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第65話 サムライのバニーガール?
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会議は長時間にわたった。しかし、日が暮れても、結局「悪魔」とは何であるのか、結論が出ないまま終わってしまった。
一同が解散した後、ユナは普通に解放された。自由の身だ。バニーガールの何人かは、彼女を牢屋に閉じ込めておくべきだと主張したが、ニハルは、その意見を取り入れなかった。
意外だった。自分のことを、騎士団の第一隊隊長であると知りながら、特に拘束することもなく、放置しているニハルが、いったい何を考えているのか、不思議に思えた。
(よくわからないな、あの人……)
でも、悪い人間でないことは確かだった。
ガルズバル帝国の領地であるカジノを陥落させた張本人であるから、きっと野心に満ち満ちた人間であるだろうと思いこんでいたが、実際はそんなことなかった。
わざわざ、敵である自分のために、寝泊まりできる部屋まで用意してくれた。
寝室へと案内された後、ユナは、ベッドに横たわり、ふう、とため息をついた。
これはどういう運命だろうかと、いまだに戸惑っている。
つい昨日までサゼフト王国にいたと思っていたら、いきなり「悪魔」を名乗る男に襲撃され、砂上船から叩き落とされ、気がつけば、カジノにいた。そして、ニハルが治めるコリドールの地へと連れてこられた。
さすがに武器は持たされていない。探せば、剣くらいは見つかるだろうが、バニーガール達の何人かは、一筋縄ではいかない闘気を発していた。かなりの手練れ達がニハルの側にはついているようだ。そんな中で、武器も持たずに、抵抗することは、無謀と思われた。
ちょっと外の空気が吸いたくなってきた。
ドアには鍵がかかっていない。そのままスッと開けて、廊下に出る。何人かバニーガール達とすれ違ったが、自分が歩き回っていることをとがめる者はいなかった。
邸の外はすっかり暗くなっている。建物の近くには、篝火がたかれて、警護の兵士も立っているが、さらに外へと踏み出すと、真っ暗な空間が広がっている。明るいうちに見ていたのでわかるが、いま、自分は、畑のど真ん中に立っているようだ。でも、あまりにも暗すぎて、足元がハッキリと見えない。
その代わり、空の星々が、綺麗に見えている。
穏やかな田舎の夜空を仰ぎ見ながら、ユナは深呼吸をした。実に清々しくて、気持ちがいい。
「……ん?」
よく目を凝らして、闇の中を見てみると、一人のバニーガールが、畑の中で剣を振っている。きっと何かの鍛錬をしているのだろう。
興味を引かれたユナは、近くまで歩み寄ってみた。
(わ……可愛い子)
自分より少し背丈は低い感じで、愛らしい小顔に、ポニーテールの髪型。動く度に、頭の後ろの髪の毛が、フワフワと動いている。ユナは、ここまで可愛い子を見たことがない。彼女は、黒いバニースーツを着ているため、時おり闇の中に溶けこみ、その白い肌だけが浮き彫りになって見えている。
それにしても、見事な剣さばきだ。使っているのは、東洋の「刀」と呼ばれる武器のようである。流れるように連続攻撃を繰り出しては、たまに残心を取って、息をととのえている。
何度目かの残心のタイミングで、ユナは、拍手を送った。
黒いバニーガールの少女は、ユナのほうを見てきた。
「あ……もしかして、騎士団の……?」
「ユナよ。見させてもらっていたわ。すごくいい腕しているのね」
「あはは……やだな、いつから見られてたんだろ……恥ずかしいなあ」
少女は照れくさそうに笑った。
「あなたは、もしかして、桜花国のサムライ?」
物珍しさから、相手が一応は敵であることも忘れて、つい、ユナは無邪気に質問した。
「うん……とは言っても、まだまだサムライを名乗るには、ほど遠いんだけど、一応」
「へええ! サムライだけど、バニーガールをやっているのね」
「やりたくてやってるわけじゃないけどね」
そう言って、少女は苦笑した。
「どうして? やりたくないんだったら、それ、脱げばいいじゃない」
「脱げないんだ」
「え?」
「カジノで、一度バニースーツの姿になると、呪いにかかって、脱げなくなる……そういうことらしいんだ」
「じゃあ、着たくなかったけど、うっかり着ちゃって、そのまま……ってこと?」
「うん、まあ、そんな感じ」
なんてかわいそうなんだ、と思うのと同時に、もしもこの子にバニースーツを着させたのがニハルだとしたら、やはり、彼女は許しがたい存在である、とユナは思った。
「その呪いって、解けないの?」
「帝国の魔術師がカジノにかけた呪いらしいから。その魔術師に、なんとか解いてもらうしかないみたい」
「誰だろう……帝国が抱えている魔術師っていっぱいいるから……」
「名前は聞いたことあるけど、ちょっと忘れちゃった。また今度、ニハルさんに聞いてみるね」
「それか、いやだったら、ここから逃げればいいのに。私がその魔術師に、口ききしてあげようか」
「あ、大丈夫だよ、別に。僕は平気だから」
それに――と少女は、邸のほうを見た。
「ニハルさんの側を離れるわけにはいかないから」
「随分と忠誠心が強いのね」
「忠誠っていうか……愛してるから」
「へえ、いいわね。そういう乙女心、私、好きよ」
「乙女?」
キョトンと、少女は目を丸くしている。
「あ、もしかして、僕のこと、女の子だと思っていた?」
「へ? どういうこと?」
「僕は男なんだ」
いきなりの衝撃の告白に、ユナは言葉を失った。
なぜ⁉ どうして⁉ どういう理由があって、男の子が、こんなバニースーツを着ているのか⁉
ポカンとしているユナのことを気にせず、少女、いや、少年は、朗らかに自己紹介してきた。
「僕の名前はイスカ。よろしくね、ユナさん」
一同が解散した後、ユナは普通に解放された。自由の身だ。バニーガールの何人かは、彼女を牢屋に閉じ込めておくべきだと主張したが、ニハルは、その意見を取り入れなかった。
意外だった。自分のことを、騎士団の第一隊隊長であると知りながら、特に拘束することもなく、放置しているニハルが、いったい何を考えているのか、不思議に思えた。
(よくわからないな、あの人……)
でも、悪い人間でないことは確かだった。
ガルズバル帝国の領地であるカジノを陥落させた張本人であるから、きっと野心に満ち満ちた人間であるだろうと思いこんでいたが、実際はそんなことなかった。
わざわざ、敵である自分のために、寝泊まりできる部屋まで用意してくれた。
寝室へと案内された後、ユナは、ベッドに横たわり、ふう、とため息をついた。
これはどういう運命だろうかと、いまだに戸惑っている。
つい昨日までサゼフト王国にいたと思っていたら、いきなり「悪魔」を名乗る男に襲撃され、砂上船から叩き落とされ、気がつけば、カジノにいた。そして、ニハルが治めるコリドールの地へと連れてこられた。
さすがに武器は持たされていない。探せば、剣くらいは見つかるだろうが、バニーガール達の何人かは、一筋縄ではいかない闘気を発していた。かなりの手練れ達がニハルの側にはついているようだ。そんな中で、武器も持たずに、抵抗することは、無謀と思われた。
ちょっと外の空気が吸いたくなってきた。
ドアには鍵がかかっていない。そのままスッと開けて、廊下に出る。何人かバニーガール達とすれ違ったが、自分が歩き回っていることをとがめる者はいなかった。
邸の外はすっかり暗くなっている。建物の近くには、篝火がたかれて、警護の兵士も立っているが、さらに外へと踏み出すと、真っ暗な空間が広がっている。明るいうちに見ていたのでわかるが、いま、自分は、畑のど真ん中に立っているようだ。でも、あまりにも暗すぎて、足元がハッキリと見えない。
その代わり、空の星々が、綺麗に見えている。
穏やかな田舎の夜空を仰ぎ見ながら、ユナは深呼吸をした。実に清々しくて、気持ちがいい。
「……ん?」
よく目を凝らして、闇の中を見てみると、一人のバニーガールが、畑の中で剣を振っている。きっと何かの鍛錬をしているのだろう。
興味を引かれたユナは、近くまで歩み寄ってみた。
(わ……可愛い子)
自分より少し背丈は低い感じで、愛らしい小顔に、ポニーテールの髪型。動く度に、頭の後ろの髪の毛が、フワフワと動いている。ユナは、ここまで可愛い子を見たことがない。彼女は、黒いバニースーツを着ているため、時おり闇の中に溶けこみ、その白い肌だけが浮き彫りになって見えている。
それにしても、見事な剣さばきだ。使っているのは、東洋の「刀」と呼ばれる武器のようである。流れるように連続攻撃を繰り出しては、たまに残心を取って、息をととのえている。
何度目かの残心のタイミングで、ユナは、拍手を送った。
黒いバニーガールの少女は、ユナのほうを見てきた。
「あ……もしかして、騎士団の……?」
「ユナよ。見させてもらっていたわ。すごくいい腕しているのね」
「あはは……やだな、いつから見られてたんだろ……恥ずかしいなあ」
少女は照れくさそうに笑った。
「あなたは、もしかして、桜花国のサムライ?」
物珍しさから、相手が一応は敵であることも忘れて、つい、ユナは無邪気に質問した。
「うん……とは言っても、まだまだサムライを名乗るには、ほど遠いんだけど、一応」
「へええ! サムライだけど、バニーガールをやっているのね」
「やりたくてやってるわけじゃないけどね」
そう言って、少女は苦笑した。
「どうして? やりたくないんだったら、それ、脱げばいいじゃない」
「脱げないんだ」
「え?」
「カジノで、一度バニースーツの姿になると、呪いにかかって、脱げなくなる……そういうことらしいんだ」
「じゃあ、着たくなかったけど、うっかり着ちゃって、そのまま……ってこと?」
「うん、まあ、そんな感じ」
なんてかわいそうなんだ、と思うのと同時に、もしもこの子にバニースーツを着させたのがニハルだとしたら、やはり、彼女は許しがたい存在である、とユナは思った。
「その呪いって、解けないの?」
「帝国の魔術師がカジノにかけた呪いらしいから。その魔術師に、なんとか解いてもらうしかないみたい」
「誰だろう……帝国が抱えている魔術師っていっぱいいるから……」
「名前は聞いたことあるけど、ちょっと忘れちゃった。また今度、ニハルさんに聞いてみるね」
「それか、いやだったら、ここから逃げればいいのに。私がその魔術師に、口ききしてあげようか」
「あ、大丈夫だよ、別に。僕は平気だから」
それに――と少女は、邸のほうを見た。
「ニハルさんの側を離れるわけにはいかないから」
「随分と忠誠心が強いのね」
「忠誠っていうか……愛してるから」
「へえ、いいわね。そういう乙女心、私、好きよ」
「乙女?」
キョトンと、少女は目を丸くしている。
「あ、もしかして、僕のこと、女の子だと思っていた?」
「へ? どういうこと?」
「僕は男なんだ」
いきなりの衝撃の告白に、ユナは言葉を失った。
なぜ⁉ どうして⁉ どういう理由があって、男の子が、こんなバニースーツを着ているのか⁉
ポカンとしているユナのことを気にせず、少女、いや、少年は、朗らかに自己紹介してきた。
「僕の名前はイスカ。よろしくね、ユナさん」
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