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第40話 激戦に次ぐ激戦

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 長々と渡り合っている暇はない。

 短期決戦を挑むべく、イスカは集中して、相手の出方を窺う。

 腰だめで剣を構えたリヒャルトは、そこから豪快に振りかぶって、一気に袈裟斬りに斬りかかってきた。

 イスカは体をさばいて、斬撃をかわすと、身を翻し、リヒャルトの顎を蹴り上げた。

「ぐぶ!」

 顎を蹴られたリヒャルトはのけぞり、グラリと体を傾ける。

 その一瞬の隙を逃さず、イスカは勢いよく跳躍すると、空中でリヒャルトの上体に体当たりした。すでに体勢を崩していたリヒャルトは、そのまま押し込まれ、背中から床の上に倒される。さらに弾みで、持っていた剣を落としてしまった。

「ぬう! やるな!」

 すぐに身を起こそうとしたリヒャルトだったが、すかさずイスカは、その喉笛を拳で突いた。

「かはっ⁉」

 喉を潰されたリヒャルト。たちまち息をするのも苦しくなってしまう。

 この機を逃すかとばかり、イスカは腕を相手の首に押し当てて、絞め技をかける。一連の動きは、全て師匠であるクイナから教わったものだ。たとえ刀が無くても戦えるようにと、徒手空拳での戦闘技術も仕込まれている。

 だが、ここで、リヒャルトは信じがたい反撃に出た。

 イスカが胸の上に乗っている上体であるにもかかわらず、力任せに体を起こして、イスカを頭の上に持ち上げたのだ。恐るべきパワー。そこから、壁に向かってイスカを叩きつける。

「ぐうっ!」

 せっかく追い込んでいたのに、ここで、一気に戦局は逆転してしまった。

 喉を潰されて、かすれた声しか出なくなっているリヒャルトは、コオオ! と無声の気合を発しながら、壁に叩きつけたイスカへ向かって、膝蹴りを放った。

 ズドン! と重い一撃が、イスカの腹部へと打ち込まれる。

「あう――!」

 内臓まで伝わってくる衝撃。意識が飛びそうになりながら、ギリギリでイスカは気をしっかりと保ち、続けて放たれたリヒャルトの鉄拳を、すんでのところで回避した。ドゴン! と壁に、リヒャルトの拳がめり込む。

 間合いを離して、体勢を整えようとするイスカ。

 ここが勝負の分かれ目と、距離を詰めてくるリヒャルト。移動しながら、流れるように床に落としていた剣を拾い、真一文字にイスカの胴体を両断せんと斬りかかった。

 イスカは地面に這うくらいの勢いで、姿勢を低くして、リヒャルトの斬撃をかわした。頭上を、ブンッ! と空を切りながら、刃が通過する。

「ええい!」

 低い姿勢から、足を跳ね上げるようにして、リヒャルトの股間をかかとで蹴り上げた。

 金的を痛打されたリヒャルトは、ぐう! と呻き、身をかがめる。

 その手から、イスカは剣を奪い取った。リヒャルトは軽々と振り回していたが、イスカにとってはかなりの重量がある。それでも、イスカは、力を込めて、剣による刺突を放った。

「ぐあああ!」

 リヒャルトのかすれた絶叫が廊下にこだまする。

 剣は、太ももに突き刺さっている。

 命を奪うまではしたくないが、しかし、手加減をしていられる余裕もない。だから、相手の動きを封じるため、イスカは太ももを狙って、刺した。

 脚を負傷したリヒャルトは、それでも気持ちは屈することなく、イスカに向かって裏拳を叩きこもうとする。

 イスカは、その拳打をかわして――クルンと全身を回転させると――後ろ回し蹴りを、リヒャルトのこめかみにお見舞いした。

 バキィ! と鈍い音が響き渡り、リヒャルトの頭部は壁に叩きつけられた。

 ようやく、リヒャルトは意識を失った。

「ふう……!」

 だいぶ時間はかかってしまったが、まずは危機を乗りこえた。

 戦っている間、両手はずっと握ったままでいた。その中には、鍵が収まっている。なんとか落とさずに済んだ。

「よし! ニハルさんを、助けに行くぞ!」

 イスカは廊下を駆け出した。

 ルドルフの部屋までの経路は頭に入っている。道順を思い出しながら、逆に辿っていき、一気に一階まで下りた。

 地下への入り口の前に立つと、鍵を探し始める。

「どれ⁉ どの鍵が、秘密の扉を開ける鍵なの⁉」

 必死で一つ一つの鍵を調べてみる。それぞれ、記号や数字が刻まれているが、何を表しているのかはわからない。

 そこで、イスカは大事なことに気がついた。

 よく考えたら、どうやって鍵を開けるのか、その方法自体がわかっていない。一見するとただの壁でしかない、この場所は、レジーナに教わったから地下へ通じる隠し扉があるとわかっているだけだ。でも、その開け方はレジーナにしかわからない。

「レジーナさんの部屋に行かないと……!」

 一旦、地下への扉を開けるのはやめて、レジーナの部屋を目指す。

 そして、部屋の前に到着し、ドアをノックしたところで、後ろから声をかけられた。

「あらぁ。なにをやってるのぉ?」

 ゾクリ、と背筋を震わせる。

 この声は、巨人バニーのネネ。

 ズン、ズン、と重たい足音を響かせて、ネネはこちらへ近寄ってくる。

「怪しい動きをしているわねえ。悪いことでも企んでいるのかしらぁ」

 間の悪いことに、部屋のドアが開かれ、中からアイヴィーとクイナが出てきた。

「大丈夫だったか、イスカ⁉」
「なかなか戻ってこないから、心配したぞ」

 廊下に出てきた直後、二人はイスカの後ろからやってくるネネを見て、固まった。

「あらぁ、仲良し三人組が勢揃いね♪ だけど、この部屋はレジーナの部屋よぉ。どうして、そんなところから出てくるのかしらぁ」

 遅れて、レジーナも外に出てきた。そして、ネネの顔を見ると、ポーカーフェイスは保ったままだが、明らかに動揺した声を発した。

「ネネ……⁉ どうして、ここに……⁉」
「うーん、なんとなくよぉ♪ なんとなーく、予感がしたから、来てみただけぇ」

 そう言いながら、レジーナの目を覗きこんだネネは、相手の心を読んだか、ウンウンと頷き、腰に巻き付けている武器を外した。

 それは、長い鎖の先に、トゲ付きの鉄球を備え付けた凶悪な武器、モーニングスター。

「やっぱり、悪いことを考えていたのねぇ。しょうがないわぁ。あなた達みたいな可愛いバニーを、グチャグチャに壊すのは気が引けるのだけどぉ、これも仕事だから……やらせてもらうわねぇ」

 イスカ達は戦闘態勢に入った。

 地下への入り口へ行くには、廊下を塞いでいる、ネネを倒さないといけない。しかし、相手はこちらの心を読んでくるスキル持ち。一筋縄ではいかない。

 場の空気が、張り詰めたものとなった。
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