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第37話 ニハルの居場所
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「ふう。ごちそうさま」
そう言ってペロリと唇を舐めるレジーナは、心なしか肌つやが良くなっているように見える。
イスカは、ベッドに突っ伏し、なんとか気持ちを落ち着かせようとしている。
ニハル以外の女性とキスをしてしまった……それも、舌を絡めさせられる、濃厚なキスを。その罪悪感で押し潰されそうになりながら、しかし、ニハルを助けるために必要なことだったのだと、自分に言い聞かせる。
ただ、レジーナの要求は、今回限りではない。これからも、彼女の気が向いた時に、イスカは求められたらキスをしなければいけないのである。そのことを考えると、暗澹たる気持ちに陥るが、いま悩んでいてもしょうがない。
「約束……守ってもらうからね……」
うっすら涙目で、レジーナのことを睨みながら、イスカは弱々しく言った。
「もちろん、約束だから。それで、どっちから先に聞く? ルドルフをどう倒すか、の話か、それともニハルがどこに囚われているか、の話か」
「ちょっと待って。その前に……」
イスカは部屋のドアを開け、アイヴィーとクイナを中に招いた。
「大丈夫だったか? なんだか、時間かかってたけど」
アイヴィーに気遣われるも、イスカは軽く微笑んで、ごまかす。
様子がおかしいと、クイナは敏感に察知し、レジーナのことを睨みつけた。
「貴様、私の弟子に何をした」
「別に何も」
とぼけるレジーナ。
なお、クイナは問い詰めようと身構えたが、その前にイスカは立ちはだかった。
「師匠、やめて。せっかく協力の約束を取り付けたんだから。乱暴はしないで」
「イスカ。変な目に遭ってないだろうな?」
「大丈夫……大丈夫だから」
嘘をつくのが下手なイスカ。
何かがあったのだ、とクイナは悟ったが、一瞬カッとなりかけたのを、なんとか胸の内へと抑え込んだ。いまは、余計なことに時間を使っている場合ではない。
「ねえ、イスカ。この人達は?」
「こっちはアイヴィーさん。ニハルさんの親衛隊。こっちは僕に剣を教えてくれたクイナ師匠」
「ふうん。あなたの仲間、というわけね」
レジーナは、アイヴィーとクイナのことを交互に見る。感心したように頷いているから、二人のバニー姿を密かに採点して、評価しているのか。その心の内はわからない。
「で? さっきの質問。どうするの」
「まずはニハルさんを助けたい」
「いいわ。心当たりを教えてあげる」
レジーナは部屋の棚から、カジノ内部の地図を取り出した。ベッドの上に広げて、みんなに見えるようにする。
「私達がいまいる場所はここ。で、この廊下をまっすぐ行ったところに……地下へ続く階段があるわ」
「その先に、ニハルさんが……⁉」
「おそらく。地下には牢屋や拷問部屋がある。私も、そこで散々に調教されたわ」
「ちょ、調教?」
「ルドルフのペットに仕立て上げるための調教」
レジーナは淡々と言い放ったが、ふと、顔を上げて、イスカのことを見た。
イスカは激怒している。
「許せない……!」
愛するニハルが、こうしているいまも、いやらしい調教を受けているのかと思うと、頭の芯までキンキンに冷えそうなほどに、怒りがこみ上げてくる。
そんなイスカを見つめながら、レジーナはボソッと呟いた。
「……いいな」
「え?」
「それだけ、あなたに想われるニハルが、うらやましい」
そのレジーナの言葉に、クイナは、ムッとした表情になった。
「私の弟子をよこしまな目で見るな」
「あら、ごめんなさい。ひょっとして、あなた達、そういう関係?」
「ち、違う。いまはただの師弟関係だ。だが、そういう関係になりたくないかと問われたら、その、私は……」
「なんだ、別に男女の関係ではないのね。なら、遠慮することはないか」
「遠慮とはなんだ、遠慮とは。よからぬことだったら、容赦しないぞ」
「だって、イスカ」
親しげにイスカに話しかけ、フッとレジーナは微笑む。
頼むからこれ以上師匠を挑発しないで……! と祈りながら、イスカは青ざめた顔で、クイナの様子を窺った。
クイナはプルプルと震えている。いまにも爆発しそうな状態だ。
話を戻さないと、と、イスカは地図を指さした。
「とにかく、この廊下を進んでいけば、地下へ向かう階段があるんだね!」
「鍵は閉まっているけど」
「うそ」
「そもそも隠し扉になっているから、普通には見つけられない。ちょっとした仕掛けを解く必要があるわ」
「レジーナさんは、開け方を知ってるの?」
「何度か地下へ連れ込まれたことがあるから。でも、鍵がなければ、どうしようもない」
「その鍵はどこに?」
「ルドルフの部屋に常時置いてあるわ。ルドルフ子飼いの調教師も、いちいちルドルフの部屋に行って鍵を取りに行っている」
「じゃあ……ルドルフの部屋に入らないと……」
「そうね。鍵は手に入れられない」
しばし、イスカは考え込んだ。
最善の道は何があるか。
やがて結論を出した。
「わかった。僕がルドルフの部屋に忍び込んでみるよ」
その発言に、アイヴィーもクイナも、驚きを露わにする。
「お前はダメだろ! ルドルフと一度戦ってるんだから、ばったり鉢合わせたら言い逃れできないぞ!」
「それに、お前にそのような危険なことはさせられない!」
だが、頑として、イスカは退かない。
「僕が行くべきなんだ。ルドルフに見つかったら言い逃れできないのは、二人だって同じでしょ? 同じ見つかるんだったら、男の僕のほうが、いいと思う」
アイヴィーとクイナは、女性だから、ルドルフのような色情魔の前に立たせるわけにはいかない。
そういうイスカの気持ちを感じ取ったアイヴィーとクイナは、彼の意外と男らしい性格に、思わず胸をキュンとさせるのであった。
そう言ってペロリと唇を舐めるレジーナは、心なしか肌つやが良くなっているように見える。
イスカは、ベッドに突っ伏し、なんとか気持ちを落ち着かせようとしている。
ニハル以外の女性とキスをしてしまった……それも、舌を絡めさせられる、濃厚なキスを。その罪悪感で押し潰されそうになりながら、しかし、ニハルを助けるために必要なことだったのだと、自分に言い聞かせる。
ただ、レジーナの要求は、今回限りではない。これからも、彼女の気が向いた時に、イスカは求められたらキスをしなければいけないのである。そのことを考えると、暗澹たる気持ちに陥るが、いま悩んでいてもしょうがない。
「約束……守ってもらうからね……」
うっすら涙目で、レジーナのことを睨みながら、イスカは弱々しく言った。
「もちろん、約束だから。それで、どっちから先に聞く? ルドルフをどう倒すか、の話か、それともニハルがどこに囚われているか、の話か」
「ちょっと待って。その前に……」
イスカは部屋のドアを開け、アイヴィーとクイナを中に招いた。
「大丈夫だったか? なんだか、時間かかってたけど」
アイヴィーに気遣われるも、イスカは軽く微笑んで、ごまかす。
様子がおかしいと、クイナは敏感に察知し、レジーナのことを睨みつけた。
「貴様、私の弟子に何をした」
「別に何も」
とぼけるレジーナ。
なお、クイナは問い詰めようと身構えたが、その前にイスカは立ちはだかった。
「師匠、やめて。せっかく協力の約束を取り付けたんだから。乱暴はしないで」
「イスカ。変な目に遭ってないだろうな?」
「大丈夫……大丈夫だから」
嘘をつくのが下手なイスカ。
何かがあったのだ、とクイナは悟ったが、一瞬カッとなりかけたのを、なんとか胸の内へと抑え込んだ。いまは、余計なことに時間を使っている場合ではない。
「ねえ、イスカ。この人達は?」
「こっちはアイヴィーさん。ニハルさんの親衛隊。こっちは僕に剣を教えてくれたクイナ師匠」
「ふうん。あなたの仲間、というわけね」
レジーナは、アイヴィーとクイナのことを交互に見る。感心したように頷いているから、二人のバニー姿を密かに採点して、評価しているのか。その心の内はわからない。
「で? さっきの質問。どうするの」
「まずはニハルさんを助けたい」
「いいわ。心当たりを教えてあげる」
レジーナは部屋の棚から、カジノ内部の地図を取り出した。ベッドの上に広げて、みんなに見えるようにする。
「私達がいまいる場所はここ。で、この廊下をまっすぐ行ったところに……地下へ続く階段があるわ」
「その先に、ニハルさんが……⁉」
「おそらく。地下には牢屋や拷問部屋がある。私も、そこで散々に調教されたわ」
「ちょ、調教?」
「ルドルフのペットに仕立て上げるための調教」
レジーナは淡々と言い放ったが、ふと、顔を上げて、イスカのことを見た。
イスカは激怒している。
「許せない……!」
愛するニハルが、こうしているいまも、いやらしい調教を受けているのかと思うと、頭の芯までキンキンに冷えそうなほどに、怒りがこみ上げてくる。
そんなイスカを見つめながら、レジーナはボソッと呟いた。
「……いいな」
「え?」
「それだけ、あなたに想われるニハルが、うらやましい」
そのレジーナの言葉に、クイナは、ムッとした表情になった。
「私の弟子をよこしまな目で見るな」
「あら、ごめんなさい。ひょっとして、あなた達、そういう関係?」
「ち、違う。いまはただの師弟関係だ。だが、そういう関係になりたくないかと問われたら、その、私は……」
「なんだ、別に男女の関係ではないのね。なら、遠慮することはないか」
「遠慮とはなんだ、遠慮とは。よからぬことだったら、容赦しないぞ」
「だって、イスカ」
親しげにイスカに話しかけ、フッとレジーナは微笑む。
頼むからこれ以上師匠を挑発しないで……! と祈りながら、イスカは青ざめた顔で、クイナの様子を窺った。
クイナはプルプルと震えている。いまにも爆発しそうな状態だ。
話を戻さないと、と、イスカは地図を指さした。
「とにかく、この廊下を進んでいけば、地下へ向かう階段があるんだね!」
「鍵は閉まっているけど」
「うそ」
「そもそも隠し扉になっているから、普通には見つけられない。ちょっとした仕掛けを解く必要があるわ」
「レジーナさんは、開け方を知ってるの?」
「何度か地下へ連れ込まれたことがあるから。でも、鍵がなければ、どうしようもない」
「その鍵はどこに?」
「ルドルフの部屋に常時置いてあるわ。ルドルフ子飼いの調教師も、いちいちルドルフの部屋に行って鍵を取りに行っている」
「じゃあ……ルドルフの部屋に入らないと……」
「そうね。鍵は手に入れられない」
しばし、イスカは考え込んだ。
最善の道は何があるか。
やがて結論を出した。
「わかった。僕がルドルフの部屋に忍び込んでみるよ」
その発言に、アイヴィーもクイナも、驚きを露わにする。
「お前はダメだろ! ルドルフと一度戦ってるんだから、ばったり鉢合わせたら言い逃れできないぞ!」
「それに、お前にそのような危険なことはさせられない!」
だが、頑として、イスカは退かない。
「僕が行くべきなんだ。ルドルフに見つかったら言い逃れできないのは、二人だって同じでしょ? 同じ見つかるんだったら、男の僕のほうが、いいと思う」
アイヴィーとクイナは、女性だから、ルドルフのような色情魔の前に立たせるわけにはいかない。
そういうイスカの気持ちを感じ取ったアイヴィーとクイナは、彼の意外と男らしい性格に、思わず胸をキュンとさせるのであった。
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