75 / 102
第75話 ヤキモチ
しおりを挟む
「ニハルは、王国では姫だったんだぞ」
オルバサンが重ねて説明する。
「メルセゲル王国のお姫様あ⁉」
親衛隊長のアイヴィーが、驚きの声を上げた。
他の者達も衝撃で目を丸くしている。
ニハルの側についているのは、参謀のライカに、親衛隊長のアイヴィー、そしてボディガードのイスカ。みんな、ニハルが亡国の姫であるという情報は初耳だったようで、動揺を隠しきれていない。
「どうしたの?」
何か変なことでも? と問いたげな顔で、ニハルは首を傾げた。
「おねーさま! どうして、そんな大事な情報を、いままで隠してたの!」
「あれ? みんなに話してなかったっけ?」
「全然、聞いてない!」
「あ、そっか。ルドルフだけが私の正体知ってたんだ。あはは、ごめんごめん」
「ごめんじゃないわよ、おねーさまぁ!」
プリプリと怒るライカに対して、ニハルは実にあっけらかんとした様子である。
「そうなの。私、本当は、メルセゲル王国の姫で、王位継承権もあったんだけど、国が滅ぼされちゃったから放浪の旅に出て……で、色々あって、カジノで奴隷バニーとして働いていた、ってわけ」
「カジノで、奴隷……!」
ニハルが受けていた仕打ちを知り、オルバサンはクラクラとめまいを感じているような表情になった。奴隷バニーという単語は、彼にとってだいぶショッキングだったようである。
「すまない、俺が、ちゃんとお前の側についていれば、そんなつらい目にはあわせなかったのに……!」
「いいよ、気にしないで、オル君。こうして無事に再会できたんだから」
(この二人って、随分仲がいいんだ……?)
ユナは、ニハルとオルバサンの会話を聞きながら、二人の関係性を推し量っている。ニハルは相変わらずオルバサンのことをギュッと抱き締めて、離そうとしない。かなり親密な様子である。
ふと、イスカのことが気になって、ユナは彼のほうを見てみた。
彼は、表面上はニコニコして、特に心乱されている感じではない。しかし、ニハルの恋人であるというイスカのことだ、内心は思うところがあるのかもしれない。
「彼のことは、私が保証するわ。縄を解いてあげて」
他ならぬニハルの頼みとあらば、聞かないわけにはいかない。
せっかく捕らえたオルバサンではあるが、その縄を解くこととなった。
「ニハル。もしかして、コリドールに新たに赴任したという領主は、お前なのか」
「そうだよ。全然知らなかったの?」
「名前までは聞いていなかった。カジノから来た女だ、ということだけは伝わっていたが、まさか、それがお前だとは思いもしなかったよ」
「たしかに、一緒だとは思わないよね」
「何があったのか、順を追って説明してくれないか」
「いいよ。カジノをどうやって抜け出したのか、そこから教えるね」
ニハルは目を輝かせながら、自分の武勇伝を語り始める。
その話は、トール達も初めて聞くものであったので、みんな彼女のことを囲んで、語られる内容に聞き入っていた。
ただ、イスカだけは、そっとその場から離れた。
ユナは、彼のことが気になり、後を追った。
民家の陰に隠れるようにして、イスカは壁に寄りかかり、はあ、とため息をついている。
「話を聞かないの?」
いきなりユナに声をかけられ、自分一人だと思いこんでいたか、イスカはビクンと体を震わせた。
「ど、どうしたの、そっちこそ」
「うーん。君のことが気になって」
「やだなあ……見ないでほしかったけど……」
イスカは照れくさそうに苦笑する。
「けっこう妬いてる?」
「……ちょっとね」
「ニハルって浮気性だったりしない? 大丈夫?」
「ううん、そこは全然心配していないけど、ただ、なんだろう……」
はあ、とまたイスカはため息をつく。
「僕の知らないニハルさんを、あのオルバサンって人は知ってるんだ、っていうのが、うらやましくて」
「でも、いいじゃない。ニハルとは恋人同士なんでしょ。それこそ、もっと深い関係にあるわけじゃない」
「うん……まあ……」
「エッチとか、もうしたの?」
「ふえ⁉」
唐突に、ストレートなことを聞かれて、イスカは目を白黒させている。
「いや、恋人同士なら、エッチくらいしてるかな、って」
「キスくらいは、したことあるけど……」
「えええ⁉ まだエッチしてないの⁉ なんで⁉」
「それは……」
と言いよどんだ様子を見て、ユナは勝手に自分なりの解釈をした。
ああ、なるほど、実はニハルとイスカは、それほど上手くいってないんだな、と。
「君も、色々と大変なんだね」
「うん……まあ……」
どうにもイスカは歯切れが悪い。
そんな彼のことを見ていると、ユナは、ちょっとからかいたくなってきた。
「なに? なに? 悩みでもあるの? 私でよかったら、聞くよ」
「ユナさんには……話すとまずいから……」
「大丈夫。私、約束したことは絶対に他の人には話したりしないから」
「そういう問題じゃなくて……なんて言えばいいんだろ……」
なお、イスカは話すことをためらっている。
「どっちかが、エッチが下手とか?」
「ち、違うよ! そういうことじゃなくって!」
「もー、勿体ぶらないで。教えて」
「……ごめん!」
とうとう、強引に話を中断し、イスカはユナの前から去っていった。
あらら、とユナは肩をすくめた。彼のことを怒らせてしまったかもしれない。でも、あんな態度を取られたら、突っ込まずにはいられなかった。
「なんだか目が離せなくなってきたわね」
ユナはクスッと笑う。だんだんと、ニハル達に対する好感度が高まってきており、彼女らの行く末が気になりつつあった。
オルバサンが重ねて説明する。
「メルセゲル王国のお姫様あ⁉」
親衛隊長のアイヴィーが、驚きの声を上げた。
他の者達も衝撃で目を丸くしている。
ニハルの側についているのは、参謀のライカに、親衛隊長のアイヴィー、そしてボディガードのイスカ。みんな、ニハルが亡国の姫であるという情報は初耳だったようで、動揺を隠しきれていない。
「どうしたの?」
何か変なことでも? と問いたげな顔で、ニハルは首を傾げた。
「おねーさま! どうして、そんな大事な情報を、いままで隠してたの!」
「あれ? みんなに話してなかったっけ?」
「全然、聞いてない!」
「あ、そっか。ルドルフだけが私の正体知ってたんだ。あはは、ごめんごめん」
「ごめんじゃないわよ、おねーさまぁ!」
プリプリと怒るライカに対して、ニハルは実にあっけらかんとした様子である。
「そうなの。私、本当は、メルセゲル王国の姫で、王位継承権もあったんだけど、国が滅ぼされちゃったから放浪の旅に出て……で、色々あって、カジノで奴隷バニーとして働いていた、ってわけ」
「カジノで、奴隷……!」
ニハルが受けていた仕打ちを知り、オルバサンはクラクラとめまいを感じているような表情になった。奴隷バニーという単語は、彼にとってだいぶショッキングだったようである。
「すまない、俺が、ちゃんとお前の側についていれば、そんなつらい目にはあわせなかったのに……!」
「いいよ、気にしないで、オル君。こうして無事に再会できたんだから」
(この二人って、随分仲がいいんだ……?)
ユナは、ニハルとオルバサンの会話を聞きながら、二人の関係性を推し量っている。ニハルは相変わらずオルバサンのことをギュッと抱き締めて、離そうとしない。かなり親密な様子である。
ふと、イスカのことが気になって、ユナは彼のほうを見てみた。
彼は、表面上はニコニコして、特に心乱されている感じではない。しかし、ニハルの恋人であるというイスカのことだ、内心は思うところがあるのかもしれない。
「彼のことは、私が保証するわ。縄を解いてあげて」
他ならぬニハルの頼みとあらば、聞かないわけにはいかない。
せっかく捕らえたオルバサンではあるが、その縄を解くこととなった。
「ニハル。もしかして、コリドールに新たに赴任したという領主は、お前なのか」
「そうだよ。全然知らなかったの?」
「名前までは聞いていなかった。カジノから来た女だ、ということだけは伝わっていたが、まさか、それがお前だとは思いもしなかったよ」
「たしかに、一緒だとは思わないよね」
「何があったのか、順を追って説明してくれないか」
「いいよ。カジノをどうやって抜け出したのか、そこから教えるね」
ニハルは目を輝かせながら、自分の武勇伝を語り始める。
その話は、トール達も初めて聞くものであったので、みんな彼女のことを囲んで、語られる内容に聞き入っていた。
ただ、イスカだけは、そっとその場から離れた。
ユナは、彼のことが気になり、後を追った。
民家の陰に隠れるようにして、イスカは壁に寄りかかり、はあ、とため息をついている。
「話を聞かないの?」
いきなりユナに声をかけられ、自分一人だと思いこんでいたか、イスカはビクンと体を震わせた。
「ど、どうしたの、そっちこそ」
「うーん。君のことが気になって」
「やだなあ……見ないでほしかったけど……」
イスカは照れくさそうに苦笑する。
「けっこう妬いてる?」
「……ちょっとね」
「ニハルって浮気性だったりしない? 大丈夫?」
「ううん、そこは全然心配していないけど、ただ、なんだろう……」
はあ、とまたイスカはため息をつく。
「僕の知らないニハルさんを、あのオルバサンって人は知ってるんだ、っていうのが、うらやましくて」
「でも、いいじゃない。ニハルとは恋人同士なんでしょ。それこそ、もっと深い関係にあるわけじゃない」
「うん……まあ……」
「エッチとか、もうしたの?」
「ふえ⁉」
唐突に、ストレートなことを聞かれて、イスカは目を白黒させている。
「いや、恋人同士なら、エッチくらいしてるかな、って」
「キスくらいは、したことあるけど……」
「えええ⁉ まだエッチしてないの⁉ なんで⁉」
「それは……」
と言いよどんだ様子を見て、ユナは勝手に自分なりの解釈をした。
ああ、なるほど、実はニハルとイスカは、それほど上手くいってないんだな、と。
「君も、色々と大変なんだね」
「うん……まあ……」
どうにもイスカは歯切れが悪い。
そんな彼のことを見ていると、ユナは、ちょっとからかいたくなってきた。
「なに? なに? 悩みでもあるの? 私でよかったら、聞くよ」
「ユナさんには……話すとまずいから……」
「大丈夫。私、約束したことは絶対に他の人には話したりしないから」
「そういう問題じゃなくて……なんて言えばいいんだろ……」
なお、イスカは話すことをためらっている。
「どっちかが、エッチが下手とか?」
「ち、違うよ! そういうことじゃなくって!」
「もー、勿体ぶらないで。教えて」
「……ごめん!」
とうとう、強引に話を中断し、イスカはユナの前から去っていった。
あらら、とユナは肩をすくめた。彼のことを怒らせてしまったかもしれない。でも、あんな態度を取られたら、突っ込まずにはいられなかった。
「なんだか目が離せなくなってきたわね」
ユナはクスッと笑う。だんだんと、ニハル達に対する好感度が高まってきており、彼女らの行く末が気になりつつあった。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~
トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。
旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。
この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。
こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる