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「デズモンドさん、飲んでいらっしゃいますか?」
 顔を赤くして、いかにも酔っ払いになった同僚が、近づいてきた。

「あ、はい。十分いただいています」
 さっきから、こうして男性から声をかけられる。密命を考えると、この機会に進展できそうな人を、見つけておいた方がいいのかもしれない。

 とはいっても、過去に付き合ったことのある人は、彼だけだから、どうしても比べてしまう。そうすると、どんな男性もゴボウとか、ニンジンに見えてきて…なんていうか、頭に入ってこない。

 先ほど、来週からの新しいメンバーでの顔合わせも終わっていた。シキズキ先輩が腕を組みながら、壁にもたれかかって、その顔合わせの様子をみていた。彼の部下も何人か、参加するからだろう。

 …と、思っていたのに。どうやら彼も、開発チームに少し、参加する話を同僚から聞いた。

「今回、あのドース部長もメンバーに入るみたいだよ」
「えぇ~、あの人がいると、周囲が凍るって話だけど、大丈夫なの?」
「男でも、あの人の冷気を感じるとぞくっとするよな~」

「あの、その…ドース部長が入ると、大変なんですか?」
 話の輪に入らせてもらう。彼の話は、何でも聞いておきたい。

「あ、デズモントさんは知らないよね。第二開発部の、ドース部長。彼、めっちゃカッコイイけど、いつも冷たいっていうか、そっけないというか。氷の魔術師、なんて呼ばれているのよ。あの銀髪が動くと、冷気が出ているって噂もあるくらい」

「そうでしたか。私、時々空気読まないで発言してしまうので、大丈夫でしょうか…」

 意外だ、シキズキ先輩が冷たいだなんて。あんなに情熱的で、甘ったるい人、いないのに。ああ、でもセリアも、そんな顔は私にしか見せていない、って言っていたかなぁ。

 確かに、初日の挨拶では無表情で、冷たかった。あれが、通常の先輩なのかもしれない。だとしたら、確かに近寄りがたい人、だよね。

 これから、彼に近づいて、何とか振り向かせるためには。接点を持たないと。今夜はせっかくの機会なのに、私から話しかける勇気が、でてこない。その内に、他の人から話しかけられてしまって、そして新しいグラスを差し出される。

 ああ、どうしよう。なんだか、飲みなれないお酒も、回ってきてしまった。

 目の前がぐにゃり、と曲がった途端、膝がカクン、と崩れ落ちた。いけない、酔ってる、私。

「アユ、大丈夫か?」

 そう言って、懐かしい低い声で私をアユと呼び、腕を支えてくれたのは、―――シキズキ先輩だった。

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