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「それでは、アユフィーラ・デズモンド嬢を歓迎して―――乾杯!」

 休み前とあって、予想以上の人が来た私の歓迎会。急遽、立食式での開催となった。貴族の夜会は慣れているけれど、こうして職場の人達との交流のためのパーティーは、初めてだ。

 こうしたコミュニケーションを大切にするところも、開発力に繋がっているのかもしれない。しかし、その緩さゆえに、作成部門では緻密な作業に根を詰めることができず、完成度は低くなってしまうのかも。

 帝国との違いに一つ一つ感激しながらも、時に分析していくことも、必要となる。ここに来るまで、彼のことばかり考えていたから憂鬱だったけれど、こんなにも新しい発見があると、素直に嬉しい。この、スレイヤール王国に来ることができて、良かった。

 今日は私の歓迎会だから、少しおしゃれしてもいいかな、と思ってグレーに白色のレースの襟のついた、上品に見えるワンピースを選んだ。ベージュのパンプスと、以前、彼の贈ってくれたバレッタをつける。銀色のバレッタは、彼の髪の色のように、キラリと輝いている。

 オフィスでは、少し派手すぎたので、終業後に急いで更衣室でつけておいた。彼からもらったものは、ほとんど捨ててしまったが、このバレッタだけは、捨てることができなかった。彼も、お揃いでカフスボタンを作った。―――もう、忘れていると思うけど。

「こんばんは、デズモンドさん」
「デズモンドさんは、帝国のどの地方出身ですか?」
「僕の親族が、帝国にいまして…」

 お酒も入っているせいか、普段は目を合わせても、挨拶をしてくれるかどうか、という人たちが、積極的に話かけてきてくれた。今日は、皆さん饒舌になっている。

「おう、シキズキ。こういった場に顔を出すなんて、珍しいな」
 近くで、アレクセイ部長の声がする。シキズキ、と名前を聞いて、思わず振り返ると、そこにはまさしくシキズキ先輩がいた。

 彼は今日も、スリムタイプのスーツを着ていた。ダークグレーのスーツを、きっちりと着こなしている。銀の光沢のあるクラバット・タイが、彼の髪の色と重なり、相変わらず美しい。

「部下が、今回は世話になるからな。それに、刃物は俺の専門領域の一つだから、時々顔をださせてもらうつもりだ」

「あぁ、そう言えばそうだったな。まだ戦場で一緒になったことがないから、お前のことを知っているようで、知らないもんだな」

 アレクセイ部長は、既に30歳を超えている。その年代の人は、前の戦争のことをよく覚えている。戦闘をサポートする魔術師として、戦闘に加わった者もいた。アレクセイ部長は、その一人であろう。
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