【完結】初恋相手にぞっこんな腹黒エリート魔術師は、ポンコツになって私を困らせる

１－３２

―――あんなにはっきりと、断らなくたって、いいじゃない。

　部屋に戻ったアユフィーラは、怒りをそのままに、化粧も落とさないでベッドに突っ伏した。

―――なによ、腰に手を回して。もう、私はあなたの恋人でも何でもないのに。

　怒りを消化できない上に、プライドを傷つけられた。もう、どうやって立ち直ればいいのだろうか。

「はぁ、シャワーでも浴びて寝るか」

　考えていても、仕方がない。今できることをしよう、と、酔いを醒ますためにシャワーを浴びることにした。

―――でも、よく考えると、私も初めはひどいことを彼に言っていたな。

　アユフィーラは、出会ってすぐの頃の自分の言動を思い出した。なにせ、疑っていたこともあり、シキズキにはかなりはっきりと、お断りの言葉と態度だったのだ。

　それに比べれば、今日はまだ、心配してくれた上に、助けてくれた。誘いを断られたが、やはり第二開発部門の彼は、外国人の私と必要以上に接点を持つことを禁じられているのかもしれない。

「うん、そうだ。きっと本当に、都合が悪かっただけかもしれないし」

　あまり暗い方に考えても仕方がない。まだ、仕返し作戦の入り口だ。上手くいきすぎて、またあの熱烈な愛情表現をされても困る…よね。私。

　気持ちを切り替えて、アユフィーラは眠ることにした。寝不足はお肌の大敵。これもセリアのアドバイスであった。

　そのしどけなく眠るアユフィーラを見つめる使い魔は、今夜は5羽に増えていた。


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　乗馬も終えて、ビュッフェのランチもお開きとなった。イザーク先輩が、セリアを送るといって、二人で帰って行った。

「先輩、この後どうしますか？疲れたなら、もう帰られますか？」

　今日は朝から運動したので、私の体力を考えると、少し休んだ方がいいのかもしれない。

「もし、良かったら…実は、俺が世話になっている方が、アユと会ってみたい、と言っていて」

「お世話になっている方って、あの、外交官の方ですか？」

　先輩は、その方に経済的にもサポートしてもらい、留学していると聞く。確か、ソングフィールド侯爵家だったかな。

「ああ、すっげぇいけ好かない奴だから、会う必要もないけど、俺の今の立場だと、断り切れなくて。悪い」

「え、そんな。いいですよ。今日は先輩、私の父に会ってくれましたし。お互いに、保護者の方にもお会いしておくのは、お付き合いする上で大切なことですし」

「保護者、かぁ。まぁ、俺の7歳上なだけだから、どちらかというと煩い兄、って感じだけどな」

　そう言うと、先輩は「奴もカッコイイが、俺の方が数倍カッコイイからな」と呟き、また夕方迎え来るから、と言って一旦帰ることになった。