【完結】初恋相手にぞっこんな腹黒エリート魔術師は、ポンコツになって私を困らせる

季邑 えり

文字の大きさ
上 下
85 / 103

3-9

しおりを挟む
「あった…」

 周囲では、発表と同時に驚きの声や、感嘆の声も聞こえる。だが、アユフィーラには何の音も届かない。

 あった、彼の名前が。―――シキズキの名前が!

「アユっ!アユフィーラ!」

 懐かしい声が聞こえる。同じ水色の紙を持った彼は、銀色の短髪を立たせ、息を切らせて走って来た。

「アユ…、見つけたよ…」

 黒の瞳を揺らしながら、彼は茫然とするアユフィーラを力強く抱きしめた。

「シキズキ……」

 諦めていたはずの彼が、ここいる。彼はスレイヤールを捨てて、ここに来たのだ。

「アユ、結婚してほしい」

 アユを抱きしめる腕に、ギュッと力が入る。

「シキ…ズキ、本当に、この国に来たのね……」

「あぁ、アユ。俺、魔術師を辞めてきた。このサザン帝国で、騎士になろうと思って」

「どうして?どうしてそこまでして…」

 魔術師を辞めて騎士になる、なんて。魔術師なんて、そんな簡単に辞めることができたのか?シキズキのように有能な彼を、スレイヤールが手放したということなのだろうか。

「魔術紋で、制限めいっぱいかけて、永久紋に固定した。だから、もう魔術は使えない」

「魔術紋、って…」

「仕事がないと、帝国に移住できないからさ、騎士の卒業資格を使って、イザークに頼んでこっちの騎士団に入団できるように、頼んでいたから、何とかなった」

「え、じゃあ、本当に騎士団に入ったの?」

「あぁ、市中警護が中心だから、イザークのように宮廷騎士団とは違うが、騎士になれた」

 シキズキはスレイヤール王国からサザン帝国に移住した。留学時に3年以上滞在していたので、赤の日に出る資格も得ていた。魔術師を辞めて、騎士になる内定をもらっていたから、仕事もある。

「もう、俺は優秀な魔術師じゃない。アユ、手紙に書いていただろう、俺は優秀な魔術師だから、別れるって」

 だから魔術師を辞めたと言うのか!あれだけ、強大な魔力を持っていたのに。次期筆頭魔術師と言われていたのに。

「シキズキ…もう、スレイヤールの王太子殿下は、関係ないの?」

「あぁ、関係ない。もともと、5年間の契約だったからな。ただ、俺はスレイヤールの機密事項を知りすぎたから、それを封じないと出国できなかった。それだけだ」

 そんなに簡単なことにも思えないが、とにかく今、彼はここにいて、私の婚約者として選ばれた。

「あっ、セリア!セリアは?シキズキ、イザーク先輩も、参加しているって」

「あぁ、彼らなら、ほら、あそこにいる」

 示された方向を見ると、二人が抱き合っているのが見えた。セリアは涙を流している。どうやら、二人も無事に組み合わされたようだ。

「シキズキ…、帝国が動いてくれたのかしら」

 声を潜めて、聞いてみる。自分もそうだが、セリア達もカップルになっている。偶然にしては、出来すぎている。やはり、皇帝への直訴が届いたのだろう。

「アユ、それはともかく、アユ。返事は?」

「へ?返事って?」

「俺と、結婚してくれるか、どうかの返事」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

【完結】転生したら少女漫画の悪役令嬢でした〜アホ王子との婚約フラグを壊したら義理の兄に溺愛されました〜

まほりろ
恋愛
ムーンライトノベルズで日間総合1位、週間総合2位になった作品です。 【完結】「ディアーナ・フォークト! 貴様との婚約を破棄する!!」見目麗しい第二王子にそう言い渡されたとき、ディアーナは騎士団長の子息に取り押さえられ膝をついていた。王子の側近により読み上げられるディアーナの罪状。第二王子の腕の中で幸せそうに微笑むヒロインのユリア。悪役令嬢のディアーナはユリアに斬りかかり、義理の兄で第二王子の近衛隊のフリードに斬り殺される。 三日月杏奈は漫画好きの普通の女の子、バナナの皮で滑って転んで死んだ。享年二十歳。 目を覚ました杏奈は少女漫画「クリンゲル学園の天使」悪役令嬢ディアーナ・フォークト転生していた。破滅フラグを壊す為に義理の兄と仲良くしようとしたら溺愛されました。 私の事を大切にしてくれるお義兄様と仲良く暮らします。王子殿下私のことは放っておいてください。 ムーンライトノベルズにも投稿しています。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

十年間片思いしていた幼馴染に告白したら、完膚なきまでに振られた俺が、昔イジメから助けた美少女にアプローチを受けてる。

味のないお茶
恋愛
中学三年の終わり、俺。桜井霧都(さくらいきりと)は十年間片思いしていた幼馴染。南野凛音(みなみのりんね)に告白した。 十分以上に勝算がある。と思っていたが、 「アンタを男として見たことなんか一度も無いから無理!!」 と完膚なきまでに振られた俺。 失意のまま、十年目にして初めて一人で登校すると、小学生の頃にいじめから助けた女の子。北島永久(きたじまとわ)が目の前に居た。 彼女は俺を見て涙を流しながら、今までずっと俺のことを想い続けていたと言ってきた。 そして、 「北島永久は桜井霧都くんを心から愛しています。私をあなたの彼女にしてください」 と、告白をされ、抱きしめられる。 突然の出来事に困惑する俺。 そんな俺を追撃するように、 「な、な、な、な……何してんのよアンタ……」 「………………凛音、なんでここに」 その現場を見ていたのは、朝が苦手なはずの、置いてきた幼なじみだった。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

処理中です...