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「グレアムさん、あんた、何考えているんだ」
アユフィーラとの夕食会は無事、和やかな雰囲気で終わった。彼女を送った後、俺はグレアムさんの執務室を訪れた。
「俺を利用するのは構わないが、アユフィーラを巻き込むのは止めてくれ」
「なんだ、デビューのエスコートのことか?シキズキも、自分がしたいだろう」
「それはそうだが、俺がそんな派手なことをしたら、王国にいる殿下が何て言ってくるか…」
デニスリード・R・スレイヤール王太子。彼は、俺の王国の実質的な支配者だ。王が病気で倒れて以来、かねてより優秀と名高い奴が、王太子として余すところなく手腕を発揮している。
だがその一方で、冷酷なことでも一部では有名だ。人を駒のようにしか思っていない。俺も、ここにいるグレアムさんも、その王太子の駒の一つだ。
「そうだな…まぁ、どちらかと言えば、帝国の出方が見たい」
「こんな留学生の俺が、侯爵の娘をエスコートするだけで、帝国が動くのか?」
「動くか、動かないか。わからないさ。ただ、今は膠着状態が続いているからな。それを動かす楔にしたい」
「また、わけのわからないことを言って…まぁ、俺は聞かない方が、身のためだよな。あんたはいつでも、危ない橋を渡っていそうだ。早死にするぞ」
「はは、それほどでもないさ。とにかく、お前にとっても、殿下の意向が分かった方が、将来のために備えやすいだろう」
「それは、そうだが…」
「あれだけ魔力交換をして、お前の匂いをつけて…。彼女のこと、本気なのだろう?」
「ああ、本気だ。かならず、将来も一緒にいたい」
「だとしたら、殿下をどうにかしないとな」
「グレアムさん…あんた、俺の味方をしてくれるのか?」
「さぁ、どうだろうね?私にとっても、いい関係を維持したいから、かな?だが、君の家のことは、ひいては君のことは、祖母からの遺言があるからね。私は、君を守るよ」
グレアムの家、ソングフィールド侯爵家が、俺の生家であるドース伯爵家を支援するのは、彼の祖母の遺言があるからだ。俺の為の莫大な留学費用を支払い、保証人となって支援してくれている。こうして、グレアムがその派遣期間を延長してサザン帝国にいるのも、俺がここに留学しているからだ。
グレアムさんには、感謝しかない。だから、俺が役立つのであれば、夜会に出席することも、使い魔を飛ばすことも、何でもしてきた。
俺自身は、あまり深入りしないようにしているが、グレアムさんはスレイヤール王国の外交官として、サザン帝国の中枢に深く探り込んでいる。それが仕事だからだ。
「とにかく、彼女の父親を説得しないとな。それからだ」
「…わかった。グレアムさんを信じるよ」
15歳の時から3年、この異国の地で一緒に暮らし、支えてきてくれた。その彼が、俺とアユのことを応援してくれている。そのことは、俺にとってはとてつもなく大きなことだった。
学生だった俺には、あの時、グレアムさんの方針に異を唱えることなど、出来なかった。
こうして、俺は、ドース伯爵子息として、ソングフィールド侯爵家の支援を受けながら、アユフィーラ・デズモンド侯爵令嬢の社交界デビューのエスコートを申し込むことになった。
アユフィーラとの夕食会は無事、和やかな雰囲気で終わった。彼女を送った後、俺はグレアムさんの執務室を訪れた。
「俺を利用するのは構わないが、アユフィーラを巻き込むのは止めてくれ」
「なんだ、デビューのエスコートのことか?シキズキも、自分がしたいだろう」
「それはそうだが、俺がそんな派手なことをしたら、王国にいる殿下が何て言ってくるか…」
デニスリード・R・スレイヤール王太子。彼は、俺の王国の実質的な支配者だ。王が病気で倒れて以来、かねてより優秀と名高い奴が、王太子として余すところなく手腕を発揮している。
だがその一方で、冷酷なことでも一部では有名だ。人を駒のようにしか思っていない。俺も、ここにいるグレアムさんも、その王太子の駒の一つだ。
「そうだな…まぁ、どちらかと言えば、帝国の出方が見たい」
「こんな留学生の俺が、侯爵の娘をエスコートするだけで、帝国が動くのか?」
「動くか、動かないか。わからないさ。ただ、今は膠着状態が続いているからな。それを動かす楔にしたい」
「また、わけのわからないことを言って…まぁ、俺は聞かない方が、身のためだよな。あんたはいつでも、危ない橋を渡っていそうだ。早死にするぞ」
「はは、それほどでもないさ。とにかく、お前にとっても、殿下の意向が分かった方が、将来のために備えやすいだろう」
「それは、そうだが…」
「あれだけ魔力交換をして、お前の匂いをつけて…。彼女のこと、本気なのだろう?」
「ああ、本気だ。かならず、将来も一緒にいたい」
「だとしたら、殿下をどうにかしないとな」
「グレアムさん…あんた、俺の味方をしてくれるのか?」
「さぁ、どうだろうね?私にとっても、いい関係を維持したいから、かな?だが、君の家のことは、ひいては君のことは、祖母からの遺言があるからね。私は、君を守るよ」
グレアムの家、ソングフィールド侯爵家が、俺の生家であるドース伯爵家を支援するのは、彼の祖母の遺言があるからだ。俺の為の莫大な留学費用を支払い、保証人となって支援してくれている。こうして、グレアムがその派遣期間を延長してサザン帝国にいるのも、俺がここに留学しているからだ。
グレアムさんには、感謝しかない。だから、俺が役立つのであれば、夜会に出席することも、使い魔を飛ばすことも、何でもしてきた。
俺自身は、あまり深入りしないようにしているが、グレアムさんはスレイヤール王国の外交官として、サザン帝国の中枢に深く探り込んでいる。それが仕事だからだ。
「とにかく、彼女の父親を説得しないとな。それからだ」
「…わかった。グレアムさんを信じるよ」
15歳の時から3年、この異国の地で一緒に暮らし、支えてきてくれた。その彼が、俺とアユのことを応援してくれている。そのことは、俺にとってはとてつもなく大きなことだった。
学生だった俺には、あの時、グレアムさんの方針に異を唱えることなど、出来なかった。
こうして、俺は、ドース伯爵子息として、ソングフィールド侯爵家の支援を受けながら、アユフィーラ・デズモンド侯爵令嬢の社交界デビューのエスコートを申し込むことになった。
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