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「そうですね、できれば、イザーク先輩も一緒だと、助かります。セリアも誘ってみようかな」

「…俺が、君の恋人だけど。その、イザークを連れて行って、アイツと婚約、とかならないよな」

「ふふ、それは大丈夫です。イザーク先輩は、次期公爵様なので、婿に来ることはできません。そんな人と、婚約なんてできませんよ」

「俺は…ああ、まずは馬からだな」

 少し遠い目をした先輩は、話をそこで終わらせた。16歳の私にとって、婚約とか、結婚とかは、まだまだ先の話だった。今は、学園で魔術の勉強が面白い。

 今なら、あの時、彼は既に私との将来を考えていたことがわかる。それ程までに、私のことを愛していたと、後で知ることになるが、当時の私は、そんなことは露ほども考えていなかった。

彼との未来を、思い描くことなどできなかった。私は、跡取り娘で、帝国の魔術師になりたい。どう考えても、留学生の彼と、未来はない。その考えが、知らず知らずのうちに、彼にのめり込むことを止めていたのかもしれない。

 結局、週末に4人で乗馬クラブに行くことになった。父も、学園でできた友達を招待することに、喜んでいた。特に次期リード公爵候補であるイザーク先輩が一緒だと聞いた父は、「でかした!」と何故か叫び、昼食は豪華な屋外ビュッフェを用意することになった。


*****


「シキズキ先輩、私、先に行きますね!」

 爽やかな風が吹き抜ける中、白樺の林の中を駆け抜ける。久しぶりに馬を駆けて、先にある小川を目指す。

「先輩、馬が後をついて連れてきてくれるので、大丈夫です」

 私と違い、背丈もあるので、体格に合わせた馬を選んだのだけど。少してこずっているみたいだ。

「シキズキ、焦るな。馬と呼吸を合わせれば、大丈夫だ」

 さすがにイザーク先輩は、馬の扱いに慣れていた。これなら最後を任せておけば、大丈夫だろう。セリアは馬に乗れないから、イザーク先輩の馬に乗っている。

 私も、馬が走りすぎないように、手綱を引き寄せて、足の太ももに力をいれて引き締める。スピードを出しすぎないように、コントロールすることも大切だ。

「ああ、ここです!小川で休みましょう!」

 少し駆けただけで、汗をかいてしまう。普段から運動していないからだ。最近は、体調が良くなってきているから、もっと運動しなくては。

「綺麗なところだな…」

 シキズキ先輩も、馬から降りて、私の近くに来た。

「ここで、休憩しましょう。ちょうど、小川もあるので、冷たくて気持ちいいですよ」

 そう言って、私は小川の水を、手ですくって飲んでみる。冷たい。林の中を駆けてきたから、息も上がっていた。シキズキ先輩は、さすがに息は切らしていなかったが、汗をかいていたみたいだ。大胆にも、顔を小川の中に突っ込んでいる。

「せ、先輩!冷たいですよ」

「はは!気持ちいいな!」

 そう言って、頭をブルブルッと振って、水を落とす。…水も滴るイイ男。タオルで顔を拭いている先輩は、銀髪がキラキラと光って、学園でみせる変態チックな姿と違い、ニカっと笑った顔は、とても爽やかな青年だった。

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