【完結】初恋相手にぞっこんな腹黒エリート魔術師は、ポンコツになって私を困らせる

季邑 えり

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「ねぇ、アユフィーラ。久しぶりに、馬に乗りたいな」

 ひとしきり泣いた後で、セリアが提案してきた。

「そうだね、気分転換に、乗馬クラブに行こうか」

 そうして、私たちはデズモンド家の所有する乗馬クラブに、行くことにした。白樺の林は、かつてと変わることなく、心地よい風が吹いていた。

「セリア、私、二人乗りなんて上手にできないからね、しっかりつかまっていてね」

 私の愛馬に、セリアを前に乗せて歩かせる。二人乗りで馬を走らせる自信のなかった私は、ゆっくりと歩かせている。

「うん、それでも楽しいわ。今日は乗馬日和ね」

 しばらく進んだ私たちは、小川の近くで休むことにした。

「ねぇ、アユフィーラ。赤の日の意味、知ってる?」

 唐突に、セリアが聞いてきた。赤の日って、普通に言っていたけど。

「赤の日、はね。昔は発表の日のうちに、結婚式もしたんですって。そうすると、その日が初夜になるでしょ」

「そうなるわね」

「血が流れるから、赤の日」

 なんだか切ない。多くの純潔の散る日というわけか。

「もう一つはね、以前は貴族は全員参加だったでしょ、皇族も。で、望まない相手と結婚することになった人の自殺が、後を絶たなかったのですって」

「そう、だから赤の日…」

 どちらの意味も、血が流れる、ということだ。こんな不吉な制度、よく帝国は維持している。

「ほんと、不思議よね…かつての帝国の拡大期の、植民地支配の名残でしょ。負の遺産よ」

「でも、その制度を私たちは利用しているわ」

「そうね、そうでなきゃ、魔術師の女なんて、売れ残るしかないしね!」

 お互い、恋愛に疲れていた。結婚相手とは、穏やかな日常を過ごせるといい。セリアと、どうせなら同じ日に結婚式をしよう、とか。どちらが赤ちゃんを早く産むか、とか。まだ相手もわからないのに、勝手なことを言い合ってみる。

「セリア、そう言えば、以前ここに来た時に、顔を真っ赤にしていたよね。すっごい昔の話だけど」

「あら、そうしたこともあったわね」

「あれ、何だったの?結局聞き損ねていたから、気になってきた」

 思えば、あの日からセリアとイザーク先輩の関係が深まっていったような…

「あれね、私とイザーク先輩で、賭けをしたのよ。で、私が負けてしまって。罰として、パンツを脱いで1日過ごす、っていう罰ゲーム」

「へ?パンツ?」

「そうなのよねぇ。思えばあの頃から、イザークはアホだったわ。あれは恥ずかしかったわ」

 そう言って二人で笑っていたら、上の方から声が聞こえてきた。

「だれがアホだ、だれが」

 白馬に乗っていたのは、騎士姿のイザーク先輩だった。

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