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「はは、友愛の姿ね…。そうした噂があるのは知っているが。まだ社交界デビューもしていないお嬢様の耳にまで届くとは。これは少し、作戦を変えなければいけないかな…」

 グレアム様は、外交官として帝国の夜会に頻繁に出席される。その際に、シキズキ先輩も連れ出すことが多く、二人で並んでいる姿が有名になったらしい。

「で、もしその噂が本当だったら、アユフィーラ嬢はどうしたいのかな?」

「えっと、それはそれで、シキズキ先輩の自由選択を尊重します。できれば、私には不慣れな世界なので、詳しくお話を聞かせていただけると嬉しいです」

 ギロッとシキズキ先輩が、私を睨んできた。

「アユフィーラ、俺は、女でも男でも、浮気などしない。アユ以外には、もう勃起しない」

 ええと、やっぱり最後の言葉はいらないかな。どうも、プライベートな空間なのか、お二人とも怪しげな言葉が多い。シキズキ先輩は、いつも通りだけど、ここまではっきりと言うのは珍しい。

「はは、シキズキが言うように、僕たちは至ってストレートだよ。ヘテロ、要するに異性愛者だからね」

「…お前は怪しいだろう」

 じーっと、シキズキ先輩がグレアム様を見ている。グレアム様が同性愛者かどうかはともかく、お二人がそうした関係でないことは、とりあえず理解できた。

「ところでアユフィーラ嬢。16歳と聞いているが、デビューはまだなのかな?」

「はい、今度の王宮での夜会で、デビューする予定です。今、ドレスなどを用意しています」

「今更だけど、婚約者や、候補の人がいるのかい?エスコートをする人は、決まっているのかな?」

 グレアム様は、私の社交界デビューの時のエスコートの相手を聞いてきた。通常、家族か婚約者、それに準じる男性がエスコートする。

「特に、決まった婚約者も、候補の方もいません。多分、エスコートは父がすることになると思います」

「そうか…、どうだろう。シキズキがエスコートを名乗り出たら、受けてくれるだろうか」

「えっ」
「グレアムさん、それは、さすがに…」

 デビュー時にエスコートするとなると、将来の相手として認められたことを、公にする意味もある。いくら先輩が私に愛を囁いても、父がそれを簡単に許すとは思えない。

「さすがに、父に聞かなければ、‥‥お答えできません」

「うん、そうだよね。…いや、君が嫌がらないのであれば、話を進めさせてもらってもいいかな。お父上には、私から正式に連絡させてもらうよ」

「わかりました、父にはそれとなく、話をしてみます」

 その日はそれ以上、デビューの話はしなかった。シキズキ先輩は、時々私の方を、少し心配そうな目で見つめていた。


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