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しおりを挟む私は、夕食会に備えて、少し休んだ後、着替えることにした。でも、その外交官の方も、先輩が私のようなチンチクリンとお付き合いをしていると知ったら、驚かないかな。
まぁ、私はほどほどの貴族の娘だし、ほどほどにマナーは身に着けているし。う~ん、立派なのは、この胸だけかもしれない…と、ちょっと考えて。
今夜は、胸を寄せて、谷間をつくり、少し大人っぽい服にしてみようか。夕食会であれば、こうした服でも、マナー違反にはならない。先輩にも、普段と違った服装の私を、見てもらいたい。
クローゼットの中の、なるべく落ち着いた、ダークレッドのドレスを選んだ。上から見下ろすと、胸の谷間が見えるように。先輩、背が高いから、ふふ。見えちゃうかも。
アユフィーラは、これから会う人が、スレイヤールの金の貴公子として、今やサザン帝国の社交界で知らない者はいない、と言われる程の美丈夫であることを、知らなかった。
「アユ、迎えに来たよ」
玄関に表れたシキズキ先輩は、落ち着いたダークシルバーのウェストコートに、揃いのジュストコールを着ていた。手には、白い薔薇の花束を持っていた。
「これを、俺のお姫様に。‥‥‥アユ、愛しているよ」
我が家の玄関に表れた、輝く銀の貴公子は、周囲にいる執事や、召使や、とにかく使用人たちの動きを止まらせた。
「せ、先輩、今夜はお招きありがとうございます」
受け取った花束を執事に渡し、一緒に馬車に乗ろうとしたところで、エスコートしていた先輩が、私を見下ろした。視線は、胸元にある。
「アユ…そのドレス。俺の前だけならいいけど…くそっ」
ちょっと眉を寄せて、彼は視線を外した。
「先輩、そんなに、おかしいですか?その、ソングフィールド候に失礼でしょうか」
「いや、おかしくない。ただ、俺のかわいいアユの、その胸元を他の男に見せたくないだけだ」
「…もう、時間もありませんし、失礼でなければ、行きましょう」
せっかくの貴公子が、「やっぱり隠した方が…いや、見たい…視覚爆弾だ…」とか、なんとか。馬車の中でしきりに呟いていた。
馬車の中では、先輩は私の隣に座り、指を絡ませるように手をつないでいる。「これ、恋人つなぎだって。俺と、アユ、恋人だろ?」と、可愛いことをいいながら。
彼の滞在しているお屋敷は、帝国の中でも高級住宅街の中の、いわゆる外交官の方たちが多く住むエリアの一角にあった。
こぢんまりとしているが、十分に手の行き届いた邸宅は、心地よい雰囲気を醸し出していた。
「今日は、お招きくださり、ありがとうございました。アユフィーラ・デズモンドと申します」
「よく来てくれたね、ありがとう。私はグレアム・ソングフィールドと言うよ。グレアム、と呼んでください。可愛い人」
そう言って、玄関に表れたその人は、金の髪に、翡翠の瞳を輝かせていた。黒のウェストコートに、同色のジャケットを着たその人は、シキズキとは違った美しさを放っていた。背は、シキズキの方が少し大きいが、二人が揃うと、迫力が増すようだった。
その金と銀の貴公子に挟まれたアユフィーラは、自分はいったいなぜ、こんな超絶イケメン二人と夕食を食べなければいけないのか、罰ゲームではないのか、と、おののいた。
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