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第53話 新たなる統治者は
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カジノは陥落した。
ルドルフに人望はなかった。力と恐怖で支配していたために、ほとんどの者達が愛想を尽かしていた。仕えていた護衛兵達ですら、である。
「機嫌を損ねると、いつ処分されるかわからなかったしな」
「そうそう。いなくなってくれるんなら、せいせいするぜ」
忠誠心を抱いていたのは、リヒャルトくらい。
そのリヒャルトも、ルドルフが敗れて、捕らえられたと聞くと、ガックリとうなだれ、それ以上抵抗はしなかった。
「そうか……ついにこの時が来たか……」
実直な老将は、ルドルフの恩義に報いるため真面目に付き従っていたが、実のところ彼の振る舞いをいいものとは思ってはいなかった。それゆえに、引導を渡されたのだと悟った。おとなしく降伏の道を選んだ。
ネネに関しては、元から自分が戦いを楽しんでいただけで、ルドルフのことなど興味を抱いていなかった。
「あらぁ、ルドルフ様が負けちゃったのぉ?」
アイヴィーに動きを押さえつけられていたネネは、駆けつけてきた部下のバニーガールからその話を聞いて、パチパチと目をまたたかせた。大してショックは受けていない様子だった。
最終的に、ルドルフは、カジノの地下にある牢屋へと押し込められた。
鍵をかけられる瞬間、ルドルフはすさまじい形相でイスカ達のことを睨みつけたが、何も言わなかった。憎しみに満ちた眼差しからは、一種の狂気すら感じさせる。このまま生かしておけば、いつかきっと災いをもたらすかもしれない。その恐れはあったが、しかし、ニハルもイスカも、命を奪うことまでは出来なかった。
※ ※ ※
さて、カジノを落としたのはいいが、問題はこの後のことである。
誰がカジノを運営していくか、だ。
「あなたがやれば?」
会議用の大広間に関係者全員集合して、話し合いをする中、レジーナはそんなことを言ってきた。
あなた、とは、ニハルのことである。
「えー! ムリムリ! 私、カジノの経営なんてしたくないって!」
「でも、ルドルフを倒した責任は取る必要があるわ」
「責任?」
「このカジノはガルズバル帝国の領地。そこを攻めて、陥落させたのだから、これは戦争を仕掛けて領地を奪い取ったようなもの。まず間違いなく、帝国が報復に乗り出してくるはず。それと相対する責任は、あなたにあるんじゃない? ニハル」
「う……」
正確には、攻めこんだのはイスカ達だ。
でも、きっかけを作ったのは、他ならぬニハルである。
「それだけどよぉ、お前らはいいのかよ?」
アイヴィーに尋ねられて、レジーナは首を傾げた。
「何が?」
「ルドルフを牢屋に閉じ込めたまま、このカジノに居座るってことは、帝国に喧嘩を売ってるようなもんだろ。お前らだって帝国に狙われる対象となるんじゃねーの。そこんところはどうなんだよ」
「もともと、私達は望まずしてバニーガールになった身だから」
バニースーツを常時着用しているのも、帝国の魔術師による呪いをかけられているからである。みんな、国が滅んだり、人身売買されたり、行く当てがなくなった末に、このカジノへやって来ている。最初から帝国への忠誠心などない。
「わしは帝国に対しては思うところがあってな。ルドルフ殿だから従っていたまでだ。こうなった以上、なりゆきに身を任せようぞ」
リヒャルトもまた、そう答えてくる。
「爺さんは、それでいいかもしんないけど、手下の兵士達はどうなんだよ」
「ここにいる兵士達は、みんな金で雇われた者達だ。黒服も同様。さらにはカジノ以外に行き場所などない。まあ、帝国に刃向かうとなれば、半分くらいは逃げるだろうがな、半分は残るのではないか」
「ふうん、そういうもんかね」
いまいちピンと来ていない様子で、アイヴィーは肩をすくめた。
「ねえねえ、それで、誰がこのカジノを治めてくれるのぉ?」
ネネが話を元に戻してきた。
相変わらず、ニハルは頑なに首を横に振っている。
「レジーナがやればいいじゃない」
「私はムリ。みんなを率いるような才能は無い」
「じゃあ、クークーとか」
「あの子にそんなことが出来ると思う?」
レジーナの言葉に、クークーはプクッと頬をふくらませた。
「あー、ひどーい。ボクのことバカにしてる!」
「それに、私とクークーは、ここにとどまるつもりはないから」
「そーそー。コリドールだっけ? ボク達もそこに住ませてもらいたいな♪」
まさかの話に、ニハルやイスカは、思わず「えっ⁉」と声を上げた。
「私達だけじゃなくて、何人か、コリドールへ移住したいっていうバニー達がいるわ。受け入れてくれるわよね、ニハル」
「別にいいけど、作物も育ってないし、みんなを養えるような土地にはなってないよ」
「それならクークーがいるわ」
「どういうこと?」
「この子、農家の出身だから。田畑についての知識は豊富よ。きっとコリドールでも役に立つと思う」
おお、とアイヴィーは喜びの声を上げた。それは願ったり叶ったりな話である。農地を開拓するのに、誰か専属の指導者が欲しいと彼女は思っていた。盗賊団の面々も畑仕事が出来ないわけではないが、ゼロから荒れ果てた土地をなんとかするには、圧倒的に知識が足りなかった。
「で、おねーさま。カジノは誰に任せるの。おねーさまが決めて」
「そうだ、どうするんだ?」
ライカとクイナに尋ねられたニハルは、うーん、と唸り、考え込んだ。
考えた末に、出した結論は、こうだった。
「イスカ君にカジノを経営してもらおうかな」
ルドルフに人望はなかった。力と恐怖で支配していたために、ほとんどの者達が愛想を尽かしていた。仕えていた護衛兵達ですら、である。
「機嫌を損ねると、いつ処分されるかわからなかったしな」
「そうそう。いなくなってくれるんなら、せいせいするぜ」
忠誠心を抱いていたのは、リヒャルトくらい。
そのリヒャルトも、ルドルフが敗れて、捕らえられたと聞くと、ガックリとうなだれ、それ以上抵抗はしなかった。
「そうか……ついにこの時が来たか……」
実直な老将は、ルドルフの恩義に報いるため真面目に付き従っていたが、実のところ彼の振る舞いをいいものとは思ってはいなかった。それゆえに、引導を渡されたのだと悟った。おとなしく降伏の道を選んだ。
ネネに関しては、元から自分が戦いを楽しんでいただけで、ルドルフのことなど興味を抱いていなかった。
「あらぁ、ルドルフ様が負けちゃったのぉ?」
アイヴィーに動きを押さえつけられていたネネは、駆けつけてきた部下のバニーガールからその話を聞いて、パチパチと目をまたたかせた。大してショックは受けていない様子だった。
最終的に、ルドルフは、カジノの地下にある牢屋へと押し込められた。
鍵をかけられる瞬間、ルドルフはすさまじい形相でイスカ達のことを睨みつけたが、何も言わなかった。憎しみに満ちた眼差しからは、一種の狂気すら感じさせる。このまま生かしておけば、いつかきっと災いをもたらすかもしれない。その恐れはあったが、しかし、ニハルもイスカも、命を奪うことまでは出来なかった。
※ ※ ※
さて、カジノを落としたのはいいが、問題はこの後のことである。
誰がカジノを運営していくか、だ。
「あなたがやれば?」
会議用の大広間に関係者全員集合して、話し合いをする中、レジーナはそんなことを言ってきた。
あなた、とは、ニハルのことである。
「えー! ムリムリ! 私、カジノの経営なんてしたくないって!」
「でも、ルドルフを倒した責任は取る必要があるわ」
「責任?」
「このカジノはガルズバル帝国の領地。そこを攻めて、陥落させたのだから、これは戦争を仕掛けて領地を奪い取ったようなもの。まず間違いなく、帝国が報復に乗り出してくるはず。それと相対する責任は、あなたにあるんじゃない? ニハル」
「う……」
正確には、攻めこんだのはイスカ達だ。
でも、きっかけを作ったのは、他ならぬニハルである。
「それだけどよぉ、お前らはいいのかよ?」
アイヴィーに尋ねられて、レジーナは首を傾げた。
「何が?」
「ルドルフを牢屋に閉じ込めたまま、このカジノに居座るってことは、帝国に喧嘩を売ってるようなもんだろ。お前らだって帝国に狙われる対象となるんじゃねーの。そこんところはどうなんだよ」
「もともと、私達は望まずしてバニーガールになった身だから」
バニースーツを常時着用しているのも、帝国の魔術師による呪いをかけられているからである。みんな、国が滅んだり、人身売買されたり、行く当てがなくなった末に、このカジノへやって来ている。最初から帝国への忠誠心などない。
「わしは帝国に対しては思うところがあってな。ルドルフ殿だから従っていたまでだ。こうなった以上、なりゆきに身を任せようぞ」
リヒャルトもまた、そう答えてくる。
「爺さんは、それでいいかもしんないけど、手下の兵士達はどうなんだよ」
「ここにいる兵士達は、みんな金で雇われた者達だ。黒服も同様。さらにはカジノ以外に行き場所などない。まあ、帝国に刃向かうとなれば、半分くらいは逃げるだろうがな、半分は残るのではないか」
「ふうん、そういうもんかね」
いまいちピンと来ていない様子で、アイヴィーは肩をすくめた。
「ねえねえ、それで、誰がこのカジノを治めてくれるのぉ?」
ネネが話を元に戻してきた。
相変わらず、ニハルは頑なに首を横に振っている。
「レジーナがやればいいじゃない」
「私はムリ。みんなを率いるような才能は無い」
「じゃあ、クークーとか」
「あの子にそんなことが出来ると思う?」
レジーナの言葉に、クークーはプクッと頬をふくらませた。
「あー、ひどーい。ボクのことバカにしてる!」
「それに、私とクークーは、ここにとどまるつもりはないから」
「そーそー。コリドールだっけ? ボク達もそこに住ませてもらいたいな♪」
まさかの話に、ニハルやイスカは、思わず「えっ⁉」と声を上げた。
「私達だけじゃなくて、何人か、コリドールへ移住したいっていうバニー達がいるわ。受け入れてくれるわよね、ニハル」
「別にいいけど、作物も育ってないし、みんなを養えるような土地にはなってないよ」
「それならクークーがいるわ」
「どういうこと?」
「この子、農家の出身だから。田畑についての知識は豊富よ。きっとコリドールでも役に立つと思う」
おお、とアイヴィーは喜びの声を上げた。それは願ったり叶ったりな話である。農地を開拓するのに、誰か専属の指導者が欲しいと彼女は思っていた。盗賊団の面々も畑仕事が出来ないわけではないが、ゼロから荒れ果てた土地をなんとかするには、圧倒的に知識が足りなかった。
「で、おねーさま。カジノは誰に任せるの。おねーさまが決めて」
「そうだ、どうするんだ?」
ライカとクイナに尋ねられたニハルは、うーん、と唸り、考え込んだ。
考えた末に、出した結論は、こうだった。
「イスカ君にカジノを経営してもらおうかな」
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