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第65話 エンディング
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それから五日後。
異例の早さでパスポートを発行してもらった俺は、リュックに着替えとか生活必需品とかを詰めるだけ詰めて、空港へと行った。
ノコについては、リュカに面倒を頼んだ。友達を頼るのは気が引けたけど、リュカは事情を知った上で、そういうことならと、快諾してくれた。通院の対応や、定期的に寄っては状態を確認するなど、日々の世話をしてくれる。ありがたい話である。
空港に着くと、すでにタチアナとオリガが待っていた。
「遅いです」
タチアナはむぅと頬をふくらませている。
「タニャ姉、カンナさん時間通りに来たよー。遅くないよ」
オリガがすかさずフォローを入れてくれたけど、タチアナは、もっと早くに来てほしかったのだろう。不機嫌そうな様子を緩めることはない。
なかなか気難しい子だな、と扱いに困っていると、ちょうどそこへチハヤさん達もやって来た。
「ああ、この子達が、ナーシャさんの妹の……」
「タチアナです」
「オリガ!」
温度差のある、二人の挨拶。
オリガとは仲良くやっていけそうだけど、タチアナはなかなか気難しいところがある。この先の旅は大丈夫だろうか、と心配になる。
「先方は何か文句言ってました?」
「ええ、かなり。宴席とかも設けていてくれたみたいで、それらの予定を全て一から作り直しですから、だいぶ激怒しています」
そう言いつつ、チハヤさんは涼しげな顔をしている。
「なんか、だいぶ余裕ですね」
「私、正直な話、中国って嫌いなんですよ。国家も、人民も。だから、迷惑かけてもあまり気にはならないです。むしろ日本のほうがこれまで迷惑を被ってきているわけですから」
その話を聞いていて、なんとなく、母さんの主治医だった東郷先生の論説を思い出した。
ダンジョン禍は、中国から始まったのではないか、説。
だとすると、日本に限らず、全世界に多大な迷惑をかけていることとなる。いや、もちろん、中国もまた被害者なのかもしれないけど、それにしたって、世間一般の人情的には、もしも中国発祥なのだとしたら、あの国を悪者に仕立て上げるだろう。
「ところで、現地に着いてから、まずなにをやるんですか?」
「あっちの国では、ダンジョン探索庁に当たる省庁は、『地下城対策部』と言うのだそうです。その地下城対策部のメンバーと挨拶し、その晩は交流会。翌日はお互いにダンジョンに関する知見の意見交換をする、といった感じです」
「ああ、地下の城で、ダンジョンね」
中国語に直すと、やけに物々しい言葉になる。
やがて、フライトの時間がやって来たので、俺達は飛行機に乗り込んだ。席はバラバラなので、助かった。万が一、あの常時不機嫌なタチアナが隣に来たりしたら、地獄のフライトになるところだった。
行き先は北京。果たして、どんな出来事が待っているのか。
いまさらながら、俺は胸の昂ぶりを感じている。
これはドキドキなのだろうか。それともワクワク? もしかしたら、あっちのダンジョンへ潜る機会も出てくるかもしれない。それを考えると、なぜか、気分が高揚してくる。あんなに恐ろしい目に何度も遭ったというのに、どうしちゃったんだろう。
一つには、俺本来の性格もある。冒険が好きなので、これまで危険を省みず、ダンジョン配信をやって来れた、というのもある。
そしてもう一つは、「ダンジョンクリエイト」持ちである、ということだ。
俺のこの能力は、ゲンノウの言葉を信じるなら、どうやらウルカヌスとかいう神様が与えてくれたものらしい。
なぜ親子に揃って授けたのか。他にも世界中に「ダンジョンクリエイト」を授かった人間がいるのか。何もわかっていない。
そして、俺はこの能力を、これから先どうしていきたいのか。
ダンジョン攻略においては、かなりの強さを誇る能力だ。でも、周囲からしてみれば、危険なダンジョンを作り出す、呪われた能力でしかない。
かつては何も考えずに駆使していた「ダンジョンクリエイト」だけど、いよいよ、真剣に向き合うべき時が来たようだ。
「シートベルトをお締めください」
キャビンアテンダントさんに言われて、俺はシートベルトを締めた。すっかり考え事に夢中になって、機内のアナウンスに気が付かなかった。
まあ、あれこれ考えてもしょうがない。
この先、何が待ち受けていようと、どんと来いだ。
多くの人達の人生を、良いほうにも、悪いほうにも、大きく捻じ曲げてしまったダンジョン。
そのダンジョンに挑むのが、俺達Dライバーだ。
飛行機が動き始めた。そろそろ離陸する。
ナーシャに再会したら、まず何を言おうか。実は生きているのにそのことを教えてくれなかったことに対する文句をぶつけるか、それともなぜ虎剣《フージェン》のパートナーとして活躍しているのかを問いただすか。
(もともとは俺のパートナーだぞ、それを横取りしやがって)
急に頭の中に浮かんできた、虎剣《フージェン》に対する怒りの感情。
そんな思いを抱いていることに気が付き、俺はハッとなった。
いつの間にか、俺の中で、ナーシャの存在はかなり大きくなっていたようだ。
(会おう。とにかく、一日でも早く、ナーシャに会おう)
飛行機はスピードを上げ、滑走路を走っていく。やがて訪れる浮遊感。澄んだ青空に向かってグングンと上昇していく。
あの空の向こうにある、新天地に向かって。
(ナーシャ、待ってろよ!)
俺は決意を新たにするのであった。
(完)
【あとがき】
これにてひとまず完結です!
思いきり続きがあるような終わり方になっていますが、
続編を書くかどうかは未定です……
面白かったよ! とか、続編希望! とかありましたら、
ブックマーク、コメント、応援などいただけましたら、
大変嬉しくなり、続きを書くかもしれません!
ここまで読んでいただき、まことにありがとうございました!
私逢巳花堂の他の作品も、どうかごひいきのほど、よろしくお願い致します!
異例の早さでパスポートを発行してもらった俺は、リュックに着替えとか生活必需品とかを詰めるだけ詰めて、空港へと行った。
ノコについては、リュカに面倒を頼んだ。友達を頼るのは気が引けたけど、リュカは事情を知った上で、そういうことならと、快諾してくれた。通院の対応や、定期的に寄っては状態を確認するなど、日々の世話をしてくれる。ありがたい話である。
空港に着くと、すでにタチアナとオリガが待っていた。
「遅いです」
タチアナはむぅと頬をふくらませている。
「タニャ姉、カンナさん時間通りに来たよー。遅くないよ」
オリガがすかさずフォローを入れてくれたけど、タチアナは、もっと早くに来てほしかったのだろう。不機嫌そうな様子を緩めることはない。
なかなか気難しい子だな、と扱いに困っていると、ちょうどそこへチハヤさん達もやって来た。
「ああ、この子達が、ナーシャさんの妹の……」
「タチアナです」
「オリガ!」
温度差のある、二人の挨拶。
オリガとは仲良くやっていけそうだけど、タチアナはなかなか気難しいところがある。この先の旅は大丈夫だろうか、と心配になる。
「先方は何か文句言ってました?」
「ええ、かなり。宴席とかも設けていてくれたみたいで、それらの予定を全て一から作り直しですから、だいぶ激怒しています」
そう言いつつ、チハヤさんは涼しげな顔をしている。
「なんか、だいぶ余裕ですね」
「私、正直な話、中国って嫌いなんですよ。国家も、人民も。だから、迷惑かけてもあまり気にはならないです。むしろ日本のほうがこれまで迷惑を被ってきているわけですから」
その話を聞いていて、なんとなく、母さんの主治医だった東郷先生の論説を思い出した。
ダンジョン禍は、中国から始まったのではないか、説。
だとすると、日本に限らず、全世界に多大な迷惑をかけていることとなる。いや、もちろん、中国もまた被害者なのかもしれないけど、それにしたって、世間一般の人情的には、もしも中国発祥なのだとしたら、あの国を悪者に仕立て上げるだろう。
「ところで、現地に着いてから、まずなにをやるんですか?」
「あっちの国では、ダンジョン探索庁に当たる省庁は、『地下城対策部』と言うのだそうです。その地下城対策部のメンバーと挨拶し、その晩は交流会。翌日はお互いにダンジョンに関する知見の意見交換をする、といった感じです」
「ああ、地下の城で、ダンジョンね」
中国語に直すと、やけに物々しい言葉になる。
やがて、フライトの時間がやって来たので、俺達は飛行機に乗り込んだ。席はバラバラなので、助かった。万が一、あの常時不機嫌なタチアナが隣に来たりしたら、地獄のフライトになるところだった。
行き先は北京。果たして、どんな出来事が待っているのか。
いまさらながら、俺は胸の昂ぶりを感じている。
これはドキドキなのだろうか。それともワクワク? もしかしたら、あっちのダンジョンへ潜る機会も出てくるかもしれない。それを考えると、なぜか、気分が高揚してくる。あんなに恐ろしい目に何度も遭ったというのに、どうしちゃったんだろう。
一つには、俺本来の性格もある。冒険が好きなので、これまで危険を省みず、ダンジョン配信をやって来れた、というのもある。
そしてもう一つは、「ダンジョンクリエイト」持ちである、ということだ。
俺のこの能力は、ゲンノウの言葉を信じるなら、どうやらウルカヌスとかいう神様が与えてくれたものらしい。
なぜ親子に揃って授けたのか。他にも世界中に「ダンジョンクリエイト」を授かった人間がいるのか。何もわかっていない。
そして、俺はこの能力を、これから先どうしていきたいのか。
ダンジョン攻略においては、かなりの強さを誇る能力だ。でも、周囲からしてみれば、危険なダンジョンを作り出す、呪われた能力でしかない。
かつては何も考えずに駆使していた「ダンジョンクリエイト」だけど、いよいよ、真剣に向き合うべき時が来たようだ。
「シートベルトをお締めください」
キャビンアテンダントさんに言われて、俺はシートベルトを締めた。すっかり考え事に夢中になって、機内のアナウンスに気が付かなかった。
まあ、あれこれ考えてもしょうがない。
この先、何が待ち受けていようと、どんと来いだ。
多くの人達の人生を、良いほうにも、悪いほうにも、大きく捻じ曲げてしまったダンジョン。
そのダンジョンに挑むのが、俺達Dライバーだ。
飛行機が動き始めた。そろそろ離陸する。
ナーシャに再会したら、まず何を言おうか。実は生きているのにそのことを教えてくれなかったことに対する文句をぶつけるか、それともなぜ虎剣《フージェン》のパートナーとして活躍しているのかを問いただすか。
(もともとは俺のパートナーだぞ、それを横取りしやがって)
急に頭の中に浮かんできた、虎剣《フージェン》に対する怒りの感情。
そんな思いを抱いていることに気が付き、俺はハッとなった。
いつの間にか、俺の中で、ナーシャの存在はかなり大きくなっていたようだ。
(会おう。とにかく、一日でも早く、ナーシャに会おう)
飛行機はスピードを上げ、滑走路を走っていく。やがて訪れる浮遊感。澄んだ青空に向かってグングンと上昇していく。
あの空の向こうにある、新天地に向かって。
(ナーシャ、待ってろよ!)
俺は決意を新たにするのであった。
(完)
【あとがき】
これにてひとまず完結です!
思いきり続きがあるような終わり方になっていますが、
続編を書くかどうかは未定です……
面白かったよ! とか、続編希望! とかありましたら、
ブックマーク、コメント、応援などいただけましたら、
大変嬉しくなり、続きを書くかもしれません!
ここまで読んでいただき、まことにありがとうございました!
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