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第24話 誰が少年の初夜を奪うか、それが問題だ
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「やっぱりか……! やっぱり、お前は、豊かな乳房が好きなんだな!」
頑なに「おっぱい」という単語を使わないクイナ。性的なことに関しては、かなりウブなようだ。
それを見ていたニハルは、ピンと閃くものがあった。
「ねえねえ、クイナ」
「き、貴様に、呼び捨てにされる筋合いはない!」
「いいじゃない。同い年だって聞いたし。それより、『私と賭けをしてみない』?」
「賭け……?」
「そ、賭け」
ニコニコとニハルは笑っている。
その笑顔を見て、イスカは気がついた。あ、この人、何か企んでいる、と。
「勝負は今晩。私とあなたで勝負しましょ。それで、勝ったほうが、その日の夜、イスカ君のことを好きにしていいの」
「ほう……!」
ギラリ、とクイナは目を光らせた。急にその表情に生気が戻ってくる。
「チャンスは一度きり。どう? この勝負、乗ってみる?」
「いいだろう、やってやる!」
二つ返事で引き受けたクイナだったが、ふと、首を傾げた。
「しかし、イスカのことを好きにしていい、というのは、どういうことだ? 連れ出してもいい、ということか?」
「え……うそ、いまので伝わらなかった?」
「よくわからないな。もっと具体的に言ってくれ」
「マジで⁉ あなたって天然記念物⁉ ふつう、好きにしていい、って言われたら、ひとつしか思い浮かばないでしょ!」
「んんん?」
「エッチよ、エッチ! エッチすることに決まってるでしょ!」
「エッチ――だと――?」
ボッ、と顔を真っ赤にし、クイナは恥じらいを見せる。
「そ、そんなこと、できるか! そういうものは、結婚してからするものだと、親から教わらなかったのか!」
「はああ⁉ 結婚する前にエッチしなかったら、体の相性がいいかどうかもわからないじゃない!」
「こ、この淫乱女め! そうやって色んな男達を毒牙にかけてきたんだな!」
「違うわよ! 私、まだ経験ないもん! 初めてはイスカ君がいいの!」
「わ、私だって、初めても、その先も、ずっとイスカに捧げるつもりで操を守ってきた! 他の男になんて触れさせてたまるか!」
まだ時刻はお昼ご飯時にもなっていない、午前中の明るい時間帯である。陽光差す屋外で、とんでもない会話を繰り広げている二人の少女を見て、場にいるみんなはポカーンとしている。
「だから! その初めてを、どっちが今晩イスカ君に捧げるか! その勝負をしようって言ってるの!」
「よーし、わかった! 上等だ! 貴様に奪われるくらいなら、わ、私が、イスカををを」
肝心の言葉を言おうとして、クイナはろれつが回らなくなる。
「えっと……その、僕の意見は、聞いてくれないのかな……?」
あはは……と困った笑みを浮かべながら、イスカは二人に声をかけたが、ヒートアップしている彼女らの耳には届かない。
「オレ、思うんだけどさ、お前が二人ともモノにしちゃえばいいんじゃねーの?」
「へ⁉」
「ハーレムだよ、ハーレム。いいじゃん、エッチなニハルに、堅物のクイナ。食べ味はどっちも違うと思うぜ」
「ぼ、僕は、そういうのはよくないと思う……!」
「ニハルとクイナがそれでいいなら、丸く収まると思うんだけどな。どっちかを選ぶ、ってことは、どっちかは想いを遂げられない、ってことになるんだぜ」
「僕はとにかく、ニハルさんのことが好きだから……!」
「ま、いまのは戯れ言みたいなもんだと思って、忘れてくれ」
アイヴィーは意地悪く微笑んだ。
なんだかんだで、いまの言葉に、イスカは動揺を受けている。彼の頭の中には、二人とも恋人にしてしまう、という発想がなかった。
しかし、そんなのは男のエゴではないか――と悩みつつ、ふと、自分がニハルかクイナかで、少しばかりでも迷っていることに気がついた。
いま、心の底から愛情を感じているのは、ニハルだ。
けれども、クイナには、何年もの間養ってもらった信頼と安心感がある。もしニハルと出会っていなかったら、当然、彼女のもとに帰っていただろうし、その先には男女の関係への発展だってありえたかもしれない。
何よりも、クイナには、ずっと一緒に暮らすと約束した弱みもある。ここでニハルを選んだら、クイナに対して不義理を働くことになる。
(僕は……どうしたらいいんだ?)
ニハルか、クイナか。
あるいはどちらもか。
苦悩するイスカの前で、ニハルとクイナはいつの間にか勝負の内容まで決めてしまっていた。
「よーし、じゃあ、今晩ね!」
「ふん、愚かな奴だな! その勝負で、私に勝てると思うのか!」
「あえてあなたが得意そうな土俵で勝負するのよ! それで勝てば、あなただって納得するでしょ!」
「勝てるのならな!」
クイナは自信たっぷりに言い放つと、その場を離れようとした。
が、すぐにピタリと立ち止まり、きびすを返してきた。
「……ところで、相談なんだが」
「なーに?」
「へ、部屋を一つ、使わせてもらえないか? ずっと野宿で、さすがに疲れて……」
「いーよいーよ。部屋はいくらでもあるから、好きな場所を使って」
「感謝する」
さっきまで熱くなっていた二人とは思えない冷静さで、お互い会話をし、一時休戦の平和な雰囲気が流れ始めた。
だが、今晩、この二人は勝負するのだ。
一人の少年――イスカを賭けて。
そして、その勝負の内容とは――
※ ※ ※
夜になった。
邸の前には、焚き火がたかれ、全員集まっている。
テーブルが一台置かれており、それを挟んで、ニハルとクイナは向かい合っている。
お互いにテーブルに片肘を突き、手と手をガッシリと掴み合わせた。
勝負の内容を全然聞かされていなかったイスカは、このタイミングになって、驚きの声を上げるのであった。
「う、腕相撲ぅ⁉」
頑なに「おっぱい」という単語を使わないクイナ。性的なことに関しては、かなりウブなようだ。
それを見ていたニハルは、ピンと閃くものがあった。
「ねえねえ、クイナ」
「き、貴様に、呼び捨てにされる筋合いはない!」
「いいじゃない。同い年だって聞いたし。それより、『私と賭けをしてみない』?」
「賭け……?」
「そ、賭け」
ニコニコとニハルは笑っている。
その笑顔を見て、イスカは気がついた。あ、この人、何か企んでいる、と。
「勝負は今晩。私とあなたで勝負しましょ。それで、勝ったほうが、その日の夜、イスカ君のことを好きにしていいの」
「ほう……!」
ギラリ、とクイナは目を光らせた。急にその表情に生気が戻ってくる。
「チャンスは一度きり。どう? この勝負、乗ってみる?」
「いいだろう、やってやる!」
二つ返事で引き受けたクイナだったが、ふと、首を傾げた。
「しかし、イスカのことを好きにしていい、というのは、どういうことだ? 連れ出してもいい、ということか?」
「え……うそ、いまので伝わらなかった?」
「よくわからないな。もっと具体的に言ってくれ」
「マジで⁉ あなたって天然記念物⁉ ふつう、好きにしていい、って言われたら、ひとつしか思い浮かばないでしょ!」
「んんん?」
「エッチよ、エッチ! エッチすることに決まってるでしょ!」
「エッチ――だと――?」
ボッ、と顔を真っ赤にし、クイナは恥じらいを見せる。
「そ、そんなこと、できるか! そういうものは、結婚してからするものだと、親から教わらなかったのか!」
「はああ⁉ 結婚する前にエッチしなかったら、体の相性がいいかどうかもわからないじゃない!」
「こ、この淫乱女め! そうやって色んな男達を毒牙にかけてきたんだな!」
「違うわよ! 私、まだ経験ないもん! 初めてはイスカ君がいいの!」
「わ、私だって、初めても、その先も、ずっとイスカに捧げるつもりで操を守ってきた! 他の男になんて触れさせてたまるか!」
まだ時刻はお昼ご飯時にもなっていない、午前中の明るい時間帯である。陽光差す屋外で、とんでもない会話を繰り広げている二人の少女を見て、場にいるみんなはポカーンとしている。
「だから! その初めてを、どっちが今晩イスカ君に捧げるか! その勝負をしようって言ってるの!」
「よーし、わかった! 上等だ! 貴様に奪われるくらいなら、わ、私が、イスカををを」
肝心の言葉を言おうとして、クイナはろれつが回らなくなる。
「えっと……その、僕の意見は、聞いてくれないのかな……?」
あはは……と困った笑みを浮かべながら、イスカは二人に声をかけたが、ヒートアップしている彼女らの耳には届かない。
「オレ、思うんだけどさ、お前が二人ともモノにしちゃえばいいんじゃねーの?」
「へ⁉」
「ハーレムだよ、ハーレム。いいじゃん、エッチなニハルに、堅物のクイナ。食べ味はどっちも違うと思うぜ」
「ぼ、僕は、そういうのはよくないと思う……!」
「ニハルとクイナがそれでいいなら、丸く収まると思うんだけどな。どっちかを選ぶ、ってことは、どっちかは想いを遂げられない、ってことになるんだぜ」
「僕はとにかく、ニハルさんのことが好きだから……!」
「ま、いまのは戯れ言みたいなもんだと思って、忘れてくれ」
アイヴィーは意地悪く微笑んだ。
なんだかんだで、いまの言葉に、イスカは動揺を受けている。彼の頭の中には、二人とも恋人にしてしまう、という発想がなかった。
しかし、そんなのは男のエゴではないか――と悩みつつ、ふと、自分がニハルかクイナかで、少しばかりでも迷っていることに気がついた。
いま、心の底から愛情を感じているのは、ニハルだ。
けれども、クイナには、何年もの間養ってもらった信頼と安心感がある。もしニハルと出会っていなかったら、当然、彼女のもとに帰っていただろうし、その先には男女の関係への発展だってありえたかもしれない。
何よりも、クイナには、ずっと一緒に暮らすと約束した弱みもある。ここでニハルを選んだら、クイナに対して不義理を働くことになる。
(僕は……どうしたらいいんだ?)
ニハルか、クイナか。
あるいはどちらもか。
苦悩するイスカの前で、ニハルとクイナはいつの間にか勝負の内容まで決めてしまっていた。
「よーし、じゃあ、今晩ね!」
「ふん、愚かな奴だな! その勝負で、私に勝てると思うのか!」
「あえてあなたが得意そうな土俵で勝負するのよ! それで勝てば、あなただって納得するでしょ!」
「勝てるのならな!」
クイナは自信たっぷりに言い放つと、その場を離れようとした。
が、すぐにピタリと立ち止まり、きびすを返してきた。
「……ところで、相談なんだが」
「なーに?」
「へ、部屋を一つ、使わせてもらえないか? ずっと野宿で、さすがに疲れて……」
「いーよいーよ。部屋はいくらでもあるから、好きな場所を使って」
「感謝する」
さっきまで熱くなっていた二人とは思えない冷静さで、お互い会話をし、一時休戦の平和な雰囲気が流れ始めた。
だが、今晩、この二人は勝負するのだ。
一人の少年――イスカを賭けて。
そして、その勝負の内容とは――
※ ※ ※
夜になった。
邸の前には、焚き火がたかれ、全員集まっている。
テーブルが一台置かれており、それを挟んで、ニハルとクイナは向かい合っている。
お互いにテーブルに片肘を突き、手と手をガッシリと掴み合わせた。
勝負の内容を全然聞かされていなかったイスカは、このタイミングになって、驚きの声を上げるのであった。
「う、腕相撲ぅ⁉」
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