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第9話 白バニーとピンクバニーの対決
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周りが賑やかになってきた。
ニハルとライカのやり取りに注目したギャラリーが集まってきたのである。
ここまで蚊帳の外であったイスカは、一旦、席についた。形式上は、イスカとライカのルーレット勝負である。その代打ちとして、ニハルが代わりに席へとつくことになるのだ。
イスカが座るのと同時に、ウェイターバニー達がコインを運んできた。このVIPフロアに入るために千枚のコインを使ったので、残り三千三百五十枚。それだけの数ともなると、個人では所持していられないので、カジノ側で預かっていてもらい、ゲームの都度運んでもらう形となる。
三千三百五十枚。それは、このVIPフロアにいる客達にとっては、特に珍しい数のコインではない。
しかし、それが、一般客フロアで、わずか六日間で稼いだものとなると、話は別である。
凄腕の代打ちがいるらしい、という噂は、VIPフロアにも伝わっていた。
そのため、VIP客達は、積み重ねられたコインを見て、ほお、と感心の声を上げる。
「じゃ、交代ね♪」
プリプリのお尻で押し出すようにして、ニハルはイスカと入れ替わりで、席に座った。
セクシーな白バニーと、幼いピンクバニーが、テーブルを挟んで相対する。間には、魔のルーレット。
「おねーさま、コインを置いてちょうだい♪ ぷれいゆあべっと、だよ♪」
「はいはい、急かさないで♪」
両者ともに愛想笑いを浮かべて、やり取りを交わす。
ニハルは、ベッティングエリアへと目を向けると、ためらいもせず、コインを置いていった。
卓上のベッティングエリアには、マス目で区切られて、1から36までの数字が書かれている。それぞれ、ルーレットの数字と対応している。コインを置いたマスの数字に、ボールが落ちると、当選となる。ただ、それだけのシンプルな勝負。
問題は、どの数字にボールが落ちるのかを読まないといけない。
一流のディーラーともなると、自由自在に、ルーレットの出目を操作することが可能だ。自分の好きな数字にボールを落とすことができる。すなわち、ディーラーの性格を読むことで、ある程度の予測は立てられる、ということだ。
で、ニハルはどこに賭けたのかというと……
「えええ⁉」
ルーレット素人のイスカでも、驚きの声を上げることを、ニハルはしでかした。
ギャラリーのVIP客達も、ある者は動揺の声を上げ、ある者は落胆の声を上げている。会場内がどよめいている。
「……正気? おねーさま」
ライカの顔から笑みが消えた。
ニハルは、なんと、1から36の数字、全部にコインを一枚ずつ置いたのだ。
これなら確かに負けることはない。必ずどれかの数字にボールは落ちるからだ。けれども、全部に賭けた場合の倍率は、等倍でしかない。三十五枚のコインを失うことは確定だ。
「……すぴにんぐあっぷ」
真意がわからない、といった表情で、ライカはジッとニハルの顔を見つめながら、ルーレットの上にボールを落とし、回し始める。
この段階では、まだコインを賭け直すことも可能だ。けれども、ニハルは動かない。
「のーもあべっと」
賭けは締め切られた。もうここからは、出目を見ることしかできない。
ボールは1番に落ちた。
「やったー! 当たり!」
喜んでいるのはニハルだけ。イスカも、ギャラリーも、ライカも、みんなポカンとしている。
三十五枚のコインが、ディーラー側へと没収される。それを見ても、ニハルは特に何も感じていないようで、またベッティングエリアにコインを置き始めた。
「ふふふ、いまのは、ほんの挨拶♪ ここからが勝負よ♪」
今度は、偶数のところに一枚ずつコインを置いた。全部で十八枚。
「おねーさま……ちゃんと勝負して」
「えー? 私、これでも読み合いしているつもりなんだけど」
「どこが」
「最初は1番でしょ♪ ということは、奇数だから、次はあなたの性格からして、偶数に落とすと読んだわけ♪」
ペラペラと自分の考えを披露するニハル。普通は、そんなこと、相手しているディーラーに明かしたりしないものである。
なぜなら、凄腕のディーラーは、自由自在に出目を操作できるからだ。
そして、ライカは、その凄腕である。
ボールは回り、7番に落ちた。
「うそ、外した⁉」
イスカは思わず驚きの声を上げてしまった。
ありえない。スキル「ギャンブル無敗」は、どんなギャンブル勝負でも必ずニハルが勝つようになっているはずだ。それなのに、ニハルは負けてしまった。
ここへ来て、イスカは、「ギャンブル無敗」の能力に疑問を持ち始めた。
もしかしたら、ニハルが知らないだけで、何か能力発動のための条件があるのかもしれない。そして、いまはその条件を満たしていなかったから、読みを外してしまった。そうとしか考えられない。
(まずいよ……! ニハルさん、このままじゃ、負けちゃう……!)
賭け額は少額ながら、地道にコインが削られていっている。いまはまだダメージは低いものの、もしニハルが痺れを切らして、大量ベットでもしようものなら、取り返しのつかない損害を被ってしまう。
ところが――
「よーし! 完全に読めた! ストレートアップで、オールイン!」
所持している全てのコインを賭ける――ということを示す、代替の黒いコイン一枚――を、ニハルは12番に置いた。
「えええええええ⁉」
イスカが叫ぶ。
「お、おい、もう勝負に出るのか⁉」
「ありえない! 何を考えているんだ、あの白バニー!」
ギャラリーも口々に騒いでいる。
「おねーさま⁉ う、うそでしょ⁉ 三千枚のコインを、全部一点賭けするの⁉」
ライカもまた困惑している。
「正確には、残り三千二百九十七枚ね♪」
「そういう問題じゃなくって! オールインしたら、負けちゃうんだよ!」
「勝てばいいよ。ストレートアップ(一点賭け)は、このテーブルの場合、倍率五十倍でしょ? そしたら、ほら、十六万四千八百五十枚になって、私達の大勝利♪」
「考えが甘いよ、おねーさま……!」
こんな形で勝負を決めたくなかった、と言いたげな表情で、ライカはニハルのことを睨みつけた。
「すぴにんぐあっぷ!」
ボールを回し始めた。ルーレットの盤上を、綺麗な円を描きながら、ボールが滑ってゆく。
これで12番に入れば、ニハルの勝ち。だが、それ以外の数字に入れば、全てのコインを失って、負け。ニハルはライカのペットとなってしまう。
そして、ボールは――
ニハルとライカのやり取りに注目したギャラリーが集まってきたのである。
ここまで蚊帳の外であったイスカは、一旦、席についた。形式上は、イスカとライカのルーレット勝負である。その代打ちとして、ニハルが代わりに席へとつくことになるのだ。
イスカが座るのと同時に、ウェイターバニー達がコインを運んできた。このVIPフロアに入るために千枚のコインを使ったので、残り三千三百五十枚。それだけの数ともなると、個人では所持していられないので、カジノ側で預かっていてもらい、ゲームの都度運んでもらう形となる。
三千三百五十枚。それは、このVIPフロアにいる客達にとっては、特に珍しい数のコインではない。
しかし、それが、一般客フロアで、わずか六日間で稼いだものとなると、話は別である。
凄腕の代打ちがいるらしい、という噂は、VIPフロアにも伝わっていた。
そのため、VIP客達は、積み重ねられたコインを見て、ほお、と感心の声を上げる。
「じゃ、交代ね♪」
プリプリのお尻で押し出すようにして、ニハルはイスカと入れ替わりで、席に座った。
セクシーな白バニーと、幼いピンクバニーが、テーブルを挟んで相対する。間には、魔のルーレット。
「おねーさま、コインを置いてちょうだい♪ ぷれいゆあべっと、だよ♪」
「はいはい、急かさないで♪」
両者ともに愛想笑いを浮かべて、やり取りを交わす。
ニハルは、ベッティングエリアへと目を向けると、ためらいもせず、コインを置いていった。
卓上のベッティングエリアには、マス目で区切られて、1から36までの数字が書かれている。それぞれ、ルーレットの数字と対応している。コインを置いたマスの数字に、ボールが落ちると、当選となる。ただ、それだけのシンプルな勝負。
問題は、どの数字にボールが落ちるのかを読まないといけない。
一流のディーラーともなると、自由自在に、ルーレットの出目を操作することが可能だ。自分の好きな数字にボールを落とすことができる。すなわち、ディーラーの性格を読むことで、ある程度の予測は立てられる、ということだ。
で、ニハルはどこに賭けたのかというと……
「えええ⁉」
ルーレット素人のイスカでも、驚きの声を上げることを、ニハルはしでかした。
ギャラリーのVIP客達も、ある者は動揺の声を上げ、ある者は落胆の声を上げている。会場内がどよめいている。
「……正気? おねーさま」
ライカの顔から笑みが消えた。
ニハルは、なんと、1から36の数字、全部にコインを一枚ずつ置いたのだ。
これなら確かに負けることはない。必ずどれかの数字にボールは落ちるからだ。けれども、全部に賭けた場合の倍率は、等倍でしかない。三十五枚のコインを失うことは確定だ。
「……すぴにんぐあっぷ」
真意がわからない、といった表情で、ライカはジッとニハルの顔を見つめながら、ルーレットの上にボールを落とし、回し始める。
この段階では、まだコインを賭け直すことも可能だ。けれども、ニハルは動かない。
「のーもあべっと」
賭けは締め切られた。もうここからは、出目を見ることしかできない。
ボールは1番に落ちた。
「やったー! 当たり!」
喜んでいるのはニハルだけ。イスカも、ギャラリーも、ライカも、みんなポカンとしている。
三十五枚のコインが、ディーラー側へと没収される。それを見ても、ニハルは特に何も感じていないようで、またベッティングエリアにコインを置き始めた。
「ふふふ、いまのは、ほんの挨拶♪ ここからが勝負よ♪」
今度は、偶数のところに一枚ずつコインを置いた。全部で十八枚。
「おねーさま……ちゃんと勝負して」
「えー? 私、これでも読み合いしているつもりなんだけど」
「どこが」
「最初は1番でしょ♪ ということは、奇数だから、次はあなたの性格からして、偶数に落とすと読んだわけ♪」
ペラペラと自分の考えを披露するニハル。普通は、そんなこと、相手しているディーラーに明かしたりしないものである。
なぜなら、凄腕のディーラーは、自由自在に出目を操作できるからだ。
そして、ライカは、その凄腕である。
ボールは回り、7番に落ちた。
「うそ、外した⁉」
イスカは思わず驚きの声を上げてしまった。
ありえない。スキル「ギャンブル無敗」は、どんなギャンブル勝負でも必ずニハルが勝つようになっているはずだ。それなのに、ニハルは負けてしまった。
ここへ来て、イスカは、「ギャンブル無敗」の能力に疑問を持ち始めた。
もしかしたら、ニハルが知らないだけで、何か能力発動のための条件があるのかもしれない。そして、いまはその条件を満たしていなかったから、読みを外してしまった。そうとしか考えられない。
(まずいよ……! ニハルさん、このままじゃ、負けちゃう……!)
賭け額は少額ながら、地道にコインが削られていっている。いまはまだダメージは低いものの、もしニハルが痺れを切らして、大量ベットでもしようものなら、取り返しのつかない損害を被ってしまう。
ところが――
「よーし! 完全に読めた! ストレートアップで、オールイン!」
所持している全てのコインを賭ける――ということを示す、代替の黒いコイン一枚――を、ニハルは12番に置いた。
「えええええええ⁉」
イスカが叫ぶ。
「お、おい、もう勝負に出るのか⁉」
「ありえない! 何を考えているんだ、あの白バニー!」
ギャラリーも口々に騒いでいる。
「おねーさま⁉ う、うそでしょ⁉ 三千枚のコインを、全部一点賭けするの⁉」
ライカもまた困惑している。
「正確には、残り三千二百九十七枚ね♪」
「そういう問題じゃなくって! オールインしたら、負けちゃうんだよ!」
「勝てばいいよ。ストレートアップ(一点賭け)は、このテーブルの場合、倍率五十倍でしょ? そしたら、ほら、十六万四千八百五十枚になって、私達の大勝利♪」
「考えが甘いよ、おねーさま……!」
こんな形で勝負を決めたくなかった、と言いたげな表情で、ライカはニハルのことを睨みつけた。
「すぴにんぐあっぷ!」
ボールを回し始めた。ルーレットの盤上を、綺麗な円を描きながら、ボールが滑ってゆく。
これで12番に入れば、ニハルの勝ち。だが、それ以外の数字に入れば、全てのコインを失って、負け。ニハルはライカのペットとなってしまう。
そして、ボールは――
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