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しおりを挟む先輩の住む、ドース伯爵家を訪問してから、しばらくは仕事が忙しかった。合同開発チームが、国際魔道具開発のコンペティションに出展することが決まり、数あるチームの中から、アユフィーラの所属するチームが出ることになった。
「私、こうした国際コンペに参加するのは初めてで、‥‥‥胃が痛いです」
「あら、帝国では出展したことないの?」
「いえ、出ているとは思いますが、私はまだ新入りなので、とても参加する機会はありませんでした」
「あぁ、帝国では、割と上下が厳しいらしいわね」
医療メスの開発が、アユフィーラの提言を基に改良したところ、効果が劇的に上昇した。そして、それを実用化する道を、シキズキの部下に当たる第二開発部門のメンバーが提言し、今回の出展が決まった。
何か賞をとることが出来れば、かなりの成果となる。それも、アイデアの基を出したのがアユフィーラということもあり、第一提言者として選ばれている。要するに、チームで出展しているが、成果はアユフィーラのもの、と認識される。
国際コンペの為に、忙しい日々が続く。他にも開発チームに呼ばれることが多くなったので、さらに寝不足の日々が続いている。
「まさか、国際コンペに出展するおかげで、彼に会う機会が増えるなんて、ね…」
毎年、コンペ会場は各国に設けられ、それを空間魔法で繋げる。年に一度の、魔術師たちがお互いの技を競い、互いに研鑽しあう場だ。
一昨年、昨年と、このコンペでシキズキ・ドースは最優秀賞を受賞している。それも偵察部門と、魔道具開発部門と、両方で受賞した。それ以来、彼の名は優秀な魔術師として各国に知られるようになる。
今年は後進に譲る、といって特に出展していない。むしろ、アユフィーラの出展を手伝うような形になっていた。
「デズモンドさん、この角度はどうしますか?」
「こちらの器具は、組み合わせが上手くいかないのですが…」
「よろしければ、こちらの魔道具が参考になると思いますよ、デズモンドさん」
次々と話しかけられる頻度が増えた。中には、なぜ自分に質問されるのかわからない内容もあるが、とにかく忙しくなった。
その状況をみて、二人の部長で話し合い、国際コンペまでアレクセイとシキズキが、アユフィーラのサポートをすることになった。
「ドース部長、こちらの提案で、よろしいでしょうか」
「ああ、そこに置いてください。この書類が終われば、確認します」
以前よりは確実に、話す機会は増えたけれど、基本的に仕事の付き合い以上の会話はない。
「ドース部長、一緒に休憩しませんか?」
「すまないが、仕事が立て込んでいてね…」
「ドース部長、今度、お時間がある時に教えてほしいのですが」
「その内容であれば、アレクセイの方が適任ですよ」
何を言っても、誘っても、決して二人きりとならないように、断られる。
「ドース部長、あの、イザークの手紙は読んでいただきましたか?」
「あぁ、屋敷まで来てくれたそうだね。ありがとう、でも、これからは職場で教えてください」
目もあわせてくれない。かつては、彼の方から視線を合わせるように、と、きつく言われたのに。
「避けられている、よね‥‥」
遅めの昼食を、食堂でとる。最近は、ゆっくり昼食を食べる時間もなかった。
「アユフィーラさん、一緒にいいですか?」
声をかけてきたのは、アレクセイ部長だった。
「国際コンペにも出展することになって、忙しくなっているね」
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