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 そしてとうとう、この日が来た。―――赤の日だ。

 朝から、アユフィーラは着飾るために支度をしている。必要なムダ毛を剃り、髪を丁寧に洗ってから乾かし、肌の手入れも念入りにされた。気慣れないコルセットをぎゅうぎゅうに締め上げ、豊かな胸とキュッと締まった腰とのコントラストが美しい。

 誰がアユフィーラの隣に立つものとなるかわからないが、第一印象を良くしたい。デズモンド侯爵が召使たちに命じ、準備がされたのだ。自ずと気合がはいった。

「今日は、赤のドレスね」

 アユフィーラは、珍しくドレスの色に拘った。今夜は、胸元は白く、段々と下に行くにしたがって燃えるような赤になるグラデーションのドレスを選んだ。胸元はレースの隙間から、谷間が見える。可愛らしさと、大人っぽい姿が同じに垣間見える。

「胸の谷間を他の男に見せるな、って、言ってたな」

 また、彼のことばを、仕草を思い出してしまう。

 支度が出来ると、アユフィーラは覚悟を決めて、会場に向かう。今夜、すべての決着がつく。




 会場の入り口で、魔術の仕込まれた紙を渡される。発表時に、その紙に婚約相手の名前と、プロフィールが表れ、揃いの色となる。その色同士で引き合うので、広い会場にいても、相手を見つけることができるようだ。

 アユフィーラは、一つだけ懸念があった。それは、イザーク先輩が参加している、ということだった。

 だれと組み合わされるかわからない赤の日だが、傾向はある。高位貴族は、高位貴族同士で組み合わされることが多いと聞く。そうなると、通常では参加することのない高位貴族に入る自分と、イザーク先輩が参加しているのだ。皇帝に直訴はしたものの、願いが通ったという連絡はない。

「もし、イザーク先輩と結婚することになったら、どうしたらいいのかな」

 そう思うと、会場に来ているセリアを探す気にもなれない。発表時に、泣き崩れるセリアの隣で、イザークの手を取る自分でいたくなかった。

 セリアも、イザークも同じなのかもしれない。会場に着いたが、誰とも、何も会話をしなかった。他の人も同じ気持ちなのか、音楽がその場を支配していた。シキズキ先輩も会場にいるハズだが、その姿は見えなかった。




「これより、発表を行う。各自、己の氏名が書かれた紙を確認せよ」

 帝国から派遣されている文官が、声をあげる。説明と共に、発表の時がきた。

 目をつむる。覚悟してきたのだ、この紙に表れる人を、私は愛していこう。

 そう、覚悟して手の中にある紙をみる。どうか、イザークの名前はありませんように。シキズキ先輩の名前がありますように、と祈りつつ。



‥‥‥さぁぁっと、紙の上に文字が現れた。

―――シキズキ・ドース―――
職業:騎士 年齢:23 出身:スレイヤール王国


 アユフィーラの瞳のような水色になった紙の上には、シキズキの名前が書かれていた。

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