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「あった…」

 周囲では、発表と同時に驚きの声や、感嘆の声も聞こえる。だが、アユフィーラには何の音も届かない。

 あった、彼の名前が。―――シキズキの名前が!

「アユっ!アユフィーラ!」

 懐かしい声が聞こえる。同じ水色の紙を持った彼は、銀色の短髪を立たせ、息を切らせて走って来た。

「アユ…、見つけたよ…」

 黒の瞳を揺らしながら、彼は茫然とするアユフィーラを力強く抱きしめた。

「シキズキ……」

 諦めていたはずの彼が、ここいる。彼はスレイヤールを捨てて、ここに来たのだ。

「アユ、結婚してほしい」

 アユを抱きしめる腕に、ギュッと力が入る。

「シキ…ズキ、本当に、この国に来たのね……」

「あぁ、アユ。俺、魔術師を辞めてきた。このサザン帝国で、騎士になろうと思って」

「どうして?どうしてそこまでして…」

 魔術師を辞めて騎士になる、なんて。魔術師なんて、そんな簡単に辞めることができたのか?シキズキのように有能な彼を、スレイヤールが手放したということなのだろうか。

「魔術紋で、制限めいっぱいかけて、永久紋に固定した。だから、もう魔術は使えない」

「魔術紋、って…」

「仕事がないと、帝国に移住できないからさ、騎士の卒業資格を使って、イザークに頼んでこっちの騎士団に入団できるように、頼んでいたから、何とかなった」

「え、じゃあ、本当に騎士団に入ったの?」

「あぁ、市中警護が中心だから、イザークのように宮廷騎士団とは違うが、騎士になれた」

 シキズキはスレイヤール王国からサザン帝国に移住した。留学時に3年以上滞在していたので、赤の日に出る資格も得ていた。魔術師を辞めて、騎士になる内定をもらっていたから、仕事もある。

「もう、俺は優秀な魔術師じゃない。アユ、手紙に書いていただろう、俺は優秀な魔術師だから、別れるって」

 だから魔術師を辞めたと言うのか!あれだけ、強大な魔力を持っていたのに。次期筆頭魔術師と言われていたのに。

「シキズキ…もう、スレイヤールの王太子殿下は、関係ないの?」

「あぁ、関係ない。もともと、5年間の契約だったからな。ただ、俺はスレイヤールの機密事項を知りすぎたから、それを封じないと出国できなかった。それだけだ」

 そんなに簡単なことにも思えないが、とにかく今、彼はここにいて、私の婚約者として選ばれた。

「あっ、セリア!セリアは?シキズキ、イザーク先輩も、参加しているって」

「あぁ、彼らなら、ほら、あそこにいる」

 示された方向を見ると、二人が抱き合っているのが見えた。セリアは涙を流している。どうやら、二人も無事に組み合わされたようだ。

「シキズキ…、帝国が動いてくれたのかしら」

 声を潜めて、聞いてみる。自分もそうだが、セリア達もカップルになっている。偶然にしては、出来すぎている。やはり、皇帝への直訴が届いたのだろう。

「アユ、それはともかく、アユ。返事は?」

「へ?返事って?」

「俺と、結婚してくれるか、どうかの返事」
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