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第66話 揺れ動く心
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イスカは、なぜ自分がバニーガールの格好をしているのか、事情を説明した。
ルドルフを倒すために、カジノへの潜入手段として、バニースーツを着たこと……そして、そのせいで呪いにかかってしまい、バニースーツを脱げなくなったこと、等を話した。
聞けば聞くほど、ルドルフという男の悪辣さを感じて、ニハル達に対して同情の念を抱いてしまう。それとも、その話をしているのがイスカだから、素直に受け止める気になっているのだろうか。ユナは、イスカの整った顔と、柔らかに動く唇を、ぼんやりと眺めている。
やがて、イスカは話し終わり、口を閉じた。ジッとこちらのことを見つめて、反応を待っている。
ユナは肩をすくめた。
「それにしたって、もうニハルのことは助け出したんだから、これ以上義理立てする必要はないんじゃないの? 呪いを解くために、ここを離れたとしても、誰も文句は言わないよ」
「でも、僕はニハルさんの恋人だから。離れたくないんだ」
「え、そうなの。ニハルの恋人なの」
少しばかり、胸がチクリと痛んだ。
この感覚はなんだろうか、と考えてみると、どうやら嫉妬の感情から来ているもののようだ。
そう、嫉妬。
イスカがニハルの恋人であると聞いて、ニハルに対して嫉妬の念を抱いている。まさかの、会ったばかりのイスカに対して、心が揺れ動いている。それは、アーフリード以外に抱いてはいけないはずの感情。
初めて会った瞬間から、ユナにとって、イスカの存在感は大きな物であった。
女の子と見紛うような可愛らしい外見、サムライとしてのたくましさ、その屈託のない笑顔……ついつい心惹かれてしまう。
アーフリード以外の人間に、こんな気持ちを持ってしまったことに、ユナはかなり戸惑いを感じている。
(ダメ! 私には、アーフリード様がいるんだから……!)
そう思いつつも、イスカがこちらを見つめてくるだけで、心奪われてしまいそうだ。
(バニースーツ姿が似合ってて……すごく、可愛い……)
イスカのセクシーな格好を、ユナはうっとりと眺めている。
男の子のバニースーツ姿にここまでときめくことになるとは、思ってもいなかった。
「イスカ君、探したよ~」
ニハルが邸のほうから歩いてきた。護衛も連れず、呑気な雰囲気である。自分の立場を理解しているのだろうか。いつ帝国の刺客が襲ってくるかわからないというのに。
そんなことを考えていて、おや、とユナは首を傾げた。
自分はなぜ、ニハルの心配をしているのだろう。イスカに対して心惹かれており、その恋人であるニハルには嫉妬の念しか湧いていないはずだ。それなのに、どうして、今度はニハルのことを考えているのか。
「ニハルさん、まだ寝てなかったの?」
「イスカ君もだよ。こんな時間に、鍛錬?」
「うん。この場所が、一番集中できるんだ」
「ふふふ、変なの。畑の真ん中で修行する人なんて、見たことがないよ」
「サムライはどんなところでも己を鍛える。別に不思議なことでもないよ」
「ユナも一緒なんだね」
と、そこで、ニハルはユナのほうを見てきた。
ドキン、と胸が高鳴るのを、ユナは感じた。
あれ? なにこれ?
イスカだけでなくて、ニハルと目が合っていても、鼓動が早くなってくる。息が苦しく感じられる。
「イスカ君、格好いいでしょ♪」
「え? あ、うん……なかなか、いい動きをしていたわ」
「でしょ、でしょ♪ 嬉しいなあ、ユナにも、イスカ君の格好いいところ見てもらえて」
暗闇の中で、自分達が二人きりでいたことを、ニハルは変にとがめたりはしない。それどころか、ユナに、むしろもっとイスカに見惚れろ、と言わんばかりの調子で、イスカのことを語ってくる。
そんな風に熱烈に恋人のことを話すニハルを見ていて、ユナは、どこか面白くないものを感じていた。
ん? 面白くない? あれあれ? おかしいな?
ユナは自分の心の動きに、動揺を隠せない。冷静に自己を分析しようとするも、すぐには答えが出てこない。
やがて、出てきた結論は、自分は、イスカだけでなく、ニハルのことも実は気になっている、ということだった。
(あはは……まさか……)
これではまるで、自分が節操のない女みたいではないか。
アーフリード一筋で生きてきたのに、ここへ来て、一気に二人も、自分の心を奪いそうな相手が現れるなんて……そんなの、ありえない。あってはならない。ニハルもイスカも、今日初めて会ったばかりだというのに、これで懸想しているというのなら、あまりにも自分はちょろすぎる。
「さ、でも、そろそろ寝る準備をしたほうがいいよ。家の中に入って」
ニハルに手招かれ、イスカとともに、ユナは歩き出した。
砂上船から落ちたショックで、おかしくなっているのだろうか、と悩んでいる。どんなに頭をひねっても、ニハルやイスカに対する感情で胸がいっぱいになっている、この状態を理解することができない。
あるいは、それだけ、二人に人的魅力があるということなのだろうか。
(今日のところはもう寝よう。難しいことは、明日、考えよう)
とりあえず、思考は明日へと先延ばしにすることに決めたのであった。
ルドルフを倒すために、カジノへの潜入手段として、バニースーツを着たこと……そして、そのせいで呪いにかかってしまい、バニースーツを脱げなくなったこと、等を話した。
聞けば聞くほど、ルドルフという男の悪辣さを感じて、ニハル達に対して同情の念を抱いてしまう。それとも、その話をしているのがイスカだから、素直に受け止める気になっているのだろうか。ユナは、イスカの整った顔と、柔らかに動く唇を、ぼんやりと眺めている。
やがて、イスカは話し終わり、口を閉じた。ジッとこちらのことを見つめて、反応を待っている。
ユナは肩をすくめた。
「それにしたって、もうニハルのことは助け出したんだから、これ以上義理立てする必要はないんじゃないの? 呪いを解くために、ここを離れたとしても、誰も文句は言わないよ」
「でも、僕はニハルさんの恋人だから。離れたくないんだ」
「え、そうなの。ニハルの恋人なの」
少しばかり、胸がチクリと痛んだ。
この感覚はなんだろうか、と考えてみると、どうやら嫉妬の感情から来ているもののようだ。
そう、嫉妬。
イスカがニハルの恋人であると聞いて、ニハルに対して嫉妬の念を抱いている。まさかの、会ったばかりのイスカに対して、心が揺れ動いている。それは、アーフリード以外に抱いてはいけないはずの感情。
初めて会った瞬間から、ユナにとって、イスカの存在感は大きな物であった。
女の子と見紛うような可愛らしい外見、サムライとしてのたくましさ、その屈託のない笑顔……ついつい心惹かれてしまう。
アーフリード以外の人間に、こんな気持ちを持ってしまったことに、ユナはかなり戸惑いを感じている。
(ダメ! 私には、アーフリード様がいるんだから……!)
そう思いつつも、イスカがこちらを見つめてくるだけで、心奪われてしまいそうだ。
(バニースーツ姿が似合ってて……すごく、可愛い……)
イスカのセクシーな格好を、ユナはうっとりと眺めている。
男の子のバニースーツ姿にここまでときめくことになるとは、思ってもいなかった。
「イスカ君、探したよ~」
ニハルが邸のほうから歩いてきた。護衛も連れず、呑気な雰囲気である。自分の立場を理解しているのだろうか。いつ帝国の刺客が襲ってくるかわからないというのに。
そんなことを考えていて、おや、とユナは首を傾げた。
自分はなぜ、ニハルの心配をしているのだろう。イスカに対して心惹かれており、その恋人であるニハルには嫉妬の念しか湧いていないはずだ。それなのに、どうして、今度はニハルのことを考えているのか。
「ニハルさん、まだ寝てなかったの?」
「イスカ君もだよ。こんな時間に、鍛錬?」
「うん。この場所が、一番集中できるんだ」
「ふふふ、変なの。畑の真ん中で修行する人なんて、見たことがないよ」
「サムライはどんなところでも己を鍛える。別に不思議なことでもないよ」
「ユナも一緒なんだね」
と、そこで、ニハルはユナのほうを見てきた。
ドキン、と胸が高鳴るのを、ユナは感じた。
あれ? なにこれ?
イスカだけでなくて、ニハルと目が合っていても、鼓動が早くなってくる。息が苦しく感じられる。
「イスカ君、格好いいでしょ♪」
「え? あ、うん……なかなか、いい動きをしていたわ」
「でしょ、でしょ♪ 嬉しいなあ、ユナにも、イスカ君の格好いいところ見てもらえて」
暗闇の中で、自分達が二人きりでいたことを、ニハルは変にとがめたりはしない。それどころか、ユナに、むしろもっとイスカに見惚れろ、と言わんばかりの調子で、イスカのことを語ってくる。
そんな風に熱烈に恋人のことを話すニハルを見ていて、ユナは、どこか面白くないものを感じていた。
ん? 面白くない? あれあれ? おかしいな?
ユナは自分の心の動きに、動揺を隠せない。冷静に自己を分析しようとするも、すぐには答えが出てこない。
やがて、出てきた結論は、自分は、イスカだけでなく、ニハルのことも実は気になっている、ということだった。
(あはは……まさか……)
これではまるで、自分が節操のない女みたいではないか。
アーフリード一筋で生きてきたのに、ここへ来て、一気に二人も、自分の心を奪いそうな相手が現れるなんて……そんなの、ありえない。あってはならない。ニハルもイスカも、今日初めて会ったばかりだというのに、これで懸想しているというのなら、あまりにも自分はちょろすぎる。
「さ、でも、そろそろ寝る準備をしたほうがいいよ。家の中に入って」
ニハルに手招かれ、イスカとともに、ユナは歩き出した。
砂上船から落ちたショックで、おかしくなっているのだろうか、と悩んでいる。どんなに頭をひねっても、ニハルやイスカに対する感情で胸がいっぱいになっている、この状態を理解することができない。
あるいは、それだけ、二人に人的魅力があるということなのだろうか。
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