手紙には、各自で連れてくること、とありますね」
「レースの開催日は?」
「七日後」
「七日でレースに出られるドラゴンを連れてこい、なんて、無理じゃん!」
「それも含めて試されてるんでしょーね。天帝からしてみたら、この程度の課題をクリアできないようじゃ、神々の代理なんて務まらない、って考えてそう」
「どどど、どーすんの」
「ちょうどナイアーラ女王もいるし、聞きたいんだけど」
と、ライカはサゼフト王国の女王ナイアーラへと目を向けた。
「首都アテムでは、闇のオークションが毎月開催されている、って聞いたけど、本当なの?」
「よく知っておるのう。わらわは関与しておらぬが、その通りじゃ」
「黙認しているわけね」
「色々と事情があるのじゃ。それはよそ者のお主には語れぬがのう」
「そのオークションには、色々と珍しいものが売りに出されている、って聞くわ」
「ドラゴンも出されるのではないか、と思うのか?」
「可能性はゼロじゃない」
「しかし、問題が三つあるぞ。一つは、ドラゴンが競売の品として出されるかはわからないということ。二つ目に、開催日がドラゴンレースまでに間に合うかわからぬ、ということ。三つ目は、そもそもアテムまで行くのに相当な日数を費やすこと、がある」
「あー、違う違う、そうじゃなくて」
ライカは手を横に振った。
「この際、闇のオークションを、このカジノで開催したらどう? ってこと」
会議の場がざわついた。
闇のオークションは、その名の通り、非合法の競売である。そんなものを、ニハルの統治下で開催するというのか、とばかりに、非難の声も飛んでくる。
「却下だ。ニハルはそのようなことを主導すべきではない」
真面目なクイナが、まずハッキリと意見を述べてきた。
「僕も反対だよ。そんなのは、ニハルさんにはふさわしくない」
イスカもまた、反対派に回る。
そういった意見が出ることもあらかじめ想定していたのか、ライカは動じることなく、ニコリと笑った。
「いるじゃない。そういうものを開催してもおかしくない奴が、このカジノに」
「誰?」
ニハルに尋ねられたライカは、明るく朗らかに、とんでもないことを言い出した。
「ルドルフよ」
ますます、会議の場は騒がしくなった。
「あいつを解放するというの⁉」
「冗談じゃないわ! あんな奴、地下牢に押し込めたままにしてよ!」
ルドルフに性的に酷い目に遭わされてきたカジノバニー達が、次々と文句をぶつけてくる。
それでも、ライカは怯まない。
「じゃあ、いいわよ。他にドラゴンを手に入れる方法があるなら、教えてちょうだい。どこでドラゴンを手に入れられるの? どうやって捕まえるの?」
その問いに対しては、誰も答えられない。シンと静まり返ってしまう。
「とにかく、グズグズしている時間はないわ。七日後には、ドラゴンを連れて会場に到着していないといけない。逆算すると、ドラゴンの乗り方を練習するのに最低でも一日かかるとして、五日後にはオークションを開催している必要がある。なるべく広範囲にオークションの告知を広めるためには、遠方からの移動時間を考えても、いまから二日間くらいで各地へ案内を飛ばさないといけない。一分一秒を争うの」
「ライカ、その計画で進めるとしても、ルドルフをどうするつもりなの? 解放するの?」
「解放します。それで、このカジノの特別顧問に就任させるの」
「抑えきれるかな」
「ここの統治はネネがやってる。ネネなら、相手の心が読めるから、ルドルフがもしよからぬことを考えていたら、すぐに抑え込めるわ。強いバニー達も大勢いるし」
「じゃあ、ライカの作戦で行く!」
ニハルの鶴の一声で、流れは固まった。
あのルドルフを、解放することとなったのである。
「お願い! あなたしかいないの!」
「さっきも言ったニャ! あいつら、プライドが高いって! そんな連中を操るなんて、無理だニャ!」
「もう一声!」
「何がもう一声だニャ! 全然、あたしは譲歩すらしてないニャ! お断りだニャ!」
チェロは頑として首を縦に振らない。
その時、オルバサンが席を立った。
「チェロ、とか言ったな。とびっきりの報酬をやる、と言ったら、どうだ?」
「お金をいくら積まれても、あたしは動かないニャ!」
「金ではない。マタタビだ」
「!」
マタタビ、と聞いた瞬間、チェロは騒ぐのをやめた。
「……どれくらい、くれるのニャ?」
「とりあえず一年分でどうだ」
「二年分だニャ。それで手を打つニャ」
「よし、決まりだな。マタタビ二年分。その代わり、ドラゴンレースに出てもらうぞ」
驚くほど簡単に話が進んだので、ニハルは目を丸くしている。
「すっごーい、オル君! チェロの好みをよくわかっていたね」
「猫獣人とのことだから、もしや、と思ってな。猫はマタタビが好きだ。一度食べ始めると、頭がおかしくなったように食べ続ける。だから、試しに聞いてみた」
「さっすがー!」
ニハルは手を叩いて大喜びしている。
そんな彼女の肩を、ライカはちょんちょんと叩いた。
「ねえ、おねーさま。大事なことを忘れてる」
「なになに? 何を忘れているの?」
「肝心のドラゴンをどうやって調達するわけ」
あ、と短く声を発した後、ニハルは露骨に慌て始めた。
「向こうが、ドラゴンを用意してくれるんじゃないの?」
「天帝からの手紙には、各自で連れてくること、とありますね」
「レースの開催日は?」
「七日後」
「七日でレースに出られるドラゴンを連れてこい、なんて、無理じゃん!」
「それも含めて試されてるんでしょーね。天帝からしてみたら、この程度の課題をクリアできないようじゃ、神々の代理なんて務まらない、って考えてそう」
「どどど、どーすんの」
「ちょうどナイアーラ女王もいるし、聞きたいんだけど」
と、ライカはサゼフト王国の女王ナイアーラへと目を向けた。
「首都アテムでは、闇のオークションが毎月開催されている、って聞いたけど、本当なの?」
「よく知っておるのう。わらわは関与しておらぬが、その通りじゃ」
「黙認しているわけね」
「色々と事情があるのじゃ。それはよそ者のお主には語れぬがのう」
「そのオークションには、色々と珍しいものが売りに出されている、って聞くわ」
「ドラゴンも出されるのではないか、と思うのか?」
「可能性はゼロじゃない」
「しかし、問題が三つあるぞ。一つは、ドラゴンが競売の品として出されるかはわからないということ。二つ目に、開催日がドラゴンレースまでに間に合うかわからぬ、ということ。三つ目は、そもそもアテムまで行くのに相当な日数を費やすこと、がある」
「あー、違う違う、そうじゃなくて」
ライカは手を横に振った。
「この際、闇のオークションを、このカジノで開催したらどう? ってこと」
会議の場がざわついた。
闇のオークションは、その名の通り、非合法の競売である。そんなものを、ニハルの統治下で開催するというのか、とばかりに、非難の声も飛んでくる。
「却下だ。ニハルはそのようなことを主導すべきではない」
真面目なクイナが、まずハッキリと意見を述べてきた。
「僕も反対だよ。そんなのは、ニハルさんにはふさわしくない」
イスカもまた、反対派に回る。
そういった意見が出ることもあらかじめ想定していたのか、ライカは動じることなく、ニコリと笑った。
「いるじゃない。そういうものを開催してもおかしくない奴が、このカジノに」
「誰?」
ニハルに尋ねられたライカは、明るく朗らかに、とんでもないことを言い出した。
「ルドルフよ」
ますます、会議の場は騒がしくなった。
「あいつを解放するというの⁉」
「冗談じゃないわ! あんな奴、地下牢に押し込めたままにしてよ!」
ルドルフに性的に酷い目に遭わされてきたカジノバニー達が、次々と文句をぶつけてくる。
それでも、ライカは怯まない。
「じゃあ、いいわよ。他にドラゴンを手に入れる方法があるなら、教えてちょうだい。どこでドラゴンを手に入れられるの? どうやって捕まえるの?」
その問いに対しては、誰も答えられない。シンと静まり返ってしまう。
「とにかく、グズグズしている時間はないわ。七日後には、ドラゴンを連れて会場に到着していないといけない。逆算すると、ドラゴンの乗り方を練習するのに最低でも一日かかるとして、五日後にはオークションを開催している必要がある。なるべく広範囲にオークションの告知を広めるためには、遠方からの移動時間を考えても、いまから二日間くらいで各地へ案内を飛ばさないといけない。一分一秒を争うの」
「ライカ、その計画で進めるとしても、ルドルフをどうするつもりなの? 解放するの?」
「解放します。それで、このカジノの特別顧問に就任させるの」
「抑えきれるかな」
「ここの統治はネネがやってる。ネネなら、相手の心が読めるから、ルドルフがもしよからぬことを考えていたら、すぐに抑え込めるわ。強いバニー達も大勢いるし」
「じゃあ、ライカの作戦で行く!」
ニハルの鶴の一声で、流れは固まった。
あのルドルフを、解放することとなったのである。
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