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第53話 新宿ダンジョン⑦

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「マジで……! 不死身なの、あいつ……⁉」

 ナーシャはガトリングガンを構え直したが、すぐには攻撃を開始しない。様子見に入っている。

 チハヤさんやシュリさんも同じだ。底の知れない敵の強さに、これ以上攻めかかるのをためらっている。

 俺は、瞬時に頭を回転させた。

 どうする? どうやってこの場を切り抜ける?

 考えろ、考えるんだ。じゃないと、イワナガヒメと戦い続けていれば、いつかは俺達が負けてしまう。こいつは、まともに戦ってはいけない敵なんだ。戦うのではなくて、この戦いをいかに回避するか、そのことだけを考えろ。

 そして、俺は閃いた。

 閃いた、というより、半ばはヤケのような感覚だ。下手したら、負けてしまうかもしれない。全滅を早めるだけかもしれない。

 でも、ここで覚悟を決めなければ、生き残るチャンスを掴むことは出来ない。

「ナーシャ、チハヤさん、シュリさん。俺の合図に合わせて、ツインタワーのほうへ走って」
「え?」

 ナーシャが首を傾げた。

 作戦を説明したいところだけど、そんな余裕はない。イワナガヒメは空中で体勢を変えて、こちらへ向かって飛んでこようとしている。

「今だ! 走って!」

 三人とも、いきなり俺の合図を受けて、ほんの少しだけスタートが遅れたけど、そこは何も言わずとも信頼してくれたのか、揃って走り出した。

「死にに来たか!」

 凄絶な笑みを浮かべたイワナガヒメが、両腕を広げながら、空中をまっすぐ飛んでくる。

 そこで、俺は妖刀バイスを横薙ぎに振った。

「伸びろぉぉ!」

 隣のビルが変形し、横向きの新しいビルを中層から生やして、イワナガヒメに向かって突っ込んでいく。

「は! くだらぬ! この程度の攻撃でわらわを倒せると思うたか!」

 イワナガヒメは、ヒラリと空中で舞い、横合いから伸びてきたビルによる攻撃をかわした。

「まだまだぁ!」

 俺はさらに妖刀バイスを、右から左に、大きく弧を描くようにして振る。

 それと同時に、イメージした通りに、地面が変化して、上空にかかるアーチ型の構造物が出来上がった。

「なん……じゃ⁉」

 さすがに俺の意図を掴みかねたか、イワナガヒメは真上を見上げて、呆然としている。

「ここからが、俺の本領発揮! よく目に焼き付けろ!」

 ナーシャやチハヤさん達の移動ルートは塞がないようにしながら、縦横無尽に妖刀バイスを振って、ダンジョンの構造物を伸ばし、削り、形を変えていく。設計図があるわけではないから、かなり適当だけれど、なに、今から作ろうとしているのは、誰かにクリアしてもらうために親切設計で作り上げるダンジョンではない。

 およそ常人ではクリアできない、困難オブ困難、クソゲー的なダンジョンを、俺は生成しているのだ。

 これぞ、「ダンジョンクリエイト」。妖刀バイスを手に入れたからこそ出来た芸当だ。

「おのれええ! わらわを、こんな雑な迷宮に閉じ込める気かああ!」

 イワナガヒメの怒号が響き渡る。

 彼女は、ねじれを利用して、目の前の壁を次々と破壊していく。

 だけど、それよりも早く、俺はダンジョンを生成していく。

「……!」

 いつしか、重ねに重ねられていく迷宮によって、イワナガヒメの声は聞こえなくなってしまった。

「これで時間稼ぎは出来た!」

 新宿の街中に突如として誕生した、巨大な立方体の構造物。その中は、幾重にも張り巡らされた通路と、トラップがある。俺が生まれて始めて一から作り上げたダンジョン。本当の意味で、「ダンジョンクリエイト」のスキルをフル活用した瞬間だった。

 その中に閉じ込められたイワナガヒメは、今ごろ、ねじれの力を利用して、どんどん外へと向かっていることだろう。

 グズグズはしていられない。

 とにかく、この新宿ダンジョンを大きく作り変えた元凶、ゲンノウ――俺の親父――に会いに行く。そして、力尽くでも、この狂った所業をやめさせるんだ。

 場合によっては、イワナガヒメを元の世界へと追い返す方法も知っているかもしれない。彼女は、下手に倒そうとするよりも、またゲートを使ってご退場願うほうが早く解決すると思う。

 俺も、ナーシャ達を追って、ツインタワーに向かって走り出した。


 ※ ※ ※


 ツインタワーの前で、みんな待ってくれていた。

 レミさんは、相変わらずどこかのビルに狙撃のため待機しているようで、この場にはいない。もっとも、あの人は近距離戦は得意じゃないだろうから、ここには加わらないほうがいいだろう。

 さて、ツインタワーである。

 都庁跡に出来た、古風な円柱状の、二つの塔。右と左、どちらにゲンノウがいるのか。それとも、実はいないのか。

「二手に分かれましょう。私とシュリは、右の塔を上ります。あなた達は左の塔を攻めてください」

 チハヤさんがテキパキと指示を出す。

 その内容に異論はない。俺は、ナーシャと顔を向かい合わせると、お互いに頷いた。これまでずっと一緒に戦ってきた心強い相棒。ナーシャさえいれば、怖い物知らずだ。

「行こう、ナーシャ!」
「ええ!」

 いよいよ本当に最後の戦いが始まろうとしていた。
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