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しおりを挟む結局、私は派遣延長をしないで、サザン帝国に予通り、帰ることにした。
「デズモンド嬢、帰国する意志は、変わらないのか?まだ、延長をするのであれば、申請してくれれば…」
「お世話になりました。アレクセイ部長。研究期間は1年でしたし、家族も待っていますので」
今日は最後の日だ。
「ドース部長に、挨拶できないが、いいのか?その、君たちは…」
あの公開告白があって以来、私たちが付き合っていることは、知られている。もちろん、アレクセイ部長もだ。
「彼が休暇の前に、挨拶していますので大丈夫です。ただ、もしかしたら、ちょっと荒れるかもしれませんが…」
帰国することを決心したのは、彼が王都を離れてからだ。あの日以来、彼と過ごした部屋にも帰っていない。今日までシキズキ先輩に会うことがなかったことは、助かった。彼に説得されていたら、この決心が揺らぎかねない。
薄い氷のような、決心だった。
私の帰国を聞いて、彼が暴走しないよう、手紙を書いておいた。私の正直な、気持ちだ。
―――命令で捨てられた私は、命令でまた、関係を戻した。貴方は優秀な魔術師だから、今後も国家に縛られるだろう。いつかまた、命令で、私は捨てられるかもしれない。それは、絶えられない。だから、お別れします。さようなら―――
簡潔な言葉でかいた手紙。それ以上、書いたら、決心が鈍るように思えた。
私は、シキズキ先輩ほど優秀な魔術師ではない。たまたま、国際コンペで受賞したが、それも、もともとのアイデアは、200年前の天才外科医の発明したものだ。
先輩を信じるだけの、自信も何もなかった。
「まぁ、アレクセイ部長が身体をはって、彼をなだめてくださいね」
きっと、しばらくは仕事にならないのかもしれない。かつて私が、彼に捨てられた後、寝込んだように。図らずしも、今度は私が彼を捨てることになる。
「デズモンド嬢、また、何かあればいつでも頼って欲しい。君と過ごすことが出来て、私たちも楽しかったよ」
開発チームの人達とは、充実した関係を持つことができた。また、会える機会も少ないだろうが、この1年は忘れない。
帝国に帰る飛行艇の中で、海が輝いている景色を見ながら、そう言えば二人で海を見れなかったな、と思った。
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