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第14話 料理人ポチョムキン
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やがてアイヴィー盗賊団の面々も邸に戻ってきた。
頭領だけが女性で、あとは全員男という、極端な構成の盗賊団である。
ちなみにアイヴィーの恋人である三人の美少女達は、盗賊団の構成員ではない。奴隷商人に連れ回されていたところを、アイヴィーが奪い取った、とのことである。
さて、盗賊団の団員達は、途上で狩りもしてきたのか、五体もの猪を担いで帰ってきた。
「お、今夜は猪肉の鍋かな」
アイヴィーの言葉に、イスカはキュピーンと目を光らせた。以前もニハルに語ったが、イスカは肉料理に目がない。しかも、猪肉は故郷の桜花国でよく食べていたので、好物中の好物だ。
「やったー! まさか、猪鍋が食べられるなんて……!」
「鍋以外にも、色々調理して出せると思うぜ。うちの盗賊団の料理長ポチョムキンは、腕が立つからな。世界各地の料理に詳しいんだ」
と、おそらくポチョムキンと思われる、身長約二メートルはあろうかというムキムキの大男が、部下達に猪肉を運ばせながら、ニヤリと笑った。口髭がワイルドなオヤジである。
「メインは鍋にするが、それ以外にもファンロンで習った『チャーシュー』、ヴァンデミエールでレシピを手に入れた『ダークソース和え』も作るつもりだ。楽しみにしていてくれ」
生まれて初めて聞くメニューに、イスカはますます心躍らせて、ルンルンとはしゃいでいる。その喜びようは、見た目が女の子っぽいだけに、やたらと愛くるしい。作業中の盗賊達は、思わず、同じ男ながら、イスカに見とれてしまっていた。
だが、ニハルだけは、面白くない顔をしている。
「えー⁉ 野菜ないのー⁉」
運ばれてきた食材を全部チェックしたところで、不満の声を上げた。
「山菜なら摘んできてるぜ。これだって立派な野菜だろ」
「アイヴィー……私の言う野菜って、こんなものじゃないの……ニンジンとか、キャベツとか、もっと畑で取れるような……」
「その畑があんなだから、しょうがねーじゃん」
「どうして、いままで、盗賊団のみんなで畑を守ってこなかったの? 農家出身って言ったじゃん」
「あのなあ、盗賊稼業やってる間は、けっこう動き回ってるんだよ。基本的にその日の食事は現地調達だよ。自然と肉料理とか山菜が多くなる。のんびり畑仕事なんてやってられないって」
「野菜~……野菜がほしいよぉ(涙)」
「もしかして、ニハル……お前って、肉が苦手なのか……?」
ちょっぴり涙目のニハルは、ぶぅ、とふくれ面で、コクコクと頷いた。
「そのエロい体、肉を食べてるから出来上がったものかと思ってたのに……まさか、野菜好きだったなんてな……」
「今日は、私、山菜しか食べないからね!」
そう宣言するニハルに対して、横でやり取りを聞いていたポチョムキンが、ニカッと男前な笑みを見せた。
「任せてくれ、最高の山菜料理を作ってやるぜ。ファンロン風炒め物なら間違いないはずだ」
「すごい頼りになる……! ありがとう、ポチョムキン……!」
「ハッハー! 腕が鳴るぜ!」
それから、厨房では一大調理が始まった。
ポチョムキンのほか、四名の専属団員が所狭しと行き交い、総勢二十三名の盗賊団分プラス、ニハルとイスカの分の料理を作っていく。
日が暮れ始めた頃、ニハルとイスカはそっと厨房の中を覗いてみたが、まるで戦場の如き応酬を見て、これは邪魔してはいけないと、黙って引っ込んでいった。
あたりが夜闇に包まれてから、一時間ほどで、全員分の料理は完成した。
厨房と隣接している大食堂に、どんどん皿が運び込まれ、豪勢な食事が置かれていく。猪肉がメインでありながら、見た目は貴族の食事にも劣らない、立派なものだ。
「いっただきまーす!」
元気よく盗賊団の面々は食事を開始した。
みんな大鍋に密集し、自分達の食べたいだけ、器にスープと肉を盛っていく。大食堂にはテーブルや椅子もあるが、行儀よく着席したりせず、そこらへんに腰を下ろして貪り食う。
笑い声が響き渡り、みんな賑やかに食事している。
その中で、ニハル、イスカ、アイヴィーの三人は、テーブル席に座って、ご飯を食べている。ニハルだけ、ポチョムキン特製の山菜炒めだ。甘辛い調味料を使って炒められており、食べれば食べるほど食欲が増してくる。
「おいひい……! 山菜で、こんな味が出へるなんへ……!」
あまりの美味さに、まだ口の中に食べ物が残っているというのに、ニハルは感動の意を表した。
「だろ? うちのポチョムキンは、料理上手だからな。かつては北の大国ノルツフで軍人をやっていたんだけど、国を追われてな。あちこち放浪して、料理を学んできたんだ。だから、食材さえあれば、どんな料理だって作ってくれるぜ」
「なんだか、まだまだ他にも、色んな人材がいそうですね」
イスカの言葉に、アイヴィーは自慢げに頷いた。
「おーよ。オレの盗賊団は、人数こそたったの二十三名だけど、みんな何かしら一芸を持っている連中だぜ。ポチョムキンの下についている四人だって、それぞれガルズバル帝国では凄腕の料理人だったんだ」
そこへ、ポチョムキンがやって来た。夢中になって山菜炒めを食べているニハルの姿を見て、嬉しそうに目を細めている。
「いい食べっぷりだな。料理人冥利に尽きるぜ」
「ありがほー! ホチョムキンはん! おいひいよー!」
「おいおい、お嬢ちゃん。まず飲み込んでから、落ち着いて話せよ」
ハハハ、とポチョムキンは愉快そうに笑った。
次の瞬間――
ヒュッ! と風を切る音が聞こえ――
ポチョムキンの胸に、ドスッ! と、矢が突き刺さった。
頭領だけが女性で、あとは全員男という、極端な構成の盗賊団である。
ちなみにアイヴィーの恋人である三人の美少女達は、盗賊団の構成員ではない。奴隷商人に連れ回されていたところを、アイヴィーが奪い取った、とのことである。
さて、盗賊団の団員達は、途上で狩りもしてきたのか、五体もの猪を担いで帰ってきた。
「お、今夜は猪肉の鍋かな」
アイヴィーの言葉に、イスカはキュピーンと目を光らせた。以前もニハルに語ったが、イスカは肉料理に目がない。しかも、猪肉は故郷の桜花国でよく食べていたので、好物中の好物だ。
「やったー! まさか、猪鍋が食べられるなんて……!」
「鍋以外にも、色々調理して出せると思うぜ。うちの盗賊団の料理長ポチョムキンは、腕が立つからな。世界各地の料理に詳しいんだ」
と、おそらくポチョムキンと思われる、身長約二メートルはあろうかというムキムキの大男が、部下達に猪肉を運ばせながら、ニヤリと笑った。口髭がワイルドなオヤジである。
「メインは鍋にするが、それ以外にもファンロンで習った『チャーシュー』、ヴァンデミエールでレシピを手に入れた『ダークソース和え』も作るつもりだ。楽しみにしていてくれ」
生まれて初めて聞くメニューに、イスカはますます心躍らせて、ルンルンとはしゃいでいる。その喜びようは、見た目が女の子っぽいだけに、やたらと愛くるしい。作業中の盗賊達は、思わず、同じ男ながら、イスカに見とれてしまっていた。
だが、ニハルだけは、面白くない顔をしている。
「えー⁉ 野菜ないのー⁉」
運ばれてきた食材を全部チェックしたところで、不満の声を上げた。
「山菜なら摘んできてるぜ。これだって立派な野菜だろ」
「アイヴィー……私の言う野菜って、こんなものじゃないの……ニンジンとか、キャベツとか、もっと畑で取れるような……」
「その畑があんなだから、しょうがねーじゃん」
「どうして、いままで、盗賊団のみんなで畑を守ってこなかったの? 農家出身って言ったじゃん」
「あのなあ、盗賊稼業やってる間は、けっこう動き回ってるんだよ。基本的にその日の食事は現地調達だよ。自然と肉料理とか山菜が多くなる。のんびり畑仕事なんてやってられないって」
「野菜~……野菜がほしいよぉ(涙)」
「もしかして、ニハル……お前って、肉が苦手なのか……?」
ちょっぴり涙目のニハルは、ぶぅ、とふくれ面で、コクコクと頷いた。
「そのエロい体、肉を食べてるから出来上がったものかと思ってたのに……まさか、野菜好きだったなんてな……」
「今日は、私、山菜しか食べないからね!」
そう宣言するニハルに対して、横でやり取りを聞いていたポチョムキンが、ニカッと男前な笑みを見せた。
「任せてくれ、最高の山菜料理を作ってやるぜ。ファンロン風炒め物なら間違いないはずだ」
「すごい頼りになる……! ありがとう、ポチョムキン……!」
「ハッハー! 腕が鳴るぜ!」
それから、厨房では一大調理が始まった。
ポチョムキンのほか、四名の専属団員が所狭しと行き交い、総勢二十三名の盗賊団分プラス、ニハルとイスカの分の料理を作っていく。
日が暮れ始めた頃、ニハルとイスカはそっと厨房の中を覗いてみたが、まるで戦場の如き応酬を見て、これは邪魔してはいけないと、黙って引っ込んでいった。
あたりが夜闇に包まれてから、一時間ほどで、全員分の料理は完成した。
厨房と隣接している大食堂に、どんどん皿が運び込まれ、豪勢な食事が置かれていく。猪肉がメインでありながら、見た目は貴族の食事にも劣らない、立派なものだ。
「いっただきまーす!」
元気よく盗賊団の面々は食事を開始した。
みんな大鍋に密集し、自分達の食べたいだけ、器にスープと肉を盛っていく。大食堂にはテーブルや椅子もあるが、行儀よく着席したりせず、そこらへんに腰を下ろして貪り食う。
笑い声が響き渡り、みんな賑やかに食事している。
その中で、ニハル、イスカ、アイヴィーの三人は、テーブル席に座って、ご飯を食べている。ニハルだけ、ポチョムキン特製の山菜炒めだ。甘辛い調味料を使って炒められており、食べれば食べるほど食欲が増してくる。
「おいひい……! 山菜で、こんな味が出へるなんへ……!」
あまりの美味さに、まだ口の中に食べ物が残っているというのに、ニハルは感動の意を表した。
「だろ? うちのポチョムキンは、料理上手だからな。かつては北の大国ノルツフで軍人をやっていたんだけど、国を追われてな。あちこち放浪して、料理を学んできたんだ。だから、食材さえあれば、どんな料理だって作ってくれるぜ」
「なんだか、まだまだ他にも、色んな人材がいそうですね」
イスカの言葉に、アイヴィーは自慢げに頷いた。
「おーよ。オレの盗賊団は、人数こそたったの二十三名だけど、みんな何かしら一芸を持っている連中だぜ。ポチョムキンの下についている四人だって、それぞれガルズバル帝国では凄腕の料理人だったんだ」
そこへ、ポチョムキンがやって来た。夢中になって山菜炒めを食べているニハルの姿を見て、嬉しそうに目を細めている。
「いい食べっぷりだな。料理人冥利に尽きるぜ」
「ありがほー! ホチョムキンはん! おいひいよー!」
「おいおい、お嬢ちゃん。まず飲み込んでから、落ち着いて話せよ」
ハハハ、とポチョムキンは愉快そうに笑った。
次の瞬間――
ヒュッ! と風を切る音が聞こえ――
ポチョムキンの胸に、ドスッ! と、矢が突き刺さった。
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