上 下
77 / 101

第77話 侵攻するサゼフト王国

しおりを挟む
 真夜中の国境付近――

 バニーガール姿のクイナは、ラクダに乗って、砂漠を進んでいる。領内を巡回して回っている彼女は、人材を探すのと同時に、異変がないかを見張る役目を担っている。

 この役目は、彼女が自ら志願したものだ。

 イスカへの想いが遂げられない以上は、近くにいてもしょうがない。ニハルとの愛を育む様を、間近で見ていることほどつらいものはない。

 だから、出来るだけ外での仕事をしたかった。

「ふう……だいぶ遠くまで来たな」

 ラクダの足を止めたクイナは、しばらく地平線へと目を凝らしていた。

 砂漠を風が流れてゆく。満天の星空の下、清々しさと心地良さを感じ、深呼吸をした。故郷である桜花国も美しい場所であるが、この大陸もまた規模の大きな絶景が随所に見られて、実に壮観だ。

 できることなら、この風景を、イスカと一緒に眺めたかったものだが……

「さて、そろそろ戻るか」

 ラクダの手綱を引いて、引き返そうとした瞬間、クイナは「ん?」と眉をひそめた。

 ぼんやりと地平線が明るくなっている。

「あれは……?」

 よく見てみると、黒い豆粒のようなものが砂漠を埋め尽くして、こちらへ向かってきている。

「まさか、軍隊か⁉」

 クイナはもう一度地平線のほうを凝視した。

 間違いない。どこかの国の軍隊だ。それが、まっすぐこちらへと進軍している。

「演習……とかではないな。あれは、どう見ても、侵攻……」

 ラクダの向きを変えて、コリドール目指して、急がせる。

 一刻も早く、この事態をニハルに伝える必要があった。

 ※ ※ ※

「攻め込まれようとしてる? うちの領地が?」

 クイナの報告を受け、ニハルは目を丸くした。

 領内の視察を終えて、本拠地である館へと戻ってきたばかりである。そこへもたらされた凶変の報せ。

「クイナがいた場所から考えて、方向的にも、攻めてきているのはサゼフト王国で間違いないわね」

 聞き取りを行ったライカが、相手の正体を看破する。

 しかし、相手国がわかったところで、かえって謎が深まってきた。

「ライカ、どうしてサゼフト王国がうちの領地を攻めてくるの?」
「向こうとしてはガルズバル帝国を攻めているつもりじゃないのかな」
「それにしたって、急じゃない。ガルズバルが何かサゼフトに仕掛けたのなら別だけど、特に挑発するようなこともしてないでしょ」
「うーん……軍備が整ったから、とかじゃないのかな……」

 さすがのライカも、サゼフト王国が侵攻してくる理由までは簡単には推測できない様子である。

 そこで、ユナが手を上げた。

「あの……私、知ってる」
「え?」
「ここへ来る前、サゼフト王国に行ってたから……何が起きたか、知ってるの」

 そして、ユナは、女王ナイアーラを襲撃したバニーガールのことを話した。

 もちろん、それがガルズバル帝国の陰謀である、ということは伏せている。そこまで話してしまったら、帝国への背信行為となってしまう。しかし、ユナとしては、このまますべてを黙っていることなど出来なかった。

「なによそれー! 私達は関係ないのに! 誰なのよ、そのバニーガール!」
「おねーさま、いますぐにでも使者を送って、ナイアーラ女王に説明しないと。うちの仕業じゃない、って」
「それもいいけど……待って! 私、名案を思いついた!」
「名案?」

 この状況で、目をキラキラと輝かせているニハルに対して、ライカは首を傾げるのであった。

 ※ ※ ※

 女王ナイアーラ自ら率いるサゼフト軍は、砂漠を脇目も振らずに進んでゆく。

 ついに標的である、ニハルのカジノが見えてきた。

「ふふふ、いよいよじゃぞ。わらわの軍勢を相手に、どこまで立ち向かえるかのう? あるいは、おとなしく白旗を上げるかの」

 奴隷達が担いでいる御輿の上で、ナイアーラはニヤリと笑った。

 御輿は金色に輝く、派手な装飾を施されたものであり、およそ戦場には不釣り合いなものである。それでも、あえてナイアーラは、この御輿を奴隷達に運ばせている。自らの権威を誇示するためと、敵軍に対して威圧感を与えるためだ。

「進めい! 敵が抵抗してくるようなら、蹂躙せい!」

 指揮の羽扇を掲げて、ナイアーラは号令をかける。

 オー! と将兵達は声を上げて応じ、士気を高める。彼らの目的は、もっぱらバニーガール達である。攻め込む先にはとても色っぽいバニー達がいると聞いており、攻め落とせば、彼女らを奴隷に出来るかもしれない、という欲がある。そのため、非常に高いやる気を保っている。

「ナイアーラ様! 前方から何者かが近付いてきています!」

 物見の兵士が、御輿の上のナイアーラへと告げる。

 ナイアーラは望遠鏡を使って、砂漠の奥のほうを見てみた。

 白いレオタード姿のバニーガールが、紫色のバニーガールを連れて、ラクダに乗ってこちらへと近付いてきている。

「おそらくニハルの使いじゃろう。わらわに話があるようじゃの。通せ」
「はっ!」

 軍は縦に割れ、二人のバニーガールを通した。

 ナイアーラの御輿の前へと進み出てきた白いバニーガールは、ナイアーラと目を合わせると、ニッコリと笑って自己紹介する。

「こんにちは。初めまして、だね。私はニハル。よろしくね」
「お主が……⁉」

 まさか敵の大将自ら、護衛一人だけを連れて敵陣へと乗り込んでくるとは思わず、ナイアーラは目を丸くした。

 さらに、ニハルは突拍子もないことを言い出した。

「うちのカジノへようこそ♪ ぜひ遊んでいってね♪」

 呑気なニハルの言葉に、ナイアーラは内心、かなり戸惑っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

何故、わたくしだけが貴方の事を特別視していると思われるのですか?

ラララキヲ
ファンタジー
王家主催の夜会で婚約者以外の令嬢をエスコートした侯爵令息は、突然自分の婚約者である伯爵令嬢に婚約破棄を宣言した。 それを受けて婚約者の伯爵令嬢は自分の婚約者に聞き返す。 「返事……ですか?わたくしは何を言えばいいのでしょうか?」 侯爵令息の胸に抱かれる子爵令嬢も一緒になって婚約破棄を告げられた令嬢を責め立てる。しかし伯爵令嬢は首を傾げて問返す。 「何故わたくしが嫉妬すると思われるのですか?」 ※この世界の貴族は『完全なピラミッド型』だと思って下さい…… ◇テンプレ婚約破棄モノ。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

ちょっと神様!私もうステータス調整されてるんですが!!

べちてん
ファンタジー
アニメ、マンガ、ラノベに小説好きの典型的な陰キャ高校生の西園千成はある日河川敷に花見に来ていた。人混みに酔い、体調が悪くなったので少し離れた路地で休憩していたらいつの間にか神域に迷い込んでしまっていた!!もう元居た世界には戻れないとのことなので魔法の世界へ転移することに。申し訳ないとか何とかでステータスを古龍の半分にしてもらったのだが、別の神様がそれを知らずに私のステータスをそこからさらに2倍にしてしまった!ちょっと神様!もうステータス調整されてるんですが!!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

ヴァーチャル美少女キャラにTSおっさん 世紀末なゲーム世界をタクティカルに攻略(&実況)して乗り切ります!

EPIC
SF
――Vtub〇r?ボイス〇イド?……的な美少女になってしまったTSおっさん Fall〇utな世紀末世界観のゲームに転移してしまったので、ゲームの登場人物に成りきってる系(というかなってる系)実況攻略でタクティカルに乗り切ります 特典は、最推し美少女キャラの相棒付き?――  音声合成ソフトキャラクターのゲーム実況動画が好きな、そろそろ三十路のおっさん――未知 星図。  彼はそれに影響され、自分でも音声合成ソフトで実況動画を作ろうとした。  しかし気づけば星図はそのゲームの世界に入り込み、そして最推しの音声合成ソフトキャラクターと一緒にいた。  さらにおまけに――彼自身も、何らかのヴァーチャル美少女キャラクターへとTSしていたのだ。  入り込んでしまったゲーム世界は、荒廃してしまった容赦の無い世紀末な世界観。  果たして二人の運命や如何に?  Vtuberとかボイスロイド実況動画に影響されて書き始めたお話です。

処理中です...