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 父の話は、やはりと言うべきか、シキズキ先輩と私との婚約話だった。デビューのエスコート役を認めた父のことだ、シキズキ先輩のことは、十分に調べていたのであろう。

 先輩とグレアム様は、二人で訪れて、父と三人で話をされ、そして、その日は私と話をすることなく、帰って行った。なので、どのような話が具体的にあったのかは、わからない。

「アユフィーラ、今日、お前の婚約のことで、ソングフィールド卿と話をした」

「お父様…」

「先方は、提案を喜んでいたが、国をまたがることだから、即決することは出来ない、とのことだ」

「はい、覚悟しています」

「お前のことだ、わきまえていると思うが、今後は慎重にな…親族の目もある」

 父は、先輩が婿入りしてくれるようであれば、帝国の魔術師団への入団を推薦することや、ドース伯爵家への経済的支援など、いろいろと提案してくれた。

 時間がかかる、と言って、返事を保留された。少なくとも、先輩が卒業するまでに、はっきりするだろう。

「お父様、いろいろとご提案くださり、ありがとうございます」

「いや、なに。私も娘が可愛いだけだ。お前が、泣くことのないように、とは思っているが…どうだろうな」

 父は、先輩が帝国に残る道を用意してくれた。将来、一緒になることなど、ありえないと思っていたのに、道が出来たことに、私は喜んだ。そして、期待した。先輩が私を選んでくれれば、この先も一緒にいられるのだ。

 私はこの時、この婚約話は単純に私と、シキズキ先輩のものだと思っていた。だが、実際には、シキズキ・ドースという強力な魔術師を巡って、サザン帝国と、スレイヤール王国の国家間の問題に発展しているとまで、思い至ることはできなかった。

 シキズキ・ドースは、それ程までに、魔術師として優秀でありすぎたのだ。

もし、彼が平凡な人であったら。私はこの後、涙を流すことはなかったのかも、しれない。

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