【完結】初恋相手にぞっこんな腹黒エリート魔術師は、ポンコツになって私を困らせる

季邑 えり

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 部長も、遅めの時間になってようやく、食堂に来る時間ができたようだ。

「はい、忙しくなっていますが、充実しています。国際コンペに出展できるだけでも、大きな収穫です」

「そうか…、いや、開発部門としては、君の発想力を高く評価していてね」

「嬉しいです。それも、スレイヤールの開発文化が、とても風通しが良くて、私も意見が言いやすいからですね」

 食事中の社交辞令なのかもしれないが、評価してもらえている、というのは嬉しい。

「スレイヤールを気に入ってもらえて、嬉しいよ。で、その…、実は、君さえ良ければ、スレイヤールに移籍してこないかと、思ってね。率直に聞くけど、どう思う?」

 アレクセイ部長は、ストレートに聞いてきた。引き抜きのお誘いだ。

「それは、帝国に戻らない、ということでしょうか」

「今回のコンペの結果にもよるが、上層部が君のことをかなり評価していてね。できればこのまま、こちらに来てもらうことも、考えられないか、どうかと…」

 引き抜いてこい、と言われている私だ。帝国が、私にスレイヤールに残ることを許すとは思えない。それに、私にはもっと重要な理由がある。

「申し訳ありません。家の事情で、どうしても帝国を離れることが出来ません」

「家というのは、そうか、侯爵家の一人娘だったか、君は」

「はい、跡取り娘です。できれば、スレイヤールから優秀な魔術師さんをお婿さんにして、連れ帰りたいくらいです」

 それとなく、話題を変えておこう。

「ははは、君が本気になれば、あのシキズキでさえ、引っ張られそうだな」

「まさか…そんな。彼のように優秀な方を、王国が手放すはずは、ありませんよ」

「そりゃそうだ。彼一人で一個師団ほどの兵力になるくらいだからな。優秀な魔術師、というのも不自由なものだな」

 不自由?彼がどうして不自由なのだろうか。あれだけ、自分のしたいことを、したいようにしている人が。

伯爵家の嫡男として生まれたのに、簡単に手放してしまった。私はどうだろう、侯爵家を捨てることなんて、とてもではないが、できそうにない。

「他に、お婿さん候補はいませんか?アレクセイ部長が推薦してくだされば、簡単なのですが」

「ははは、では、僕ではどうかな?一応、未婚だよ。ちょっと年は離れているがね」

「そんな、部長ほどの方を婿にしたら、それこそ王国にとって、大損害になってしまいますよ」

「ははは、そうでもないよ。君のような美人と結婚できるなら、全てを捨てても構わないよ」

 そんな、三流ドラマみたいなことを言って。どこまで本気で、どこまで冗談かわからないような会話をして、昼食を終えた。夕方にはまた、難しい会合が一つ待っている。

 そしてその日は、想定外の事態が起こり、アユフィーラは残業を余儀なくされることになった。

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