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 髪を短くして、爽やかに笑うその顔は、かつての学園でのシキズキを思い起こさせた。

「シキズキ、本当に私でいいの?貴方を傷つけてばかりで、私…」

「アユ、アユフィーラ。俺にとっては、お前しかいない。結婚しよう、アユ」

 私を真っすぐに見つめ、大きな両手で私の手を握ってくれる。彼はいつも、私を暖かく包んでくれる。

「……シキズキ、私も結婚したい。私にも、貴方しかいない」

 答えた途端に、涙が頬を伝った。自分勝手な私だけれど、彼と結婚したいことに偽りはない。

「よし、じゃあ、宣誓しよう。この後、希望する組は、すぐに結婚の宣誓ができるらしい」

「ひゃい?宣誓って、すぐに?」

 そんなことは、聞いたことがない…いや、あるかもしれない。通常は、婚約の宣誓をして、結婚式は後日となることが多いが、それは時代の変遷で変わったことで、元々は赤の日に結婚するための制度だ。

 アユフィーラが展開の早さについていけない間に、シキズキはイザークを呼び出し、二人で担当官のところで話をしていた。しばらくすると、担当官から2組が呼び出され、これから結婚の宣誓と署名を行うと説明を受けた。

「えー、珍しいことですが、発表当日に結婚の宣誓を行うことは可能です。別室で行いますので、こちらに」

 そう言われて、連れていかれた小さな部屋には、祭壇があり、担当官の方が宣誓の式文を読み上げた。セリアも、一体何が行われているのか、さっきから涙をこらえながら聞いている。

「は、はい、誓います」
「誓います」

 セリア達が先に、宣誓を行い、結婚証明書にサインする。

 次は、シキズキとアユフィーラの番だ。

「誓います」
「はい、誓います」

 宣誓を終えた後、シキズキが担当官の方に話かけた。何か要領を得たのか、担当官の方はちょっと微笑んで、「記念のための指輪を」と言われた。

 彼は、持ってきていたのだ。あの三連の指輪を。

「アユ、幸せになろうな…」

 そう言って、私の左手の薬指に指輪をはめた。そして、チュッと唇を落とした。

 あの、少し寒い日に選んだ指輪。もう、嵌めることはないと思っていた。金と、銀の輪が重なりあっている。それは、絡んでほどけなくなっていた私たちの運命が、ようやく重なり合ったように、輝いている。

 その後はセリア達と同じように、結婚証明書にサインをした。担当官は「では、これで承りました。おめでとうございます」と一言を添えて、さっさとその部屋を出て行った。

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