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第70話 苛立つアーフリード
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さて、一方、ガルズバル騎士団では――
騎士団長のアーフリードは、毎日上がってくる無意味な報告に、苛立ちを隠しきれずにいた。
「今日も、何もなしか……!」
密偵による報告を受けた後、団長室の中をウロウロしながら、アーフリードは吐き捨てるように言った。
ユナが砂上船で失踪してから、三日は経つ。なぜ、急にいなくなったのか、いったい何が起きたのか、まったく原因はわかっていない。
そもそもユナは自分の次に強いから、滅多なことではやられたりしないはずだ。誰かにさらわれたとは考えにくい。
だとしたら、自分から姿を消したのだろうか。
いや、それはもっと考えられない。ユナが何も言わずに自分の側から離れるなんてありえないことだ。それだけ、二人は深い絆で結ばれている。深く愛し合っている。
(だとすると、考えにくかろうが、何者かに拉致された……という線が濃厚、というわけか)
その結論に達したところで、コンコンと、ドアを叩く音が聞こえた。
「入りたまえ」
団長室に入ってきたのは、トゥナだった。サゼフト王国奇襲時はバニースーツを着ていたが、いまはもう、普通に騎士としての格好をしている。
「わしの使い魔に、念のためコリドールを偵察させた。そうしたら、見つかったぞ」
「ユナがいたのか⁉」
「ああ。どうやら、ニハル一派に捕まっているようじゃ」
アーフリードは、ユナの無事がわかって安心する反面、ニハル一派のところにいると聞いて、不安に襲われた。
ユナは、サゼフト王国に仕掛けた策略のことを知っている。それがニハル一派にバレてしまうのは、別に大したことではないけれど、問題は、騎士団がそんな手を使ったと知った時に、ユナがどのような扱いを受けるか、ということである。
より情報を搾り出すために、拷問を受けてしまうか、あるいは報復や見せしめとして処刑されるか……。
「助けに行かないと!」
慌てて飛び出そうとするアーフリードを、トゥナはその腕を掴んで制止した。
「落ち着けい。おぬしが行って、どうにかなるものでもない」
「私なら、全員倒して、ユナを連れて帰ることが出来る!」
「軽率にそのような行動を取るな。おぬしの行動はすべて他国に筒抜けになっていると思えい。すでにユナが弱点であると外に知れ渡っているかもしれぬ。その上、おぬしが騎士団長としての務めを放棄して飛び出しでもしたら、他国はユナさえさらえば騎士団を突き崩すことができると知り、ますますユナが危険にさらされるかもしれない。慎重に動くべきじゃ」
「……そうだね、その通りだ。すまない」
アーフリードは気持ちを落ち着かせるために、深呼吸した。
「トゥナは、どうすればいいと思う?」
「それをいまの時点で論じるのは、遅すぎるぞ」
「もしかして……もう、何か手を打っているとか?」
「うむ。実はコリドールに、大量の移民が押し寄せておる。元々、コリドールに住んでいた者達で、一度は土地を離れていたが、ニハルが領主になったことで、再び帰ってこようとしている連中じゃ。その中に、わしの使い魔を一体、混ぜておいた」
「その使い魔に、ユナを助け出させる……?」
「急くな。気になることがあっての。すぐには助け出さない」
「なぜ?」
「ユナの強さなら、とっくの昔にコリドールから逃げ出していてもおかしくはない。しかし、なぜかおとなしくとどまっておる。いやな予感がするのじゃ」
トゥナの洞察力が高いことを、アーフリードは知っている。だから、彼女が何かを感じているというのなら、それは正しいのだろう、と信じた。
「わかった。この件は、トゥナに任せる。引き続き、何かわかったら教えてほしい」
「任せるのじゃ。ユナを助けるだけではなく、ニハル一派の狙いも丸裸にしてみせようぞ」
そう言って、トゥナはウィンクするのであった。
※ ※ ※
コリドールの領内にある、とある廃村。
平野部の川沿いに位置する、その村は、水車や穀物の倉庫があり、住民がいた頃は活気があったのであろうことが推測される。
しかし、いまや水車はボロボロに壊れて回っておらず、穀物倉庫にもツタが生い茂っている。だいぶ長いこと放置されていることが窺える。
そんな廃村であるが、盗賊団が根城として使っている。
彼らはそこで生産活動を行うことには興味がないようで、ただ寝床さえあればそれでいい、という考えのようだ。ゆえに、荒れ放題のままにしている。
「ふわーあ、今日も暇だな……ん?」
見張り台の上であくびをした盗賊は、ふと、草原の道を一人の少女が歩いてくるのを見て、眉をひそめた。
格好からして、ガルズバル騎士団の人間のようだ。
「うおお⁉ マジかよ!」
慌てて鐘を鳴らす。
まさか、こんな小さな土地を奪還しに、騎士団が派遣されてくるとは思ってもいなかった。突然の来襲に、いち早く備えるべく、仲間達へと危険を知らせる。
ひとしきり鐘を鳴らし終えたところで、もう一度、草原のほうへと盗賊は目をやった。
「あれ……?」
さっきまで道を歩いていたはずの少女騎士は、いつの間にか姿を消している。
どういうことだ? と不思議に思った、その瞬間。
物見台の上に、少女騎士が飛び乗ってきた。
「わあああ⁉」
驚きの声を上げた盗賊は、直後、物見台の上から叩き落とされた。
そこから、超スピードで、少女騎士は廃村内を駆け回り、次々と盗賊達を倒していく。
戦闘開始からわずか数分で、少女騎士――ユナは、廃村を制圧した。
騎士団長のアーフリードは、毎日上がってくる無意味な報告に、苛立ちを隠しきれずにいた。
「今日も、何もなしか……!」
密偵による報告を受けた後、団長室の中をウロウロしながら、アーフリードは吐き捨てるように言った。
ユナが砂上船で失踪してから、三日は経つ。なぜ、急にいなくなったのか、いったい何が起きたのか、まったく原因はわかっていない。
そもそもユナは自分の次に強いから、滅多なことではやられたりしないはずだ。誰かにさらわれたとは考えにくい。
だとしたら、自分から姿を消したのだろうか。
いや、それはもっと考えられない。ユナが何も言わずに自分の側から離れるなんてありえないことだ。それだけ、二人は深い絆で結ばれている。深く愛し合っている。
(だとすると、考えにくかろうが、何者かに拉致された……という線が濃厚、というわけか)
その結論に達したところで、コンコンと、ドアを叩く音が聞こえた。
「入りたまえ」
団長室に入ってきたのは、トゥナだった。サゼフト王国奇襲時はバニースーツを着ていたが、いまはもう、普通に騎士としての格好をしている。
「わしの使い魔に、念のためコリドールを偵察させた。そうしたら、見つかったぞ」
「ユナがいたのか⁉」
「ああ。どうやら、ニハル一派に捕まっているようじゃ」
アーフリードは、ユナの無事がわかって安心する反面、ニハル一派のところにいると聞いて、不安に襲われた。
ユナは、サゼフト王国に仕掛けた策略のことを知っている。それがニハル一派にバレてしまうのは、別に大したことではないけれど、問題は、騎士団がそんな手を使ったと知った時に、ユナがどのような扱いを受けるか、ということである。
より情報を搾り出すために、拷問を受けてしまうか、あるいは報復や見せしめとして処刑されるか……。
「助けに行かないと!」
慌てて飛び出そうとするアーフリードを、トゥナはその腕を掴んで制止した。
「落ち着けい。おぬしが行って、どうにかなるものでもない」
「私なら、全員倒して、ユナを連れて帰ることが出来る!」
「軽率にそのような行動を取るな。おぬしの行動はすべて他国に筒抜けになっていると思えい。すでにユナが弱点であると外に知れ渡っているかもしれぬ。その上、おぬしが騎士団長としての務めを放棄して飛び出しでもしたら、他国はユナさえさらえば騎士団を突き崩すことができると知り、ますますユナが危険にさらされるかもしれない。慎重に動くべきじゃ」
「……そうだね、その通りだ。すまない」
アーフリードは気持ちを落ち着かせるために、深呼吸した。
「トゥナは、どうすればいいと思う?」
「それをいまの時点で論じるのは、遅すぎるぞ」
「もしかして……もう、何か手を打っているとか?」
「うむ。実はコリドールに、大量の移民が押し寄せておる。元々、コリドールに住んでいた者達で、一度は土地を離れていたが、ニハルが領主になったことで、再び帰ってこようとしている連中じゃ。その中に、わしの使い魔を一体、混ぜておいた」
「その使い魔に、ユナを助け出させる……?」
「急くな。気になることがあっての。すぐには助け出さない」
「なぜ?」
「ユナの強さなら、とっくの昔にコリドールから逃げ出していてもおかしくはない。しかし、なぜかおとなしくとどまっておる。いやな予感がするのじゃ」
トゥナの洞察力が高いことを、アーフリードは知っている。だから、彼女が何かを感じているというのなら、それは正しいのだろう、と信じた。
「わかった。この件は、トゥナに任せる。引き続き、何かわかったら教えてほしい」
「任せるのじゃ。ユナを助けるだけではなく、ニハル一派の狙いも丸裸にしてみせようぞ」
そう言って、トゥナはウィンクするのであった。
※ ※ ※
コリドールの領内にある、とある廃村。
平野部の川沿いに位置する、その村は、水車や穀物の倉庫があり、住民がいた頃は活気があったのであろうことが推測される。
しかし、いまや水車はボロボロに壊れて回っておらず、穀物倉庫にもツタが生い茂っている。だいぶ長いこと放置されていることが窺える。
そんな廃村であるが、盗賊団が根城として使っている。
彼らはそこで生産活動を行うことには興味がないようで、ただ寝床さえあればそれでいい、という考えのようだ。ゆえに、荒れ放題のままにしている。
「ふわーあ、今日も暇だな……ん?」
見張り台の上であくびをした盗賊は、ふと、草原の道を一人の少女が歩いてくるのを見て、眉をひそめた。
格好からして、ガルズバル騎士団の人間のようだ。
「うおお⁉ マジかよ!」
慌てて鐘を鳴らす。
まさか、こんな小さな土地を奪還しに、騎士団が派遣されてくるとは思ってもいなかった。突然の来襲に、いち早く備えるべく、仲間達へと危険を知らせる。
ひとしきり鐘を鳴らし終えたところで、もう一度、草原のほうへと盗賊は目をやった。
「あれ……?」
さっきまで道を歩いていたはずの少女騎士は、いつの間にか姿を消している。
どういうことだ? と不思議に思った、その瞬間。
物見台の上に、少女騎士が飛び乗ってきた。
「わあああ⁉」
驚きの声を上げた盗賊は、直後、物見台の上から叩き落とされた。
そこから、超スピードで、少女騎士は廃村内を駆け回り、次々と盗賊達を倒していく。
戦闘開始からわずか数分で、少女騎士――ユナは、廃村を制圧した。
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