39 / 103
1-37
しおりを挟むアユフィーラは、自身の歓迎会の後の週から、本格的に開発部門の仕事に入ることとなり、かなり忙しくなった。ここでは開発のための議論が活発で、意見が通ると実際に運用するための、検証実験が必要となり…寝る間も惜しんで、という言葉通り、プライベートなことを何かする余裕がなかった。
「あ~あ、これでは、シキズキ先輩に会うことも、話すこともできないなぁ…」
王宮の食堂で一人、遅めのランチをとる。ピークの時間を過ぎているからか、人はまばらである。職員食堂なだけあって、女性が一人で食べていても、それを咎めるような視線もない。
結局のところ、食事はいつも、この美しい食堂で済ませている。時々、チームで食べに来ることもあるが、そうすると昼食時も仕事の話になりがちなため、息抜きをしたかったアユフィーラは、なるべく一人で食堂に来ていた。
「あ、珍しい…」
昨日は遅くまで参考資料を読んでいたから、初めの頃のように気合の入った姿のアユフィーラではなかった。目の下にクマがあり、青白い。ほぼ、徹夜明けに近かった。
そんなアユフィーラが見つけたのは、一人で食堂に入ってくる、シキズキだった。
だが、自分から声をかけるだけの元気がない。今日はラボに入っていたから、髪もボサボサだ。後は残りのスープを飲んで、早々に立ち去ろう。そう思ったところで、彼の方から近づいてきた。
「デズモンド嬢、顔色が悪いが、その…大丈夫か?」
彼が話しかけてくるのは、どうやら体調を心配される時だけのようだ。
「ドース部長…はぁ、大丈夫といえばそうですが、大丈夫じゃないこともあります」
「それは、何だ。大丈夫ではない、とは。やはり…」
「あ、魔力だまりではありません。それはご心配なく」
彼と会わなかった4年間、本当に健康になったのだ。それを知らない彼は、やはり心配なのだろう。
「では…職場のことであれば、私の方からアレクセイに伝えようか?」
「いえ、職場の皆さんは、問題ありません」
「では、何が…」
「…ドース部長をお慕いしていますが、お話する機会がありません」
今日の私は、どうかしていた。ボーっとする頭で、本音が駄々洩れしているようだった。
彼は、私の言葉を聞いた途端、ボッと顔を赤くした。
あ、こんな表情もするんだ…冷静な人だと思ったけど。ふふ、驚かせちゃったのかな。それは、ちょっと小気味いいかも。
「久しぶりに、キスも、その先もして欲しいのですが、何せ時間もなくて…残念です」
「…その先」
彼もボーっとした顔をして、私の話を聞いている。
「はい。例えば、成長した裸体の上に、甘いジャムを乗せて舐めてもらうですとか。部長の楔を突きたていただき、そして子種を植え付けていただくとか。もしくは私が肉棒を咥えさせていただくことも、やぶさかではありません」
ゴクッとシキズキ先輩の、喉がなったのがわかる。
先輩は、手を額に当てて、「我慢…我慢だ…」と呟いていた。私はその表情を見て、一つ息を吐き、そして席を立った。
「時間がないので、失礼しますね」
今日は、本当に相手をしている余裕がない。言いたいことを言って、スッキリしたから、良しとしよう。
その後、食事をするために来たシキズキが、何も食べず、急に自らの部屋に走って戻る姿が目撃された。部長室に戻った後、なぜか面談中の札が掲げられ、ドース部長はしばらく部屋に籠っていたという。
1
お気に入りに追加
611
あなたにおすすめの小説
皇帝陛下は皇妃を可愛がる~俺の可愛いお嫁さん、今日もいっぱい乱れてね?~
一ノ瀬 彩音
恋愛
ある国の皇帝である主人公は、とある理由から妻となったヒロインに毎日のように夜伽を命じる。
だが、彼女は恥ずかしいのか、いつも顔を真っ赤にして拒むのだ。
そんなある日、彼女はついに自分から求めるようになるのだが……。
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
学園の聖女様と俺の彼女が修羅場ってる。
味のないお茶
恋愛
うちの高校には聖女様と呼ばれる女性がいる。
名前は黒瀬詩織(くろせしおり)
容姿端麗、成績優秀、時間があればひとりで読書をしている孤高の文学少女。
そんな彼女に告白する男も少なくない。
しかし、そんな男共の告白は全て彼女にばっさりと切り捨てられていた。
高校生活の一年目が終わり。終業式の日に俺は半年間想いを寄せてきた彼女に告白した。
それは件の聖女様では無く、同じクラスの学級委員を共に行っていた藤崎朱里(ふじさきあかり)と言うバスケ部の明るい女の子。
男女問わず友達も多く、オタク趣味で陰キャ気味の俺にも優しくしてくれたことで、チョロイン宜しく惚れてしまった。
少しでも彼女にふさわしい男になろうと、半年前からバイトを始め、筋トレや早朝のランニングで身体を鍛えた。帰宅部だからと言って、だらしない身体では彼女に見向きもされない。
清潔感やオシャレにも気を配り、自分なりの男磨きを半年かけてやってきた。
告白に成功すれば薔薇色の春休み。
失敗すれば漆黒の春休み。
自分なりにやるだけのことはやってきたつもりだったが、成功するかは微妙だろうと思っていた。
たとえ振られても気持ちをスッキリさせよう。
それくらいの心持ちでいた。
返答に紆余曲折はあったものの、付き合うことになった俺と彼女。
こうして彼女持ちで始まった高校二年生。
甘々でイチャイチャな生活に胸を躍らせる俺。
だけど、まさかあんなことに巻き込まれるとは……
これは、愛と闇の(病みの)深い聖女様と、ちょっぴりヤキモチ妬きな俺の彼女が織り成す、修羅場ってるラブコメディ。
【R18】助けてもらった虎獣人にマーキングされちゃう話
象の居る
恋愛
異世界転移したとたん、魔獣に狙われたユキを助けてくれたムキムキ虎獣人のアラン。襲われた恐怖でアランに縋り、家においてもらったあともズルズル関係している。このまま一緒にいたいけどアランはどう思ってる? セフレなのか悩みつつも関係が壊れるのが怖くて聞けない。飽きられたときのために一人暮らしの住宅事情を調べてたらアランの様子がおかしくなって……。
ベッドの上ではちょっと意地悪なのに肝心なとこはヘタレな虎獣人と、普段はハッキリ言うのに怖がりな人間がお互いの気持ちを確かめ合って結ばれる話です。
ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。
[R18] 18禁ゲームの世界に御招待! 王子とヤらなきゃゲームが進まない。そんなのお断りします。
ピエール
恋愛
R18 がっつりエロです。ご注意下さい
えーー!!
転生したら、いきなり推しと リアルセッ○スの真っ最中!!!
ここって、もしかしたら???
18禁PCゲーム ラブキャッスル[愛と欲望の宮廷]の世界
私って悪役令嬢のカトリーヌに転生しちゃってるの???
カトリーヌって•••、あの、淫乱の•••
マズイ、非常にマズイ、貞操の危機だ!!!
私、確か、彼氏とドライブ中に事故に遭い••••
異世界転生って事は、絶対彼氏も転生しているはず!
だって[ラノベ]ではそれがお約束!
彼を探して、一緒に こんな世界から逃げ出してやる!
カトリーヌの身体に、男達のイヤラシイ魔の手が伸びる。
果たして、主人公は、数々のエロイベントを乗り切る事が出来るのか?
ゲームはエンディングを迎える事が出来るのか?
そして、彼氏の行方は•••
攻略対象別 オムニバスエロです。
完結しておりますので最後までお楽しみいただけます。
(攻略対象に変態もいます。ご注意下さい)
【R18】軍人彼氏の秘密〜可愛い大型犬だと思っていた恋人は、獰猛な獣でした〜
レイラ
恋愛
王城で事務員として働くユフェは、軍部の精鋭、フレッドに大変懐かれている。今日も今日とて寝癖を直してやったり、ほつれた制服を修繕してやったり。こんなにも尻尾を振って追いかけてくるなんて、絶対私の事好きだよね?絆されるようにして付き合って知る、彼の本性とは…
◆ムーンライトノベルズにも投稿しています。
大事な姫様の性教育のために、姫様の御前で殿方と実演することになってしまいました。
水鏡あかり
恋愛
姫様に「あの人との初夜で粗相をしてしまうのが不安だから、貴女のを見せて」とお願いされた、姫様至上主義の侍女・真砂《まさご》。自分の拙い閨の経験では参考にならないと思いつつ、大事な姫様に懇願されて、引き受けることに。
真砂には気になる相手・檜佐木《ひさぎ》がいたものの、過去に一度、檜佐木の誘いを断ってしまっていたため、いまさら言えず、姫様の提案で、相手役は姫の夫である若様に選んでいただくことになる。
しかし、実演の当夜に閨に現れたのは、檜佐木で。どうも怒っているようなのだがーー。
主君至上主義な従者同士の恋愛が大好きなので書いてみました! ちょっと言葉責めもあるかも。
孕まされて捨てられた悪役令嬢ですが、ヤンデレ王子様に溺愛されてます!?
季邑 えり
恋愛
前世で楽しんでいた十八禁乙女ゲームの世界に悪役令嬢として転生したティーリア。婚約者の王子アーヴィンは物語だと悪役令嬢を凌辱した上で破滅させるヤンデレ男のため、ティーリアは彼が爽やかな好青年になるよう必死に誘導する。その甲斐あってか物語とは違った成長をしてヒロインにも無関心なアーヴィンながら、その分ティーリアに対してはとんでもない執着&溺愛ぶりを見せるように。そんなある日、突然敵国との戦争が起きて彼も戦地へ向かうことになってしまう。しかも後日、彼が囚われて敵国の姫と結婚するかもしれないという知らせを受けたティーリアは彼の子を妊娠していると気がついて……
大嫌いなアイツが媚薬を盛られたらしいので、不本意ながらカラダを張って救けてあげます
スケキヨ
恋愛
媚薬を盛られたミアを救けてくれたのは学生時代からのライバルで公爵家の次男坊・リアムだった。ほっとしたのも束の間、なんと今度はリアムのほうが異国の王女に媚薬を盛られて絶体絶命!?
「弟を救けてやってくれないか?」――リアムの兄の策略で、発情したリアムと同じ部屋に閉じ込められてしまったミア。気が付くと、頬を上気させ目元を潤ませたリアムの顔がすぐそばにあって……!!
『媚薬を盛られた私をいろんな意味で救けてくれたのは、大嫌いなアイツでした』という作品の続編になります。前作は読んでいなくてもそんなに支障ありませんので、気楽にご覧ください。
・R18描写のある話には※を付けています。
・別サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる