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1巻
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「も……もちろんよ」
ひくりと顔を歪ませながら、王妃は急いでその場を去っていく。
「ふ……母親、ねぇ」
アーヴィンは不敵に微笑みつつティーカップに残っている紅茶を飲み干した。
そして再びクッキーを手に取ると口の中に放り込んでいく。不思議な癒やしの効果があるそれを、アーヴィンは噛みしめるように味わった。
◆
いつものストレッチを終えたティーリアは、汗を拭きながら今後のことを考えていた。
――アーヴィン様をヤンデレにしないだけじゃ、ダメだよね……
悪役令嬢ティーリアは彼に無理やり襲われた後でヒロインの邪魔をする。
今の自分であれば、初めてがたとえ無理やりであっても、攻略対象に近づかなければ破滅せずに済むだろう。
そのままアーヴィンと結ばれる方向に進めばいい。いや、むしろそうなりたい。
問題はヒロインがアーヴィンを選んだ場合だ。
シナリオでは悪役令嬢は婚約者を盗られたと怒り、アーヴィンを取り戻すためにあれやこれやの手を使うが、それがかえってヒロインと彼との絆を強めることになる。
そして最悪なことに婚約を破棄され、アーヴィンのペットとして地下に監禁されてしまう。
――そ、そんなことにならないように、爽やか男子に育てないと……
自分の人生がかかっているからには、トレーニングを極めなくては。けれど、それ以外にも準備は必要だろう。
もし、ヒロインがアーヴィンを選んだ場合、きっと自分は邪魔者になってしまう。彼の幸せを思えば、どこかで引かなくてはいけない。
――やっぱり、逃亡できるように用意しておかなきゃね。
家族を守るためにも、何かあれば王都から離れ、自分一人で生活できるようにしておこう。
ただの公爵令嬢には難しくても、自分には前世の社畜根性が備わっている。
草でもなんでも料理して、生きていくだけの知識はある。……と思う。
身体もこのまま鍛えていけば、体力も十分つくはずだ。
そんなことは考えたくないけれど……彼から婚約を破棄された場合、すぐにでも王都を出られるようにしておこう。準備をしてしすぎることはない。
ティーリアは最後の手段として……逃亡ルートを考え、資金を外に貯めておく。
――できれば、こんな手段は採りたくないけれど、備えあれば憂いなし、だから。
子どもながらに大人びた顔をした彼女は、時折冒険者の姿になって下町へ行くようになる。全ては破滅を回避するためだった。
◆第二章
それから六年――ティーリアは魅力を増していくアーヴィンに負けないように、自分を磨くことを怠らなかった。
数々の男性を魅了するというゲームの設定通り、ティーリアの身体は女性らしく変化していく。
ダフィーナ王国では、婚約者のいない者は積極的に舞踏会に出て相手を見つけることが習慣になっていた。
ティーリアには既にアーヴィンがいるけれど、社交界デビューは令嬢にとって特別な意味を持つ。その日のために用意された白いドレスに、婚約者のいる者は相手の色のアクセサリーをつけてエスコートをしてもらう。
若い女性であれば憧れるデビューの日を、ティーリアは慄きながら待っていた。
――もうすぐよね……確か、ゲームが始まるのって。
ようやく十八歳になったティーリアは、はちきれんばかりに揺れる胸と引き締まった腰、ぷりっとした臀部にすらりと伸びる肢体、何よりも蠱惑的な瞳を持ち、見る者を惹きつけて止まない――とびっきりの美女となっていた。
少し上がり気味の目尻に、強気に見える眉を強調する化粧をすれば、ゲームの中のスチル画そっくりの『悪役令嬢』となるに違いない。
――あんなに頑張って、瘦せようとしたんだけどなぁ……
日々の訓練のおかげで腹筋はうっすらと割れている。
けれど思っていたように筋肉はつかず、胸も臀部もしっかり育って気がついた時には豊満ボディになっていた。
波打つ鮮やかな紅赤色の髪を垂らし、眉を整えて唇に色をつける。鏡の中に映る自分はどこからどう見ても男を惑わす絶世の美女だ。
――ただし、中身は大変残念なのですが……
努力したけれど勉強の方はさっぱりだった。地理も歴史も言語も覚えることができない。
マナーだけは辛うじて身に着けたけれど、運動ばかりに夢中になって、他がおろそかになっていた。
こんなことではアーヴィンに愛想をつかされてしまう……かもしれない。
成人した彼は魔道騎士として既に活躍している。今は隣国も大人しいのか、攻めてくる気配はないため王都にいて訓練する毎日だ。
ティーリアが日々励ました結果、彼はぱっと見ではわからないが全身が筋肉で覆われた屈強な騎士となっている。魔術の訓練も怠らず、攻撃力で右に出る者はいないという。
そして、とても爽やかな笑顔を振りまく好青年となっていた。
ゲームでは陰のある雰囲気を持ちながらも、女性をメロメロにする性技を持つ絶倫系のヤンデレキャラだったのと比べると、かなり違う。
といっても、彼が絶倫かどうかまではわからない。
一般的に魔力の強い人は精力も強いと言われているけれど……最近、特に彼が騎士団に入ってからは会うことが少なくなっていた。
アーヴィンの背は高くなり身体つきも更に男らしい。爽やかで朗らかな彼を遠目にでも見ることは、ティーリアの楽しみになっていた。
ティーリアは差し入れのお菓子を用意すると、騎士団の訓練場に行き彼の姿を探す。スタジアムのように円形となっている闘技場では、外部の者が入って見学できる日が決まっている。
婚約者とはいえ、子どもの頃のように頻繁に会えなくなっていた。
それでもなるべく近くにいたいから、ティーリアは見学可能な日は差し入れを持って闘技場に行き、訓練を見守っている。
今日は見学するだけだから、オフホワイトのエンパイアスタイルのドレスを選んでいた。
コルセットのいらない、胸の下で切り返しを作り、スカートがストンと下に落ちるデザインだ。
オフショルダーでチューブトップのため、胸の大きさが少し強調されてしまうけれど、どんなドレスを着ても同じだから仕方がない。
それに日に焼けないように、ハイ・ウエストの短い青のジャケットを羽織ることにした。これなら首元も腕も隠れる。
ちなみに青色を選んだのは、彼の瞳の色だから。だって、アーヴィンのことが大好きなことをいつでもアピールしていたい。
この日は騎士団の模擬戦闘訓練が行われていた。
「隊長、全員揃いました!」
「よしっ、お前達! どんな手を使ってもいいから一人ずつかかってこい!」
「「はいっ」」
ずらりと並んだ騎士達を前にして、部隊長のアーヴィンは声を張り上げた。まるで前世の体育会系の部活動を思い起こさせる。
ティーリアは日傘を差し中央の席に座った。
以前は最前列で見ていたけど、そうすると騎士達がチラチラとティーリアを見てしまう。それが気に入らなかったのか、アーヴィンからは後方に座るように言われている。
――そんなに心配しなくたって、私にはアーヴィン殿下だけなのになぁ……
ティーリアは自分がどれだけ人を惹きつける容姿をしているのか、わかっていなかった。
風に揺れる艶やかな紅赤色の髪に、雪のように白く透き通る肌。黒曜石のように輝く瞳に可愛らしい唇。
そして、服の下にははちきれんばかりの豊満ボディがあることが見え隠れしている。
アーヴィンの婚約者であると知らない新人騎士は、見学に来た彼女に気がつくと必ず目が離せなくなり――部隊長の彼から厳しくしごかれるのがセットであった。
「では! 一番から行きます!」
「おう!」
金色に輝く太陽のような髪をしたアーヴィンは、黒い戦闘用の騎士服を着ている。腰に剣を佩きながらも、余裕たっぷりに腕を組んで立っていた。
相手は正面に長剣を構え、打ち込もうとしている。
身体つきも大きく、いかにも強そうな騎士だ。
「はぁああ――っ!」
「気合の入れすぎだ」
騎士が打ち込むのと同時に、アーヴィンは片手で太刀筋を流し、向かってくる剣を横に反らす。
同時に空いている手で騎士の額を人差し指で突くと、あっという間に騎士はばたんと倒れてしまった。
「いいか、魔道騎士が相手であれば、太刀筋などすぐに見極められる。お前達はもっと工夫するんだ!」
「「はいっ」」
魔術を同時に使う騎士――魔道騎士は数が少ない。それでも一人いれば戦況を大きく変える存在のため、戦争となれば敵の魔道騎士を倒すことが先決だった。
そのため、アーヴィンは騎士達に戦うための訓練を怠らない。
どれだけ騎士が束になって挑んでも、アーヴィンは怯むことはなかった。彼の他にも魔道騎士はいるけれど、騎士としても一流の彼には太刀打ちできない。
――いつ見ても、かっこいいなぁ……
騎士達を指導する姿も、剣を持つ姿も全てがかっこいい。
あんなにも素敵な人が自分の婚約者だなんて、未だに信じられないくらいだ。
騎士団にいる時の彼は、強いカリスマ性を持ちリーダーシップを発揮している。
うっとりと見つめながら、ティーリアは自分で続けているトレーニングを思い出す。
本当は騎士団に入って基礎訓練を受けたいけれど、それだけはダメだとアーヴィンから止められていた。
それでもと粘ったものの、万一ティーリアの肌に傷をつけた騎士が出たら、そいつを半殺しにしかねないと言われてしまう。そうなると遠慮せざるを得なかった。
それに鍛えたけれど、女騎士となれるような身体ではない。
あまりにも肉が……胸とか臀部につきすぎている。どうやっても筋肉がつかない身体は、触れるとマシュマロのように柔らかくて……アーヴィンのお気に入りだ。
「でも、だんだん悪役令嬢に近づいているのよねぇ」
けれどもアーヴィンは爽やかな王子様になっている。
そうに違いないと思いつつ、訓練の終わった彼に差し入れを渡そうとティーリアは個室に向かっていった。
部隊長の彼は、騎士団の詰所にある部屋を割り当てられている。
そこには簡易なシャワー室もあり、着替えや仮眠ができるようになっていた。
「アーヴィン殿下。ティーリアです」
ノックをしたけれど返事がない。こうした時はシャワーを浴びているから、中に入って待っているようにと言われている。
いつものように侍女と護衛を控え室に待たせると、ティーリアはアーヴィンの部屋の扉を開けた。
アーヴィンはシャワー室で汗を流していたのか、濡れた金髪を布で拭きながらズボンだけを穿いた姿で立っている。
筋肉で陰影のある身体つきをし、腹部はきれいに割れていた。
「ティーリアか。待たせたね、こっちにおいで」
上半身を晒し、涼やかな目をしたアーヴィンが目の前にいる。
最近はよく見る姿だけれど、あまりにも目に眩しい。あれだけ鍛えているのに筋肉はほど良い感じだ。湯気と一緒に、男らしい色気も立ち上っていた。
――凄いなぁ、どんどんかっこよくなっていく。これなら私以外の女性に目を向けてもおかしくないよね……
自分にこだわることなく、適当に女性をつまみ食いして発散すれば、シナリオのようにティーリアを凌辱することはないかもしれない。
けれど、アーヴィンが他の女性に触れる――そのことを考えると、胸の奥がツキンと痛んだ。
「どうした? ティーリア。今日は大人しいね」
「いえ、そんなことは……」
「もう今日はトレーニングしないのか?」
「なっ、殿下は騎士団に入られたのですから、私が相手をしなくても」
ティーリアがはっと顔を上げると、冷ややかな目をしたアーヴィンと視線が絡んだ。
「……名前」
「え」
「名前。ティーリアは俺のこと、敬称ではなくて名前で呼んで」
「でも……もう、小さな子どもではありませんし」
「俺が嫌だから。ティーリアは……特別だって、知っているだろう?」
手を伸ばした彼はティーリアの頬を撫でた。
口元は笑っているのに、目が笑っていない。
どこか昏い色の瞳をした彼に、ティーリアは手作りのマカロンを差し出した。
「では、アーヴィン様。今日は自信作です」
「ふぅん。美味しそうな色をしているね」
「はいっ、この色を出すのが大変でした」
籠の中には色とりどりのマカロンを並べてある。ティーリアは彼に愛情を知ってもらおうと、こうして手作りのお菓子を焼いて持ってきていた。
「じゃ、君が食べさせて」
「え」
彼の長いまつ毛が紺碧の瞳の上に影を落としている。
どんな表情をしても彼はとても美しい。すっかり体育会系男子に育ち、普段は明るく人を引っ張るタイプの王子様なのに、ティーリアの前では甘える姿がキュンとする。
けれど時折、紺碧の向こう側に深い闇が見えることがあった。
――ううん、気のせいよ。彼はとっても明るい人になったし、病んでなんかいない……よね?
一抹の不安を覚えつつ、ティーリアは赤いマカロンを取ると彼の口元へ持っていった。
「美味しそうだ」
目を光らせて唇を舐めた彼から、壮絶な男の色気が漂っている。
マカロンのことを言っているのに、なぜか自分のことを言われた気がして、ティーリアは背筋をヒヤリとさせた。
――ま、まさかね……
アーヴィンのことは好きだけれど、とにかく彼が引き金となって自分は破滅の道をたどってしまう。それだけは避けたくて努力を重ねてきた。
しかし最近、アーヴィンが自分を見つめる瞳が怖い瞬間がある。
ゲームが開始する時期が近づいているから、余計に気になるのかもしれない。
赤いマカロンを口に入れたアーヴィンは、一緒にティーリアの指を舐めた。
「っ、ひっ」
手を掴まれると、離れることはできない。
「どうした? 指にお菓子の屑がついていたから、舐めただけだよ?」
「う、うん……」
目を細めてうっそりと笑った彼に、ティーリアは慄いてしまう。――嫌な予感しかしなかった。
「今日はどうして……そんなに離れて」
アーヴィンが視線を扉に向けると、カチャリと鍵がかかる音がする。
彼の魔術は、時折こうして使われる。鍵のかかる音――それはいつもの二人の時間を意味していた。
「おいで」
両手を広げる彼の元に引き寄せられる。左手で腰を持たれると、右手は必ずティーリアの顎にかけられた。
「……どうしてほしい?」
「どうして、って……」
答えるより早く、アーヴィンは薄い唇をティーリアの唇の上に置いた。
チュッとリップ音をさせて、愛おしむように唇を吸われる。そして再び探るような瞳でティーリアを覗き込んだ。
騎士団に入って二人で過ごす時間が少なくなった頃から、彼とキスをするようになっていた。
最近はそれだけでは止まらない。ティーリアが成人に近づくにつれ、彼の手と舌は激しく蠢くようになっていた。
――今日も、感じちゃう、かなぁ……
期待と不安と恐怖でドキドキする。最初はささやかな触れ合いだったのに、最近はエスカレートしている。
この前はとうとう、スカートの下に手を入れられ和毛に触れられた。そしてショーツの上から、あわいに沿って指でなぞられた。
こうした触れ合いになるとどことなく、彼の中の闇が増すような気がする。
「今日は俺ではなく、騎士の方を見ていたね」
「えっ、そんなこと」
「ダメだよ、相手がいくら怪我をしても。俺だけを見るように、いつも言っているだろう?」
顎をくいっと持ち上げられる。視線を外そうとしても、横を向くこともできない。
他の騎士を見ていたと言うけれど、アーヴィンの剣を避けきれず怪我をしたからだ。
少し心配になり見ていただけで、何もしていないのに。
最近のアーヴィンは、視線さえ独占したがる。……ちょっと怖い。
「ティーリア」
それでも硬い声で命じられると、身体の奥がキュンと疼く。ビクリと身体を震わせ、彼の熱っぽい視線に絡めるようにして見つめ直す。
「ごめん、なさい。もう、ア、アーヴィン様から目を離さないから……ゆるして」
目を潤ませて謝罪の言葉を告げると、彼は形の良い口の端をくいっと上げた。
同時に身体を密着させるように押しつけてくる。窓から差し込む光が眩しいくらいなのに、爽やかな彼はどこかに行ってしまったようだ。
ショートジャケットを脱がされると、コルセットをつけていない胸が彼の裸の胸に当たる。
綿モスリンの生地は薄くて、先端が彼の胸に当たりキュッと固くなった。
「うん、それなら口を開いて」
返事の代わりに薄く口を開くと、彼の舌が唇を舐める。
甘やかな吐息と共に、熱を帯びた目がこちらを覗き込む。そっと目を閉じると、それを合図に彼はこじ開けるように舌を入れてきた。
「んっ、んんっ……んっ」
息ができないほどの激しい口づけに耐えられず、思わず彼の両腕にしがみつく。
唇の裏側の柔らかい部分を重ね、湿り気のある音を立てながら彼の舌が口内で蠢いた。
歯列を舐め、頬の内側をなぞり唾液を呑まされる。こくりと喉を鳴らすと、アーヴィンは嬉しそうに目を細めていた。
ゾクゾクとした快感が背筋を通じて下半身に流れていく。こうなると膝がガクガクとして、立っていられない。
「ティーリア、腕を回して」
優しく、しかし逆らうことを許さない声で命じられると、再び下半身がキュンとする。
彼の厚い身体に腕をからめ、背中に手を伸ばして抱き着いた。
「そう、いい子だ」
顎を持っていた手が、いつの間にか後頭部に回されている。腰に添えられていた手は、まろやかな臀部の形を確かめるように、いやらしく動いている。
「んっ……んんっ……あっ、……はぁっ……ぁ」
恍惚とした瞳をしていると、口から溢れた唾液をじゅるっと呑み込まれる。
絡ませた舌先が痺れるほど彼に吸われ、頭の芯までもが痺れていくようだ。
「可愛いよ、ティーリア」
うっそりと囁かれると、頬がうっすらと熱を帯びる。
尖りを増した乳頭が、彼の硬い皮膚に当たっている。自然に上半身を揺らして、尖りに刺激を与えていた。
「……触ってほしい?」
「え?」
「自分の口で、言ってごらん。触れてほしいところ」
あまりにも恥ずかしすぎて、一気に顔が火照ってしまう。
いくら知識はあっても、前世では社畜すぎて恋愛する暇もなかった。こんな大人なキスはおろか、男の人の昂りさえ目にしたことはない。
身長差があるから、彼の腰にある雄の剣がティーリアの臍の部分に当たっていた。
いつもは厚い隊服のトラウザーズに守られているそれが、今日は薄い下穿きだけのためダイレクトに感じてしまう。
アーヴィンも自分に触れることで興奮していることがわかり、一層恥ずかしさが増していた。
「自分でわからないなら、教えてあげようか?」
「あっ」
彼は胸元を絞めるドレスの紐を緩めると、一気に引き下ろす。
「きゃあっ」
ポロン、と音を立てる勢いで裸の胸が露わになる。人よりはるかに豊かに育った胸は、はちきれんばかりに淡く色づいて揺れていた。
「……凄いな、こんなに熟れているなんて。……想像以上だ」
成長してから、アーヴィンに見られるのは初めてだ。
いつか、結婚した後に薄暗い部屋で触れられると思っていたのに、こんな昼間から明るい部屋で晒すことになるとは思っていなかった。さらに、乳頭は既に尖ってピンと勃っている。
「恥ずかしいから、待って」
腕で隠そうとしても、彼に両腕を押さえられる。その上、片足を股の間に入れられ、動きを封じられた。
熟れたベリーのように丸く色づいた先端に、薄い色をした大きめの乳輪。
うっとりとしたアーヴィンは、そのまま顔を近づけると先端に美味しそうに口づけた。
「んっ、あっ」
ピリッとした刺激が身体中を走り抜ける。
まるで赤ん坊のようにちゅうちゅうと吸いながら、舌先で乳頭を転がしている。片手で両方の手首を同時に押さえつけると、空いた手でもう片方の乳房を揉み始めた。
「あっ……っああっ……ん、あっ、気持ち……いいっ」
初めて与えられる快感に、頭の芯が蕩けそうになる。
彼の手に余るほどの乳房が、男の好きなように形を変えた。親指と人差し指で先端を摘まみつつ、大きな口を開けて乳輪いっぱいを食むように咥える。
「あああ……っんんっ、あっ……っ」
両方の乳頭を思う存分味わったアーヴィンは、口元を唾液でてらてらと濡らしたまま顔を上げた。はぁはぁと息を荒くしたティーリアの顔の前で、それを手で拭う。
――ぞくぞくするほど、色っぽい。
「ティーリアは、大きくなったね」
獣のような目をしながらも口元を緩め、アーヴィンが甘く囁いた。大きさを確かめるように、乳房を両方の手で揉みながら味わっている。
「もう……ダメ、だよ……」
婚約しているとはいえ、まだ結婚したわけではない。
長い付き合いがあるから、こうして部屋に二人きりでいるけれど、本来であればもっての外だ。
「もっと……吸わせて」
「んっ……んんっ……ぁ」
再び口を唇で覆われ、胸を揉みしだかれる。両方の手で先端を捏ねられながら、まるで犯すように舌先が入り込んできた。
彼の片足が股の部分を撫でるように押し上げている。いやらしい動きに、どこもかしこも痺れて快感が矢のように背筋を這い上がる。
「んんんっ、……んん――っ!」
ドクッと心臓が跳ねると同時に、脳天を快感が突き抜けていく。
ビクビクッと身体を震わせて、ティーリアは全身で達していた。
とろんとした目をして、絶頂の波が引くと共に身体から力が抜けていく。初めて味わった絶頂は、彼女の気力と体力をそぎ落としていた。
ひくりと顔を歪ませながら、王妃は急いでその場を去っていく。
「ふ……母親、ねぇ」
アーヴィンは不敵に微笑みつつティーカップに残っている紅茶を飲み干した。
そして再びクッキーを手に取ると口の中に放り込んでいく。不思議な癒やしの効果があるそれを、アーヴィンは噛みしめるように味わった。
◆
いつものストレッチを終えたティーリアは、汗を拭きながら今後のことを考えていた。
――アーヴィン様をヤンデレにしないだけじゃ、ダメだよね……
悪役令嬢ティーリアは彼に無理やり襲われた後でヒロインの邪魔をする。
今の自分であれば、初めてがたとえ無理やりであっても、攻略対象に近づかなければ破滅せずに済むだろう。
そのままアーヴィンと結ばれる方向に進めばいい。いや、むしろそうなりたい。
問題はヒロインがアーヴィンを選んだ場合だ。
シナリオでは悪役令嬢は婚約者を盗られたと怒り、アーヴィンを取り戻すためにあれやこれやの手を使うが、それがかえってヒロインと彼との絆を強めることになる。
そして最悪なことに婚約を破棄され、アーヴィンのペットとして地下に監禁されてしまう。
――そ、そんなことにならないように、爽やか男子に育てないと……
自分の人生がかかっているからには、トレーニングを極めなくては。けれど、それ以外にも準備は必要だろう。
もし、ヒロインがアーヴィンを選んだ場合、きっと自分は邪魔者になってしまう。彼の幸せを思えば、どこかで引かなくてはいけない。
――やっぱり、逃亡できるように用意しておかなきゃね。
家族を守るためにも、何かあれば王都から離れ、自分一人で生活できるようにしておこう。
ただの公爵令嬢には難しくても、自分には前世の社畜根性が備わっている。
草でもなんでも料理して、生きていくだけの知識はある。……と思う。
身体もこのまま鍛えていけば、体力も十分つくはずだ。
そんなことは考えたくないけれど……彼から婚約を破棄された場合、すぐにでも王都を出られるようにしておこう。準備をしてしすぎることはない。
ティーリアは最後の手段として……逃亡ルートを考え、資金を外に貯めておく。
――できれば、こんな手段は採りたくないけれど、備えあれば憂いなし、だから。
子どもながらに大人びた顔をした彼女は、時折冒険者の姿になって下町へ行くようになる。全ては破滅を回避するためだった。
◆第二章
それから六年――ティーリアは魅力を増していくアーヴィンに負けないように、自分を磨くことを怠らなかった。
数々の男性を魅了するというゲームの設定通り、ティーリアの身体は女性らしく変化していく。
ダフィーナ王国では、婚約者のいない者は積極的に舞踏会に出て相手を見つけることが習慣になっていた。
ティーリアには既にアーヴィンがいるけれど、社交界デビューは令嬢にとって特別な意味を持つ。その日のために用意された白いドレスに、婚約者のいる者は相手の色のアクセサリーをつけてエスコートをしてもらう。
若い女性であれば憧れるデビューの日を、ティーリアは慄きながら待っていた。
――もうすぐよね……確か、ゲームが始まるのって。
ようやく十八歳になったティーリアは、はちきれんばかりに揺れる胸と引き締まった腰、ぷりっとした臀部にすらりと伸びる肢体、何よりも蠱惑的な瞳を持ち、見る者を惹きつけて止まない――とびっきりの美女となっていた。
少し上がり気味の目尻に、強気に見える眉を強調する化粧をすれば、ゲームの中のスチル画そっくりの『悪役令嬢』となるに違いない。
――あんなに頑張って、瘦せようとしたんだけどなぁ……
日々の訓練のおかげで腹筋はうっすらと割れている。
けれど思っていたように筋肉はつかず、胸も臀部もしっかり育って気がついた時には豊満ボディになっていた。
波打つ鮮やかな紅赤色の髪を垂らし、眉を整えて唇に色をつける。鏡の中に映る自分はどこからどう見ても男を惑わす絶世の美女だ。
――ただし、中身は大変残念なのですが……
努力したけれど勉強の方はさっぱりだった。地理も歴史も言語も覚えることができない。
マナーだけは辛うじて身に着けたけれど、運動ばかりに夢中になって、他がおろそかになっていた。
こんなことではアーヴィンに愛想をつかされてしまう……かもしれない。
成人した彼は魔道騎士として既に活躍している。今は隣国も大人しいのか、攻めてくる気配はないため王都にいて訓練する毎日だ。
ティーリアが日々励ました結果、彼はぱっと見ではわからないが全身が筋肉で覆われた屈強な騎士となっている。魔術の訓練も怠らず、攻撃力で右に出る者はいないという。
そして、とても爽やかな笑顔を振りまく好青年となっていた。
ゲームでは陰のある雰囲気を持ちながらも、女性をメロメロにする性技を持つ絶倫系のヤンデレキャラだったのと比べると、かなり違う。
といっても、彼が絶倫かどうかまではわからない。
一般的に魔力の強い人は精力も強いと言われているけれど……最近、特に彼が騎士団に入ってからは会うことが少なくなっていた。
アーヴィンの背は高くなり身体つきも更に男らしい。爽やかで朗らかな彼を遠目にでも見ることは、ティーリアの楽しみになっていた。
ティーリアは差し入れのお菓子を用意すると、騎士団の訓練場に行き彼の姿を探す。スタジアムのように円形となっている闘技場では、外部の者が入って見学できる日が決まっている。
婚約者とはいえ、子どもの頃のように頻繁に会えなくなっていた。
それでもなるべく近くにいたいから、ティーリアは見学可能な日は差し入れを持って闘技場に行き、訓練を見守っている。
今日は見学するだけだから、オフホワイトのエンパイアスタイルのドレスを選んでいた。
コルセットのいらない、胸の下で切り返しを作り、スカートがストンと下に落ちるデザインだ。
オフショルダーでチューブトップのため、胸の大きさが少し強調されてしまうけれど、どんなドレスを着ても同じだから仕方がない。
それに日に焼けないように、ハイ・ウエストの短い青のジャケットを羽織ることにした。これなら首元も腕も隠れる。
ちなみに青色を選んだのは、彼の瞳の色だから。だって、アーヴィンのことが大好きなことをいつでもアピールしていたい。
この日は騎士団の模擬戦闘訓練が行われていた。
「隊長、全員揃いました!」
「よしっ、お前達! どんな手を使ってもいいから一人ずつかかってこい!」
「「はいっ」」
ずらりと並んだ騎士達を前にして、部隊長のアーヴィンは声を張り上げた。まるで前世の体育会系の部活動を思い起こさせる。
ティーリアは日傘を差し中央の席に座った。
以前は最前列で見ていたけど、そうすると騎士達がチラチラとティーリアを見てしまう。それが気に入らなかったのか、アーヴィンからは後方に座るように言われている。
――そんなに心配しなくたって、私にはアーヴィン殿下だけなのになぁ……
ティーリアは自分がどれだけ人を惹きつける容姿をしているのか、わかっていなかった。
風に揺れる艶やかな紅赤色の髪に、雪のように白く透き通る肌。黒曜石のように輝く瞳に可愛らしい唇。
そして、服の下にははちきれんばかりの豊満ボディがあることが見え隠れしている。
アーヴィンの婚約者であると知らない新人騎士は、見学に来た彼女に気がつくと必ず目が離せなくなり――部隊長の彼から厳しくしごかれるのがセットであった。
「では! 一番から行きます!」
「おう!」
金色に輝く太陽のような髪をしたアーヴィンは、黒い戦闘用の騎士服を着ている。腰に剣を佩きながらも、余裕たっぷりに腕を組んで立っていた。
相手は正面に長剣を構え、打ち込もうとしている。
身体つきも大きく、いかにも強そうな騎士だ。
「はぁああ――っ!」
「気合の入れすぎだ」
騎士が打ち込むのと同時に、アーヴィンは片手で太刀筋を流し、向かってくる剣を横に反らす。
同時に空いている手で騎士の額を人差し指で突くと、あっという間に騎士はばたんと倒れてしまった。
「いいか、魔道騎士が相手であれば、太刀筋などすぐに見極められる。お前達はもっと工夫するんだ!」
「「はいっ」」
魔術を同時に使う騎士――魔道騎士は数が少ない。それでも一人いれば戦況を大きく変える存在のため、戦争となれば敵の魔道騎士を倒すことが先決だった。
そのため、アーヴィンは騎士達に戦うための訓練を怠らない。
どれだけ騎士が束になって挑んでも、アーヴィンは怯むことはなかった。彼の他にも魔道騎士はいるけれど、騎士としても一流の彼には太刀打ちできない。
――いつ見ても、かっこいいなぁ……
騎士達を指導する姿も、剣を持つ姿も全てがかっこいい。
あんなにも素敵な人が自分の婚約者だなんて、未だに信じられないくらいだ。
騎士団にいる時の彼は、強いカリスマ性を持ちリーダーシップを発揮している。
うっとりと見つめながら、ティーリアは自分で続けているトレーニングを思い出す。
本当は騎士団に入って基礎訓練を受けたいけれど、それだけはダメだとアーヴィンから止められていた。
それでもと粘ったものの、万一ティーリアの肌に傷をつけた騎士が出たら、そいつを半殺しにしかねないと言われてしまう。そうなると遠慮せざるを得なかった。
それに鍛えたけれど、女騎士となれるような身体ではない。
あまりにも肉が……胸とか臀部につきすぎている。どうやっても筋肉がつかない身体は、触れるとマシュマロのように柔らかくて……アーヴィンのお気に入りだ。
「でも、だんだん悪役令嬢に近づいているのよねぇ」
けれどもアーヴィンは爽やかな王子様になっている。
そうに違いないと思いつつ、訓練の終わった彼に差し入れを渡そうとティーリアは個室に向かっていった。
部隊長の彼は、騎士団の詰所にある部屋を割り当てられている。
そこには簡易なシャワー室もあり、着替えや仮眠ができるようになっていた。
「アーヴィン殿下。ティーリアです」
ノックをしたけれど返事がない。こうした時はシャワーを浴びているから、中に入って待っているようにと言われている。
いつものように侍女と護衛を控え室に待たせると、ティーリアはアーヴィンの部屋の扉を開けた。
アーヴィンはシャワー室で汗を流していたのか、濡れた金髪を布で拭きながらズボンだけを穿いた姿で立っている。
筋肉で陰影のある身体つきをし、腹部はきれいに割れていた。
「ティーリアか。待たせたね、こっちにおいで」
上半身を晒し、涼やかな目をしたアーヴィンが目の前にいる。
最近はよく見る姿だけれど、あまりにも目に眩しい。あれだけ鍛えているのに筋肉はほど良い感じだ。湯気と一緒に、男らしい色気も立ち上っていた。
――凄いなぁ、どんどんかっこよくなっていく。これなら私以外の女性に目を向けてもおかしくないよね……
自分にこだわることなく、適当に女性をつまみ食いして発散すれば、シナリオのようにティーリアを凌辱することはないかもしれない。
けれど、アーヴィンが他の女性に触れる――そのことを考えると、胸の奥がツキンと痛んだ。
「どうした? ティーリア。今日は大人しいね」
「いえ、そんなことは……」
「もう今日はトレーニングしないのか?」
「なっ、殿下は騎士団に入られたのですから、私が相手をしなくても」
ティーリアがはっと顔を上げると、冷ややかな目をしたアーヴィンと視線が絡んだ。
「……名前」
「え」
「名前。ティーリアは俺のこと、敬称ではなくて名前で呼んで」
「でも……もう、小さな子どもではありませんし」
「俺が嫌だから。ティーリアは……特別だって、知っているだろう?」
手を伸ばした彼はティーリアの頬を撫でた。
口元は笑っているのに、目が笑っていない。
どこか昏い色の瞳をした彼に、ティーリアは手作りのマカロンを差し出した。
「では、アーヴィン様。今日は自信作です」
「ふぅん。美味しそうな色をしているね」
「はいっ、この色を出すのが大変でした」
籠の中には色とりどりのマカロンを並べてある。ティーリアは彼に愛情を知ってもらおうと、こうして手作りのお菓子を焼いて持ってきていた。
「じゃ、君が食べさせて」
「え」
彼の長いまつ毛が紺碧の瞳の上に影を落としている。
どんな表情をしても彼はとても美しい。すっかり体育会系男子に育ち、普段は明るく人を引っ張るタイプの王子様なのに、ティーリアの前では甘える姿がキュンとする。
けれど時折、紺碧の向こう側に深い闇が見えることがあった。
――ううん、気のせいよ。彼はとっても明るい人になったし、病んでなんかいない……よね?
一抹の不安を覚えつつ、ティーリアは赤いマカロンを取ると彼の口元へ持っていった。
「美味しそうだ」
目を光らせて唇を舐めた彼から、壮絶な男の色気が漂っている。
マカロンのことを言っているのに、なぜか自分のことを言われた気がして、ティーリアは背筋をヒヤリとさせた。
――ま、まさかね……
アーヴィンのことは好きだけれど、とにかく彼が引き金となって自分は破滅の道をたどってしまう。それだけは避けたくて努力を重ねてきた。
しかし最近、アーヴィンが自分を見つめる瞳が怖い瞬間がある。
ゲームが開始する時期が近づいているから、余計に気になるのかもしれない。
赤いマカロンを口に入れたアーヴィンは、一緒にティーリアの指を舐めた。
「っ、ひっ」
手を掴まれると、離れることはできない。
「どうした? 指にお菓子の屑がついていたから、舐めただけだよ?」
「う、うん……」
目を細めてうっそりと笑った彼に、ティーリアは慄いてしまう。――嫌な予感しかしなかった。
「今日はどうして……そんなに離れて」
アーヴィンが視線を扉に向けると、カチャリと鍵がかかる音がする。
彼の魔術は、時折こうして使われる。鍵のかかる音――それはいつもの二人の時間を意味していた。
「おいで」
両手を広げる彼の元に引き寄せられる。左手で腰を持たれると、右手は必ずティーリアの顎にかけられた。
「……どうしてほしい?」
「どうして、って……」
答えるより早く、アーヴィンは薄い唇をティーリアの唇の上に置いた。
チュッとリップ音をさせて、愛おしむように唇を吸われる。そして再び探るような瞳でティーリアを覗き込んだ。
騎士団に入って二人で過ごす時間が少なくなった頃から、彼とキスをするようになっていた。
最近はそれだけでは止まらない。ティーリアが成人に近づくにつれ、彼の手と舌は激しく蠢くようになっていた。
――今日も、感じちゃう、かなぁ……
期待と不安と恐怖でドキドキする。最初はささやかな触れ合いだったのに、最近はエスカレートしている。
この前はとうとう、スカートの下に手を入れられ和毛に触れられた。そしてショーツの上から、あわいに沿って指でなぞられた。
こうした触れ合いになるとどことなく、彼の中の闇が増すような気がする。
「今日は俺ではなく、騎士の方を見ていたね」
「えっ、そんなこと」
「ダメだよ、相手がいくら怪我をしても。俺だけを見るように、いつも言っているだろう?」
顎をくいっと持ち上げられる。視線を外そうとしても、横を向くこともできない。
他の騎士を見ていたと言うけれど、アーヴィンの剣を避けきれず怪我をしたからだ。
少し心配になり見ていただけで、何もしていないのに。
最近のアーヴィンは、視線さえ独占したがる。……ちょっと怖い。
「ティーリア」
それでも硬い声で命じられると、身体の奥がキュンと疼く。ビクリと身体を震わせ、彼の熱っぽい視線に絡めるようにして見つめ直す。
「ごめん、なさい。もう、ア、アーヴィン様から目を離さないから……ゆるして」
目を潤ませて謝罪の言葉を告げると、彼は形の良い口の端をくいっと上げた。
同時に身体を密着させるように押しつけてくる。窓から差し込む光が眩しいくらいなのに、爽やかな彼はどこかに行ってしまったようだ。
ショートジャケットを脱がされると、コルセットをつけていない胸が彼の裸の胸に当たる。
綿モスリンの生地は薄くて、先端が彼の胸に当たりキュッと固くなった。
「うん、それなら口を開いて」
返事の代わりに薄く口を開くと、彼の舌が唇を舐める。
甘やかな吐息と共に、熱を帯びた目がこちらを覗き込む。そっと目を閉じると、それを合図に彼はこじ開けるように舌を入れてきた。
「んっ、んんっ……んっ」
息ができないほどの激しい口づけに耐えられず、思わず彼の両腕にしがみつく。
唇の裏側の柔らかい部分を重ね、湿り気のある音を立てながら彼の舌が口内で蠢いた。
歯列を舐め、頬の内側をなぞり唾液を呑まされる。こくりと喉を鳴らすと、アーヴィンは嬉しそうに目を細めていた。
ゾクゾクとした快感が背筋を通じて下半身に流れていく。こうなると膝がガクガクとして、立っていられない。
「ティーリア、腕を回して」
優しく、しかし逆らうことを許さない声で命じられると、再び下半身がキュンとする。
彼の厚い身体に腕をからめ、背中に手を伸ばして抱き着いた。
「そう、いい子だ」
顎を持っていた手が、いつの間にか後頭部に回されている。腰に添えられていた手は、まろやかな臀部の形を確かめるように、いやらしく動いている。
「んっ……んんっ……あっ、……はぁっ……ぁ」
恍惚とした瞳をしていると、口から溢れた唾液をじゅるっと呑み込まれる。
絡ませた舌先が痺れるほど彼に吸われ、頭の芯までもが痺れていくようだ。
「可愛いよ、ティーリア」
うっそりと囁かれると、頬がうっすらと熱を帯びる。
尖りを増した乳頭が、彼の硬い皮膚に当たっている。自然に上半身を揺らして、尖りに刺激を与えていた。
「……触ってほしい?」
「え?」
「自分の口で、言ってごらん。触れてほしいところ」
あまりにも恥ずかしすぎて、一気に顔が火照ってしまう。
いくら知識はあっても、前世では社畜すぎて恋愛する暇もなかった。こんな大人なキスはおろか、男の人の昂りさえ目にしたことはない。
身長差があるから、彼の腰にある雄の剣がティーリアの臍の部分に当たっていた。
いつもは厚い隊服のトラウザーズに守られているそれが、今日は薄い下穿きだけのためダイレクトに感じてしまう。
アーヴィンも自分に触れることで興奮していることがわかり、一層恥ずかしさが増していた。
「自分でわからないなら、教えてあげようか?」
「あっ」
彼は胸元を絞めるドレスの紐を緩めると、一気に引き下ろす。
「きゃあっ」
ポロン、と音を立てる勢いで裸の胸が露わになる。人よりはるかに豊かに育った胸は、はちきれんばかりに淡く色づいて揺れていた。
「……凄いな、こんなに熟れているなんて。……想像以上だ」
成長してから、アーヴィンに見られるのは初めてだ。
いつか、結婚した後に薄暗い部屋で触れられると思っていたのに、こんな昼間から明るい部屋で晒すことになるとは思っていなかった。さらに、乳頭は既に尖ってピンと勃っている。
「恥ずかしいから、待って」
腕で隠そうとしても、彼に両腕を押さえられる。その上、片足を股の間に入れられ、動きを封じられた。
熟れたベリーのように丸く色づいた先端に、薄い色をした大きめの乳輪。
うっとりとしたアーヴィンは、そのまま顔を近づけると先端に美味しそうに口づけた。
「んっ、あっ」
ピリッとした刺激が身体中を走り抜ける。
まるで赤ん坊のようにちゅうちゅうと吸いながら、舌先で乳頭を転がしている。片手で両方の手首を同時に押さえつけると、空いた手でもう片方の乳房を揉み始めた。
「あっ……っああっ……ん、あっ、気持ち……いいっ」
初めて与えられる快感に、頭の芯が蕩けそうになる。
彼の手に余るほどの乳房が、男の好きなように形を変えた。親指と人差し指で先端を摘まみつつ、大きな口を開けて乳輪いっぱいを食むように咥える。
「あああ……っんんっ、あっ……っ」
両方の乳頭を思う存分味わったアーヴィンは、口元を唾液でてらてらと濡らしたまま顔を上げた。はぁはぁと息を荒くしたティーリアの顔の前で、それを手で拭う。
――ぞくぞくするほど、色っぽい。
「ティーリアは、大きくなったね」
獣のような目をしながらも口元を緩め、アーヴィンが甘く囁いた。大きさを確かめるように、乳房を両方の手で揉みながら味わっている。
「もう……ダメ、だよ……」
婚約しているとはいえ、まだ結婚したわけではない。
長い付き合いがあるから、こうして部屋に二人きりでいるけれど、本来であればもっての外だ。
「もっと……吸わせて」
「んっ……んんっ……ぁ」
再び口を唇で覆われ、胸を揉みしだかれる。両方の手で先端を捏ねられながら、まるで犯すように舌先が入り込んできた。
彼の片足が股の部分を撫でるように押し上げている。いやらしい動きに、どこもかしこも痺れて快感が矢のように背筋を這い上がる。
「んんんっ、……んん――っ!」
ドクッと心臓が跳ねると同時に、脳天を快感が突き抜けていく。
ビクビクッと身体を震わせて、ティーリアは全身で達していた。
とろんとした目をして、絶頂の波が引くと共に身体から力が抜けていく。初めて味わった絶頂は、彼女の気力と体力をそぎ落としていた。
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