102 / 103
番外編 2
しおりを挟む
「アユ、帰ったよ」
玄関を開けた途端、大きな薔薇の花束が目に入ってきた。
「シキズキ!どうしたの?お花なんか買ってきて!」
「アユ…ほんっと残念な女だなぁ。今日は、二人が初めてキスした記念日だろぅ?」
ジトっとした目で、ついシキズキを見てしまう。そんな記念日まで、覚えていません。
「あ、すみません。お邪魔しまッス。ポコです」
二人のやり取りを見ていたポコが、後ろからにゅっと顔をだしてきた。まだ17歳の彼は、どことなく幼さの残る顔をしている。平民の彼は、言葉遣いも荒いとシキズキから事前に聞いていた。
「あ~、いらっしゃい!お待ちしていました!」
明るい声で返事をしたアユフィーラは、エプロンを外してにこやかな笑顔でポコを迎えた。
「アユ…お帰りのキスは?」
「な、なに言ってるの!お客さんがいるでしょ、そんな恥ずかしいこと、できません」
チェっと舌打ちするシキズキを無視して、花束を花瓶に入れながら二人を客間へ招き入れた。
「へぇ~、やっぱり貴族様なんッスね、アニキ」
「あ、まぁ、な。この屋敷も、アユフィーラの家で余っていただけだ」
「ひょえぇぇ~、余っているのがこんなおっきい家ッスか!いいッスね!」
王都にある邸宅の中で、比較的小さなものを選んでアユフィーラ達の住まいとしている。デズモンド侯爵家は、帝国の中でも大貴族の一つだ。侯爵の住んでいる本宅は、これの比ではない。
「シキズキ…あなた、アニキって呼ばれているの?」
紅茶を用意しながら、アユフィーラが声をかける。
「あっ、すいません。シキズキ先輩って、騎士団の中では黒紋のアニキって、呼ばれているッス」
「え?黒紋のアニキ?」
「はいっ、アニキの背中にあるでっかい紋が、そりゃぁもう、有名ッス!」
その黒紋は、魔術師としてのシキズキの魔術を封印している、いわくつきの紋である。それが騎士団の中ではまるで「勇者の印」の如く、有名だと聞く。確かに、騎士団にいれば汗をかいて半裸になることもあるだろう、だが…
「黒紋のアニキ…なにその、厨二病みたいなキャラ…貴方、以前は氷の魔術師だったでしょ…」
「へ?氷の魔術師ッスか?それもカッキイッスね!いやぁ~、最初はシキズキ先輩、お貴族様でこの顔で、そんでもって年もいってるし。それが脱いだら背中におっきな黒い紋が彫られていて、もう騎士団中で話題になったッスよ!」
「ポコ、お前黙れ…」
夕食を前に盛り上がったところで、食前酒と前菜を用意した召使いが部屋に入って来た。
「ひょえぇ~、アニキはいつもこんな夕食ッスかぁ?すげぇ~」
「ポコ…今日は特別だ」
アユフィーラも味付けの確認のために一度下がり、二人のために大きく切ったステーキを持ってきた。
「はい、今日は奮発しましたよ!ポコさんも遠慮なく、食べてくださいね!」
「ありがたいッス!ごちになります!」
玄関を開けた途端、大きな薔薇の花束が目に入ってきた。
「シキズキ!どうしたの?お花なんか買ってきて!」
「アユ…ほんっと残念な女だなぁ。今日は、二人が初めてキスした記念日だろぅ?」
ジトっとした目で、ついシキズキを見てしまう。そんな記念日まで、覚えていません。
「あ、すみません。お邪魔しまッス。ポコです」
二人のやり取りを見ていたポコが、後ろからにゅっと顔をだしてきた。まだ17歳の彼は、どことなく幼さの残る顔をしている。平民の彼は、言葉遣いも荒いとシキズキから事前に聞いていた。
「あ~、いらっしゃい!お待ちしていました!」
明るい声で返事をしたアユフィーラは、エプロンを外してにこやかな笑顔でポコを迎えた。
「アユ…お帰りのキスは?」
「な、なに言ってるの!お客さんがいるでしょ、そんな恥ずかしいこと、できません」
チェっと舌打ちするシキズキを無視して、花束を花瓶に入れながら二人を客間へ招き入れた。
「へぇ~、やっぱり貴族様なんッスね、アニキ」
「あ、まぁ、な。この屋敷も、アユフィーラの家で余っていただけだ」
「ひょえぇぇ~、余っているのがこんなおっきい家ッスか!いいッスね!」
王都にある邸宅の中で、比較的小さなものを選んでアユフィーラ達の住まいとしている。デズモンド侯爵家は、帝国の中でも大貴族の一つだ。侯爵の住んでいる本宅は、これの比ではない。
「シキズキ…あなた、アニキって呼ばれているの?」
紅茶を用意しながら、アユフィーラが声をかける。
「あっ、すいません。シキズキ先輩って、騎士団の中では黒紋のアニキって、呼ばれているッス」
「え?黒紋のアニキ?」
「はいっ、アニキの背中にあるでっかい紋が、そりゃぁもう、有名ッス!」
その黒紋は、魔術師としてのシキズキの魔術を封印している、いわくつきの紋である。それが騎士団の中ではまるで「勇者の印」の如く、有名だと聞く。確かに、騎士団にいれば汗をかいて半裸になることもあるだろう、だが…
「黒紋のアニキ…なにその、厨二病みたいなキャラ…貴方、以前は氷の魔術師だったでしょ…」
「へ?氷の魔術師ッスか?それもカッキイッスね!いやぁ~、最初はシキズキ先輩、お貴族様でこの顔で、そんでもって年もいってるし。それが脱いだら背中におっきな黒い紋が彫られていて、もう騎士団中で話題になったッスよ!」
「ポコ、お前黙れ…」
夕食を前に盛り上がったところで、食前酒と前菜を用意した召使いが部屋に入って来た。
「ひょえぇ~、アニキはいつもこんな夕食ッスかぁ?すげぇ~」
「ポコ…今日は特別だ」
アユフィーラも味付けの確認のために一度下がり、二人のために大きく切ったステーキを持ってきた。
「はい、今日は奮発しましたよ!ポコさんも遠慮なく、食べてくださいね!」
「ありがたいッス!ごちになります!」
1
お気に入りに追加
615
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
一途なエリート騎士の指先はご多忙。もはや暴走は時間の問題か?
はなまる
恋愛
シエルは20歳。父ルドルフはセルベーラ国の国王の弟だ。17歳の時に婚約するが誤解を受けて婚約破棄された。以来結婚になど目もくれず父の仕事を手伝って来た。
ところが2か月前国王が急死してしまう。国王の息子はまだ12歳でシエルの父が急きょ国王の代理をすることになる。ここ数年天候不順が続いてセルベーラ国の食糧事情は危うかった。
そこで隣国のオーランド国から作物を輸入する取り決めをする。だが、オーランド国の皇帝は無類の女好きで王族の女性を一人側妃に迎えたいと申し出た。
国王にも王女は3人ほどいたのだが、こちらもまだ一番上が14歳。とても側妃になど行かせられないとシエルに白羽の矢が立った。シエルは国のためならと思い腰を上げる。
そこに護衛兵として同行を申し出た騎士団に所属するボルク。彼は小さいころからの知り合いで仲のいい友達でもあった。互いに気心が知れた中でシエルは彼の事を好いていた。
彼には面白い癖があってイライラしたり怒ると親指と人差し指を擦り合わせる。うれしいと親指と中指を擦り合わせ、照れたり、言いにくい事があるときは親指と薬指を擦り合わせるのだ。だからボルクが怒っているとすぐにわかる。
そんな彼がシエルに同行したいと申し出た時彼は怒っていた。それはこんな話に怒っていたのだった。そして同行できる事になると喜んだ。シエルの心は一瞬にしてざわめく。
隣国の例え側妃といえども皇帝の妻となる身の自分がこんな気持ちになってはいけないと自分を叱咤するが道中色々なことが起こるうちにふたりは仲は急接近していく…
この話は全てフィクションです。
不器用騎士様は記憶喪失の婚約者を逃がさない
かべうち右近
恋愛
「あなたみたいな人と、婚約したくなかった……!」
婚約者ヴィルヘルミーナにそう言われたルドガー。しかし、ツンツンなヴィルヘルミーナはそれからすぐに事故で記憶を失い、それまでとは打って変わって素直な可愛らしい令嬢に生まれ変わっていたーー。
もともとルドガーとヴィルヘルミーナは、顔を合わせればたびたび口喧嘩をする幼馴染同士だった。
ずっと好きな女などいないと思い込んでいたルドガーは、女性に人気で付き合いも広い。そんな彼は、悪友に指摘されて、ヴィルヘルミーナが好きなのだとやっと気付いた。
想いに気づいたとたんに、何の幸運か、親の意向によりとんとん拍子にヴィルヘルミーナとルドガーの婚約がまとまったものの、女たらしのルドガーに対してヴィルヘルミーナはツンツンだったのだ。
記憶を失ったヴィルヘルミーナには悪いが、今度こそ彼女を口説き落して円満結婚を目指し、ルドガーは彼女にアプローチを始める。しかし、元女誑しの不器用騎士は息を吸うようにステップをすっ飛ばしたアプローチばかりしてしまい…?
不器用騎士×元ツンデレ・今素直令嬢のラブコメです。
12/11追記
書籍版の配信に伴い、WEB連載版は取り下げております。
たくさんお読みいただきありがとうございました!
婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!
柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる