幻想世界のバニーガールがスキル「ギャンブル無敗」で思うがままに人生を謳歌する、そんなちょっとエッチな物語

逢巳花堂

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第10話 新たなスタート

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 ボールは、12番に入った。

「え⁉ や、やった⁉ やったー!」

 まさかの勝利に、イスカは歓喜の声を上げる。

 周りのギャラリーも騒然となった。普通は、ストレートアップ(一点賭け)は、ディーラーがボールを盤上に落としてから行うものである。ボールが回り始める前に賭けてしまうと、ディーラー側は、その数字以外にボールが落ちるように操作すればいいことになる。負け確定である。

 それなのに、ニハルは、ディーラーがボールを回す前に、一点賭けして、見事に勝った。

 ライカは目を見開き、パクパクと口を動かしている。こんなのおかしい、と言いたいところを、ギリギリで踏みとどまっている様子だ。カジノの常識とは言え、ディーラーがボールを自由自在に操作できることは隠しておかなければいけない。

 かろうじて、ライカは、弱々しい声で、ニハルに問いかけた。

「おねーさま……どうして……12番に賭けたの?」
「単純だよ♪ 最初は1番でしょ♪ 次はきっとラッキーセブンで7番に入れた。ってことは、次はライカにとってのラッキーナンバー……いまの年齢の数字、12に入れるだろうな、って思ったの♪」
「わ、私は……」

 12番を避けてボールを回したはずなのに――と言いかけたのだろうが、それもまた思いとどまったようだ。

ライカは涙目になり、悔しそうに口を閉ざした。

 たちまち、カジノの中は大混乱に陥った。

 五十倍の倍率で、客が勝利することなど、ありえない。そのありえない出来事が現実のものとなったのだ。

 十六万四千八百五十枚ものコインをどうやって渡すのか、まずはそこから、みんな困り果てている。

「ど、どういうことだ! なぜ、こんなことになっている!」

 ついにはオーナーであるルドルフが呼び出され、VIPフロアへと姿を現した。

 ルーレット勝負に負けたライカのことを、ルドルフはギロリと睨む。

「貴様! わざとニハルに勝たせたのではないだろうな!」
「ち、ちがいますー! 私、ちゃんと勝負しました!」

 ライカは泣きながら訴えるが、ルドルフはまったく信じていないようだ。

「違うよね。ライカは私とちゃんと読み合いしていたもんね。それで、負けちゃった。それだけの話だよね♪」

 ニハルが一応のフォローに入る。それでも、ルドルフは疑いの眼差しを、ニハルとライカに向けている。だが、卓の様子を観察していた黒服達のほうを見ても、皆、一様に渋い顔をして、首を横に振る。不正はなかった、とルドルフに伝えている。

 うおおお! と吠えて、ルドルフは少ない髪の毛を掻きむしった。あとちょっとでニハルを自分の物にできたというのに、その目論見が破られたのだ。相当悔しかろう。

「コインは持ってこなくてもいいよ。すぐに景品と交換できれば、それでいいから」
「ど、どれと交換されますか?」

 ニハルの応対をしているウェイターバニーは、わかりきったことながら、一応問いかけた。

「もちろん、一等の領地♪ それと、二等の雷迅刀。残ったコインは、全部現金に換えて」
「か、かしこまりました」

 さっそく手続きが始まった。

 ガルズバル帝国の辺境にある、片田舎の領地コリドール。そこの領主として、ニハルは就任することとなる。帝国から見捨てられた土地とはいえ、一つの土地の支配者となるのだ。しかも、いま現在の身分は奴隷バニーであるニハルが、である。かなりの大事件だ。

「く……ぬうう……!」

 ルドルフは苦しげに呻きながら、二枚の書類にサインをしている。一枚は、ニハルの奴隷バニーとしての身分を取り消す証書。そしてもう一枚は、ニハルをコリドールの領主に任命する証書である。
 かつて帝国の騎士であり、いまはカジノのオーナーであるルドルフには、カジノの景品である領地コリドールの領主を任命する権限が与えられている。ゆえに、手続きはこの場で完遂できるのだ。

 サインが終わった瞬間、ニハルの立場は一気に変わった。

 奴隷バニーから、コリドールの領主へ。

 新しい人生のスタートであった。

 ※ ※ ※

 領地と雷迅刀を引き換えて、残ったコインは一万四千八百五十枚。それを全て金貨に換算すると、コイン一枚につき金貨二枚の計算となるので、金貨二万九千七百枚。
 中流階級の人間で、年収はだいたい金貨一万枚、と言われているので、少なくとも二年は気楽に生活できる金額である。

 ホテルの、イスカの部屋で、ニハルとイスカは金貨を山分けした。

 一番活躍したニハルが、金貨一万九千七百枚。
 イスカは、一万枚。

「ありがとう、ニハルさん……! 雷迅刀を取り返してくれただけじゃなくて、こんな大金まで分けてくれて……」
「きっちり等分じゃないけど、いいよね?」
「それは当然だよ! ニハルさんのスキルが無かったら、勝てなかったから……」

 そこで、ふと、イスカは首を傾げた。

「そういえば、どうしてニハルさんは、最初からオールインの一点賭けで勝負しなかったの?」
「やだなあ、イスカ君ってば。いきなり初手でそんなことしたら、イカサマって疑われるか、私のスキルがバレちゃうか、どっちかになっちゃうかもしれないでしょ。せめて二回は相手の手の内を探るフリして、それから『読めた!』ってことでオールインする、って流れにしないと」
「なるほど……! あれ、でも、もうひとつおかしなことが……?」
「うんうん、なーに」
「二回目に賭けた時、ニハルさん、数字を外しちゃいましたよね。あれって変じゃないですか? ニハルさんのスキルは、ギャンブルには必ず勝つ、っていう能力なのに」
「ふふふ、イスカ君、勘違いしてるよ」
「え」
「私、ライカとルーレット勝負する前に、こう宣言したでしょ。カジノが営業終了するまでに十五万枚までに達しないか、コインが底を尽きれば、私達の負け、って」
「あ――!」
「だから、途中の個々の勝負で、少しばかりコインが減るのは、負けの内に入らないの。大きな勝負全体で見たら、コインを失いさえしなければ、一回負けたって関係ない。それで、二回戦目は、普通にライカが勝った、っていうわけ」
「『ギャンブル無敗』の使い方って、そういうやり方もあるんだ……⁉」

 イスカは感心のため息をついた。

 そこで、二人の間に沈黙が訪れた。

 お金の分配も終わり、話すことも話し終えた。あとは、お互いに別れを告げて、それぞれの行くべき所へと旅立つのみ、である。
 ニハルはコリドールへ。
 イスカは故郷の桜花国へ。

 だけど――

「あ、あのさ、イスカ君。相談があるんだけど」
「う、うん」
「これからコリドールに行くわけだけど、その、私一人だけだと不安なんだよね。ほら、私には『ギャンブル無敗』のスキルしか無いから。それでね、相談っていうのは……」

 本心を見透かされないだろうか、という不安を隠すように、ニハルは唇を舐め、イスカの目を覗きこんだ。

「……私の、ボディガードになってくれないかな」

 心なしか、イスカの顔に、喜色が浮かんだように見えた。

「僕も、ニハルさんに相談があったんだ」
「なに?」
「故郷の桜花国では、実は、僕の居場所はなくて……いま、桜花国を支配している樺倉幕府は、僕の国を滅ぼした敵だから……どうにかして、このガルズバルの地で生きていけないかな、って思ってたんです。だから、その……」

 ちょっと照れくさそうに、イスカは微笑んだ。

「……僕のこと、側に置いてもらっても、いいですか?」
「も、もちろん!」

 ニハルは嬉しさのあまり、ピョンッと跳んで、イスカに思いきり抱きついた。柔らかなおっぱいが押し当てられ、イスカは「わわわ!」と動揺しているが、構わず、ニハルは絡みつかせた腕にさらにギュッと力をこめた。

「嬉しい! これから一緒に暮らそうね!」
「僕も、喜んで……!」

 こうして、二人は田舎の領地コリドールにて、新たな生活を始めることとなったのである。
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