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第76話 亡国の姫としての務め
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ニハルは、盗賊団から奪還した領地にしばらく残り、これからここに住む人々と一人ずつ対面で話をして回った。
当の本人はめんどくさがっているが、参謀であるライカにせっつかれて、渋々動いているような状態である。
「民の声を聞くのは、領主としての務めよ、おねーさま。ちゃんと耳を傾けないと」
「そういうの全部飛ばして、みんなでのんびり気楽に過ごせば、それでよくない?」
「ダメ。けっこう大事な情報がいっぱいあるから、聞き逃さないで。それに、のんびり生きたいんだったら、それこそ民の不満を抑えないと、スローライフどころじゃなくなっちゃうわよ」
「はあい」
なんだかんだ文句を言いつつも、ニハルは積極的に、色々な人に声をかけている。
人によって、訴え出てくることは様々だった。寝床が足りない、食糧が足りない、といったことから、家の分配でなかなかみんなの意見が合わない、といった悩みまで、多種多様。そして、どれもがすぐには解決しがたい、難しい問題ばかりであった。
だが、ライカが的確に、相手に対して助言をしてくれた。おかげで、人々の訴えかけのうち、実に七割方は解決へ向けて進むこととなった。残り三割は、いますぐには解決は難しいものであったり、本拠地に戻って他の人の意見を聞く必要があるものだったりする。
「ライカって、ほんと、頭いいよね。感心しちゃう」
「えへへ、もっと褒めてください、おねーさま♡」
「頼りにしてるからね、ライカ♪」
「まかせて、おねーさま♡」
そんな二人のやり取りを横目で見ながら、オルバサンは、ニハルが連れてきた護衛バニー達のほうへと意識を向けていた。
(格好は破廉恥だが、なかなか、優秀な人材が揃っているようだな)
すでに護衛バニー達の紹介は受けている。
まずは親衛隊長のアイヴィー。身のこなしは中の上といったところだが、言葉の端々から、高い知性を感じさせる。総合的にバランスの取れた能力を持っている女性のようだ。
次に、クークー。東国ファンロンの出身とのことで、歩き方ひとつ取っても武芸を極めた者としての風格を漂わせている。かなり強いことがわかる。
そして、イスカだ。見た目は少女のようだが、実は男で、しかもニハルの恋人というのだから、驚きだ。オルバサンから見れば、まだまだ未熟な雰囲気は漂っているものの、十分戦える力は持っているようだ。
この三人は、全体の内の一部とのことだ。特に強いバニーガールで、クイナという女剣士がいるとのことだが、彼女はあいにく領内を巡回している最中らしい。
(ニハルの持つ人的魅力がなせるのだろうな)
一目見て優秀だとわかる人物は稀な存在だ。なかなか、ここまでの人材は揃わない。
それもこれも、ニハル自身に魅力があるからだと、オルバサンは確信を抱いている。
「ニハル。この先は何を考えているんだ」
オルバサンに尋ねられたニハルは、キョトンとした表情で、振り返ってきた。
「この先、って、どういうこと?」
「なにか戦略があって、この領地を治めているのではないのか」
「私、単に、スローライフを送りたいから、自分の土地を手に入れただけだよ」
「スローライフ?」
「そ、ゆったりまったりした人生。誰かと争ったり、戦ったり、そんなめんどくさいことしたくないもの」
「メルセゲル王国の再興はどうする?」
「うーん……オル君に任せちゃおっかな」
「俺はただの従兄だ。後継者の候補には入っていない。国王がご存命かどうかわからぬいま、王国にとって唯一の希望は、ニハル、お前なんだぞ」
「えー……」
明らかにニハルは、メルセゲル王国を復活させることには興味がない様子だ。
オルバサンは混乱した。なぜ、ニハルはこんなにも、拒否反応を示しているのか。亡き王国を愛していないのか。オルバサンはメルセゲル王国に対する愛国心が強いだけに、ニハルの気持ちがよく理解できずにいる。
ニハルは亡国の姫である。その立場として果たすべき責務があるのではないかと、オルバサンは考えている。
「そんなことでは困る。俺達を率いてくれ。ネフティス王国が奪った土地を取り返し、メルセゲル王国を再興してほしい」
「やだ」
キッパリとニハルは断ってきた。
そんな彼女に対して、なおオルバサンは説教を重ねようとしたが、間にイスカが割りこんできた。
「やめてくれませんか。ニハルさんがいやがってる」
ムッとしたオルバサンは、イスカのことを睨みつけた。
「これは、メルセゲル王国に関する話だ。君には関係ない」
「僕に関係あるかどうかは、重要じゃない。問題は、あなたの話で、ニハルさんがいやな気持ちになっている、ということです。これ以上、しつこく話すのは、やめてください」
「君はニハルの護衛だったな。まさか、彼女の心を守ることも、自分の務めだと思っているのか」
「当然です。それに、僕はただの護衛じゃない。ニハルさんの恋人だ」
最後の言葉は、特に強調するように、イスカは言い放った。
しばらくの間、オルバサンは無言で、イスカのことを見つめていた。
やがて、ため息をつき、苦笑しながらかぶりを振った。
「それもそうだな。君はただの男ではなかった。ニハルの恋人だったな」
そして、オルバサンは何も言わずに、その場を立ち去った。
彼の顔にはどこか寂しそうな色が浮かんでいた。
当の本人はめんどくさがっているが、参謀であるライカにせっつかれて、渋々動いているような状態である。
「民の声を聞くのは、領主としての務めよ、おねーさま。ちゃんと耳を傾けないと」
「そういうの全部飛ばして、みんなでのんびり気楽に過ごせば、それでよくない?」
「ダメ。けっこう大事な情報がいっぱいあるから、聞き逃さないで。それに、のんびり生きたいんだったら、それこそ民の不満を抑えないと、スローライフどころじゃなくなっちゃうわよ」
「はあい」
なんだかんだ文句を言いつつも、ニハルは積極的に、色々な人に声をかけている。
人によって、訴え出てくることは様々だった。寝床が足りない、食糧が足りない、といったことから、家の分配でなかなかみんなの意見が合わない、といった悩みまで、多種多様。そして、どれもがすぐには解決しがたい、難しい問題ばかりであった。
だが、ライカが的確に、相手に対して助言をしてくれた。おかげで、人々の訴えかけのうち、実に七割方は解決へ向けて進むこととなった。残り三割は、いますぐには解決は難しいものであったり、本拠地に戻って他の人の意見を聞く必要があるものだったりする。
「ライカって、ほんと、頭いいよね。感心しちゃう」
「えへへ、もっと褒めてください、おねーさま♡」
「頼りにしてるからね、ライカ♪」
「まかせて、おねーさま♡」
そんな二人のやり取りを横目で見ながら、オルバサンは、ニハルが連れてきた護衛バニー達のほうへと意識を向けていた。
(格好は破廉恥だが、なかなか、優秀な人材が揃っているようだな)
すでに護衛バニー達の紹介は受けている。
まずは親衛隊長のアイヴィー。身のこなしは中の上といったところだが、言葉の端々から、高い知性を感じさせる。総合的にバランスの取れた能力を持っている女性のようだ。
次に、クークー。東国ファンロンの出身とのことで、歩き方ひとつ取っても武芸を極めた者としての風格を漂わせている。かなり強いことがわかる。
そして、イスカだ。見た目は少女のようだが、実は男で、しかもニハルの恋人というのだから、驚きだ。オルバサンから見れば、まだまだ未熟な雰囲気は漂っているものの、十分戦える力は持っているようだ。
この三人は、全体の内の一部とのことだ。特に強いバニーガールで、クイナという女剣士がいるとのことだが、彼女はあいにく領内を巡回している最中らしい。
(ニハルの持つ人的魅力がなせるのだろうな)
一目見て優秀だとわかる人物は稀な存在だ。なかなか、ここまでの人材は揃わない。
それもこれも、ニハル自身に魅力があるからだと、オルバサンは確信を抱いている。
「ニハル。この先は何を考えているんだ」
オルバサンに尋ねられたニハルは、キョトンとした表情で、振り返ってきた。
「この先、って、どういうこと?」
「なにか戦略があって、この領地を治めているのではないのか」
「私、単に、スローライフを送りたいから、自分の土地を手に入れただけだよ」
「スローライフ?」
「そ、ゆったりまったりした人生。誰かと争ったり、戦ったり、そんなめんどくさいことしたくないもの」
「メルセゲル王国の再興はどうする?」
「うーん……オル君に任せちゃおっかな」
「俺はただの従兄だ。後継者の候補には入っていない。国王がご存命かどうかわからぬいま、王国にとって唯一の希望は、ニハル、お前なんだぞ」
「えー……」
明らかにニハルは、メルセゲル王国を復活させることには興味がない様子だ。
オルバサンは混乱した。なぜ、ニハルはこんなにも、拒否反応を示しているのか。亡き王国を愛していないのか。オルバサンはメルセゲル王国に対する愛国心が強いだけに、ニハルの気持ちがよく理解できずにいる。
ニハルは亡国の姫である。その立場として果たすべき責務があるのではないかと、オルバサンは考えている。
「そんなことでは困る。俺達を率いてくれ。ネフティス王国が奪った土地を取り返し、メルセゲル王国を再興してほしい」
「やだ」
キッパリとニハルは断ってきた。
そんな彼女に対して、なおオルバサンは説教を重ねようとしたが、間にイスカが割りこんできた。
「やめてくれませんか。ニハルさんがいやがってる」
ムッとしたオルバサンは、イスカのことを睨みつけた。
「これは、メルセゲル王国に関する話だ。君には関係ない」
「僕に関係あるかどうかは、重要じゃない。問題は、あなたの話で、ニハルさんがいやな気持ちになっている、ということです。これ以上、しつこく話すのは、やめてください」
「君はニハルの護衛だったな。まさか、彼女の心を守ることも、自分の務めだと思っているのか」
「当然です。それに、僕はただの護衛じゃない。ニハルさんの恋人だ」
最後の言葉は、特に強調するように、イスカは言い放った。
しばらくの間、オルバサンは無言で、イスカのことを見つめていた。
やがて、ため息をつき、苦笑しながらかぶりを振った。
「それもそうだな。君はただの男ではなかった。ニハルの恋人だったな」
そして、オルバサンは何も言わずに、その場を立ち去った。
彼の顔にはどこか寂しそうな色が浮かんでいた。
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