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 真っ白な、デビューの為のイブニングドレス。銀色のバレッタをつけて、彼を待つ。

 シキズキ先輩は、今日は髪を全部後ろに流して固め、黒の夜会服をスマートに着こなしていた。そして、今夜は赤い薔薇を持って、迎えに来てくれた。

「俺のお姫様。お迎えに上がりました」

 玄関で、父も見守る中、物語の中の王子様のごとく、キラキラとした笑顔で私をエスコートする。

「ドース殿、娘をよろしく頼む」

「はい。今夜は、私の後見人の、ソングフィールド卿も一緒に出席します。何かあれば、共に対応致してくれるので、ご安心ください」

「そうか、外交官の方が一緒であれば、安心だな。まぁ、アユフィーラ、楽しんでおいで」

「はい、お父さま。行ってまいります」

「そうそう、ドース殿。今度、よかったらソングフィールド卿と一緒に、我が家にお招きしたいので、その旨お話しいただきたい」

「わかりました。都合をつけて、伺わせていただきます」

 父は、ご機嫌な顔で私たちを見送ってくれた。

 今日の先輩は、いつもの気怠い感じなど全くない、爽やかで男らしい青年貴族である。そんな男性が、私のようにぽちゃっとした、さすがに今日は眼鏡をかけていないが、おチビさんのエスコートをしてくれる。

 普段から思っているので、今更だけど、釣り合っていない。噂になるのは、目に見えている。が、グレアム様が一緒にいれば、きっと違った方向で目立つことになるだろう。

「先輩、今日はグレアム様も、いらっしゃるのですね」

「アユ、今日は先輩じゃなくて、名前で呼んで。学園じゃないし、俺は恋人だから」

「…はい。シキズキ様」

「よし。本当は二人きりの時は、愛称のシキ―って呼んで欲しいけど」

「それは…ちょっと。先輩は先輩なので。許してください」

「はぁ、わかった。まぁ、気長に待つよ」

 今日の夜会は皇帝も、皇族も出席する大規模なものだ。自ずと、緊張してくる。

 そんな私の緊張を感じたのか、先輩は指を絡ませるように手を握り、そして髪を撫でてくれた。私と目が合うと、微笑んでくれて、いつもの安心感を与えてくれる。

「俺の側から、離れないこと。俺以外の男と話さないこと。俺以外の男を見ないこと…」

「先輩、全くもって約束できません。離れない、ようにしたいですが、先輩こそ、お付き合いもあるのではありませんか?」

「そうだなぁ、俺個人っていうより、グレアムさんに振り回されるかもなぁ。あの人、俺を連れ回すからな。さすがに今日は、アユがいるから、お役御免にしてもう予定だけど」

「ふふふ、私、先輩とグレアム様の二人のお姿のスチール、見たいです。萌えですね…」

「アユ、なんか違う世界にいっていないか…」

 ちょっと心配そうに、眉をへにゃってさせている。可愛い、先輩。

 そんなとりとめのないことを話しながら、会場に到着した。すぐに、グレアム様と合流するが、デビューの私は、別の待機場に案内される。

「アユ、また後で。‥‥愛しているよ」

 そう言いながら、シキズキ先輩は少し屈んで、おでこにチュっと軽くキスを落としていった。周囲にいた、他のデビューを待つ令嬢たちが、息を止めてみているのを感じる。なんだろう、目立ちたくないのに、私。彼といると、どうしても視線を浴びてしまう。

「あの、デズモンド様。今の方と、婚約されていらっしゃるの?」
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