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チョコ姫と王様

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「その…チョコ姫を呼んでくるように」

 トゥルク王は、今夜はもうキッチンの仕事はいいから、自分の執務室に来るようにと伝えた。
チョコ姫がどうして料理人をしているのか、聞かないと眠れそうにない。

「失礼します…」

 そう言って部屋に入って来たチョコ姫は、サッと着替えたのか黄色のワンピースを着ていた。
それは彼女のふんわりとしたイメージに似合っていた。

 トゥルク王はチョコ姫を眩しそうに目を細めて眺めた。
こんなにも可愛らしい、自分の好みドストライクの女性であったとは。
なぜ、もっと早くこの姿をみなかったのだろう、とても残念に思うのだった。

「チョコ姫…その。料理人になるのが夢だったのか?」

「はい、カカオ国では、女性は料理人になることは出来ません。まして私は王女でしたので。時折、料理長に頼んでキッチンを使わせていただき、お菓子を作るのが精いっぱいで…」

 チョコ姫は少し落ち込んだように、下を向いた。カカオ国での自分は、王女であるが7番目の王女で、母親は庶民出で、城で召使をしていた女(ひと)だ。とても高貴な血筋だと言えない。

「でも、ここではだれも私のことを王女扱いしなくて、むしろ庶民出のメイドか何かだと思われていました。そしてお菓子作りの腕を見込まれて、夢だった料理人になることができました。感謝しかありません」

 トゥルク王はそっとチョコ姫の傍に行き、頭を手でポン、ポンと撫でた。

「よく、頑張ったな。料理人といっても、立ち仕事だ。辛いこともあるだろう…」

 チョコ姫はちょっとびっくりして、トゥルク王を見上げた。彼は背が高い。そして、チョコ姫は勝手に料理人になったことを叱られると思っていたのだ。

「最近、食事に出てくるデザートがとても美味しくて。君が作っていたんだな。ありがとう」

 そして褒められた。

「あの…私、料理人を続けてもいいのでしょうか?この暮らしが、とっても幸せなんです」

 チョコ姫は涙目になって必死になって頼んだ。ようやく夢がかなったのだ。

「あー…その…そうだな…」

 でも、トゥルク王の返事ははっきりしない。少し戸惑った様子の王は、それでも言葉を繋げた。

「チョコ姫。その…住まいは元の離れ…いや、宮殿の中の私の隣の部屋に移動してくれないか?…その、やはり使用人の寮では、君の安全を確保できない」

 下心満載のトゥルク王は、覚悟を決めた。こんなに可愛い姫が傍にいるから、食べちゃおう。

「へ?引っ越しですか?」

 きょとんとした目をして、口をちょっと開けてこちらを見ている。……可愛い。トゥルク王はこれまでにない疼きを感じた。このまま食べてしまいたいが、やはりそれは早急すぎる。

「あぁ、君はカカオ国の王女だからね。いくら君が庶民の暮らしがしたいと言っても、よからぬことを考える者がこの国にもいる。私は君を…守りたいから。ね、いいね」

 最後はちょっと強引に話を決めてしまう。チョコ姫は最後の「いいね」と言って手を引っ張っていくトゥルク王に、また心臓が跳ねたのを感じた。チョコ姫はチョロい姫だった。

「さ、この部屋だよ」

 案内されたその部屋は、通常であれば王様の伴侶である皇后の使う部屋だ。さすがのチョコ姫も気が付いた。

「トゥルク王…この部屋は…貴方にとって特別な方だけの部屋です」

 焦るチョコに、それでも嫌がる雰囲気のないことを感じ取ったトゥルク王は、チョコ姫の手を両手で握り締めながら囁いた。

「君が…私の特別になってくれると嬉しい。チョコ姫、君を食べてしまいたいくらいだ」

 はっとしてトゥルク王の顔を見ると、その蒼い瞳の奥に何かを滾らせるようにチョコ姫を見つめている。

 身体の奥から、何かが込み上げてくる。チョコ姫は、こんなに美しい王が自分に欲望を感じてくれている、そのことが嬉しかった。

「あっ」

 気が付いたら、王の唇がチョコ姫の上に落ちてきた。チョコ姫の心も落ちた。



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