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第77話 侵攻するサゼフト王国
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真夜中の国境付近――
バニーガール姿のクイナは、ラクダに乗って、砂漠を進んでいる。領内を巡回して回っている彼女は、人材を探すのと同時に、異変がないかを見張る役目を担っている。
この役目は、彼女が自ら志願したものだ。
イスカへの想いが遂げられない以上は、近くにいてもしょうがない。ニハルとの愛を育む様を、間近で見ていることほどつらいものはない。
だから、出来るだけ外での仕事をしたかった。
「ふう……だいぶ遠くまで来たな」
ラクダの足を止めたクイナは、しばらく地平線へと目を凝らしていた。
砂漠を風が流れてゆく。満天の星空の下、清々しさと心地良さを感じ、深呼吸をした。故郷である桜花国も美しい場所であるが、この大陸もまた規模の大きな絶景が随所に見られて、実に壮観だ。
できることなら、この風景を、イスカと一緒に眺めたかったものだが……
「さて、そろそろ戻るか」
ラクダの手綱を引いて、引き返そうとした瞬間、クイナは「ん?」と眉をひそめた。
ぼんやりと地平線が明るくなっている。
「あれは……?」
よく見てみると、黒い豆粒のようなものが砂漠を埋め尽くして、こちらへ向かってきている。
「まさか、軍隊か⁉」
クイナはもう一度地平線のほうを凝視した。
間違いない。どこかの国の軍隊だ。それが、まっすぐこちらへと進軍している。
「演習……とかではないな。あれは、どう見ても、侵攻……」
ラクダの向きを変えて、コリドール目指して、急がせる。
一刻も早く、この事態をニハルに伝える必要があった。
※ ※ ※
「攻め込まれようとしてる? うちの領地が?」
クイナの報告を受け、ニハルは目を丸くした。
領内の視察を終えて、本拠地である館へと戻ってきたばかりである。そこへもたらされた凶変の報せ。
「クイナがいた場所から考えて、方向的にも、攻めてきているのはサゼフト王国で間違いないわね」
聞き取りを行ったライカが、相手の正体を看破する。
しかし、相手国がわかったところで、かえって謎が深まってきた。
「ライカ、どうしてサゼフト王国がうちの領地を攻めてくるの?」
「向こうとしてはガルズバル帝国を攻めているつもりじゃないのかな」
「それにしたって、急じゃない。ガルズバルが何かサゼフトに仕掛けたのなら別だけど、特に挑発するようなこともしてないでしょ」
「うーん……軍備が整ったから、とかじゃないのかな……」
さすがのライカも、サゼフト王国が侵攻してくる理由までは簡単には推測できない様子である。
そこで、ユナが手を上げた。
「あの……私、知ってる」
「え?」
「ここへ来る前、サゼフト王国に行ってたから……何が起きたか、知ってるの」
そして、ユナは、女王ナイアーラを襲撃したバニーガールのことを話した。
もちろん、それがガルズバル帝国の陰謀である、ということは伏せている。そこまで話してしまったら、帝国への背信行為となってしまう。しかし、ユナとしては、このまますべてを黙っていることなど出来なかった。
「なによそれー! 私達は関係ないのに! 誰なのよ、そのバニーガール!」
「おねーさま、いますぐにでも使者を送って、ナイアーラ女王に説明しないと。うちの仕業じゃない、って」
「それもいいけど……待って! 私、名案を思いついた!」
「名案?」
この状況で、目をキラキラと輝かせているニハルに対して、ライカは首を傾げるのであった。
※ ※ ※
女王ナイアーラ自ら率いるサゼフト軍は、砂漠を脇目も振らずに進んでゆく。
ついに標的である、ニハルのカジノが見えてきた。
「ふふふ、いよいよじゃぞ。わらわの軍勢を相手に、どこまで立ち向かえるかのう? あるいは、おとなしく白旗を上げるかの」
奴隷達が担いでいる御輿の上で、ナイアーラはニヤリと笑った。
御輿は金色に輝く、派手な装飾を施されたものであり、およそ戦場には不釣り合いなものである。それでも、あえてナイアーラは、この御輿を奴隷達に運ばせている。自らの権威を誇示するためと、敵軍に対して威圧感を与えるためだ。
「進めい! 敵が抵抗してくるようなら、蹂躙せい!」
指揮の羽扇を掲げて、ナイアーラは号令をかける。
オー! と将兵達は声を上げて応じ、士気を高める。彼らの目的は、もっぱらバニーガール達である。攻め込む先にはとても色っぽいバニー達がいると聞いており、攻め落とせば、彼女らを奴隷に出来るかもしれない、という欲がある。そのため、非常に高いやる気を保っている。
「ナイアーラ様! 前方から何者かが近付いてきています!」
物見の兵士が、御輿の上のナイアーラへと告げる。
ナイアーラは望遠鏡を使って、砂漠の奥のほうを見てみた。
白いレオタード姿のバニーガールが、紫色のバニーガールを連れて、ラクダに乗ってこちらへと近付いてきている。
「おそらくニハルの使いじゃろう。わらわに話があるようじゃの。通せ」
「はっ!」
軍は縦に割れ、二人のバニーガールを通した。
ナイアーラの御輿の前へと進み出てきた白いバニーガールは、ナイアーラと目を合わせると、ニッコリと笑って自己紹介する。
「こんにちは。初めまして、だね。私はニハル。よろしくね」
「お主が……⁉」
まさか敵の大将自ら、護衛一人だけを連れて敵陣へと乗り込んでくるとは思わず、ナイアーラは目を丸くした。
さらに、ニハルは突拍子もないことを言い出した。
「うちのカジノへようこそ♪ ぜひ遊んでいってね♪」
呑気なニハルの言葉に、ナイアーラは内心、かなり戸惑っていた。
バニーガール姿のクイナは、ラクダに乗って、砂漠を進んでいる。領内を巡回して回っている彼女は、人材を探すのと同時に、異変がないかを見張る役目を担っている。
この役目は、彼女が自ら志願したものだ。
イスカへの想いが遂げられない以上は、近くにいてもしょうがない。ニハルとの愛を育む様を、間近で見ていることほどつらいものはない。
だから、出来るだけ外での仕事をしたかった。
「ふう……だいぶ遠くまで来たな」
ラクダの足を止めたクイナは、しばらく地平線へと目を凝らしていた。
砂漠を風が流れてゆく。満天の星空の下、清々しさと心地良さを感じ、深呼吸をした。故郷である桜花国も美しい場所であるが、この大陸もまた規模の大きな絶景が随所に見られて、実に壮観だ。
できることなら、この風景を、イスカと一緒に眺めたかったものだが……
「さて、そろそろ戻るか」
ラクダの手綱を引いて、引き返そうとした瞬間、クイナは「ん?」と眉をひそめた。
ぼんやりと地平線が明るくなっている。
「あれは……?」
よく見てみると、黒い豆粒のようなものが砂漠を埋め尽くして、こちらへ向かってきている。
「まさか、軍隊か⁉」
クイナはもう一度地平線のほうを凝視した。
間違いない。どこかの国の軍隊だ。それが、まっすぐこちらへと進軍している。
「演習……とかではないな。あれは、どう見ても、侵攻……」
ラクダの向きを変えて、コリドール目指して、急がせる。
一刻も早く、この事態をニハルに伝える必要があった。
※ ※ ※
「攻め込まれようとしてる? うちの領地が?」
クイナの報告を受け、ニハルは目を丸くした。
領内の視察を終えて、本拠地である館へと戻ってきたばかりである。そこへもたらされた凶変の報せ。
「クイナがいた場所から考えて、方向的にも、攻めてきているのはサゼフト王国で間違いないわね」
聞き取りを行ったライカが、相手の正体を看破する。
しかし、相手国がわかったところで、かえって謎が深まってきた。
「ライカ、どうしてサゼフト王国がうちの領地を攻めてくるの?」
「向こうとしてはガルズバル帝国を攻めているつもりじゃないのかな」
「それにしたって、急じゃない。ガルズバルが何かサゼフトに仕掛けたのなら別だけど、特に挑発するようなこともしてないでしょ」
「うーん……軍備が整ったから、とかじゃないのかな……」
さすがのライカも、サゼフト王国が侵攻してくる理由までは簡単には推測できない様子である。
そこで、ユナが手を上げた。
「あの……私、知ってる」
「え?」
「ここへ来る前、サゼフト王国に行ってたから……何が起きたか、知ってるの」
そして、ユナは、女王ナイアーラを襲撃したバニーガールのことを話した。
もちろん、それがガルズバル帝国の陰謀である、ということは伏せている。そこまで話してしまったら、帝国への背信行為となってしまう。しかし、ユナとしては、このまますべてを黙っていることなど出来なかった。
「なによそれー! 私達は関係ないのに! 誰なのよ、そのバニーガール!」
「おねーさま、いますぐにでも使者を送って、ナイアーラ女王に説明しないと。うちの仕業じゃない、って」
「それもいいけど……待って! 私、名案を思いついた!」
「名案?」
この状況で、目をキラキラと輝かせているニハルに対して、ライカは首を傾げるのであった。
※ ※ ※
女王ナイアーラ自ら率いるサゼフト軍は、砂漠を脇目も振らずに進んでゆく。
ついに標的である、ニハルのカジノが見えてきた。
「ふふふ、いよいよじゃぞ。わらわの軍勢を相手に、どこまで立ち向かえるかのう? あるいは、おとなしく白旗を上げるかの」
奴隷達が担いでいる御輿の上で、ナイアーラはニヤリと笑った。
御輿は金色に輝く、派手な装飾を施されたものであり、およそ戦場には不釣り合いなものである。それでも、あえてナイアーラは、この御輿を奴隷達に運ばせている。自らの権威を誇示するためと、敵軍に対して威圧感を与えるためだ。
「進めい! 敵が抵抗してくるようなら、蹂躙せい!」
指揮の羽扇を掲げて、ナイアーラは号令をかける。
オー! と将兵達は声を上げて応じ、士気を高める。彼らの目的は、もっぱらバニーガール達である。攻め込む先にはとても色っぽいバニー達がいると聞いており、攻め落とせば、彼女らを奴隷に出来るかもしれない、という欲がある。そのため、非常に高いやる気を保っている。
「ナイアーラ様! 前方から何者かが近付いてきています!」
物見の兵士が、御輿の上のナイアーラへと告げる。
ナイアーラは望遠鏡を使って、砂漠の奥のほうを見てみた。
白いレオタード姿のバニーガールが、紫色のバニーガールを連れて、ラクダに乗ってこちらへと近付いてきている。
「おそらくニハルの使いじゃろう。わらわに話があるようじゃの。通せ」
「はっ!」
軍は縦に割れ、二人のバニーガールを通した。
ナイアーラの御輿の前へと進み出てきた白いバニーガールは、ナイアーラと目を合わせると、ニッコリと笑って自己紹介する。
「こんにちは。初めまして、だね。私はニハル。よろしくね」
「お主が……⁉」
まさか敵の大将自ら、護衛一人だけを連れて敵陣へと乗り込んでくるとは思わず、ナイアーラは目を丸くした。
さらに、ニハルは突拍子もないことを言い出した。
「うちのカジノへようこそ♪ ぜひ遊んでいってね♪」
呑気なニハルの言葉に、ナイアーラは内心、かなり戸惑っていた。
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