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 イザークにしてみれば、そんな風に一人の学生、それも女学生に執着するシキズキを見るのは、初めてだった。どんな容姿だったか、と聞いてもはっきりとしない。とにかく背が小さかった、としか答えない。でも、また会えば必ずわかるハズだ。とも言って、夢中になって探している。

 普段は優等生の仮面をつけて、すました顔をしか見せないシキズキが、慌てふためいている様子を見ることができて、イザークは内心喜んでいた。アイツも、ようやく恋に目覚めたか。と。

 ククク、と笑うイザークをのところに、カツカツカツと急いで近寄ってくる靴音が聞こえた。

「そこまでにしろ、イザーク」

 不機嫌な顔をした、シキズキ・ドースが、そこにいた。

「シキズキ。お前、無茶苦茶だぞ。彼女、お前のこと、何も知らなかったぞ」
「ああ、今から話す」

 不機嫌な顔をしているが、真面目な顔つきでシキズキはアユフィーラを見つめた。その漆黒の瞳に見つめられて、アユフィーラの心臓が、またドクン、と鳴った。

「俺は、シキズキ・ドース。スレイヤール王国からの留学している。15歳の時から来て、魔術研究科にいる。今は最終学年だ」

 また、彼に見下ろされている。その時、アユフィーラは自分の心臓がドク、ドク、ドクと不整脈を起こすのを感じた。―――久々に、感じるその動きは、その後に自分の身に起こる事態を思い出させた。こんな時に、こんなところで―――

「ご、ごめんなさい、私、ちょっと具合が…」
 そう言ったとたん、アユフィーラはゴンっと頭をテーブルにぶつけた。座ったままだったので、倒れることはなかったが、顔色が悪く、呼吸が乱れている。そして、ヒュ、という息をした後、気絶した。

「―――どうしたっっ!!」

 話をしている目の前で、テーブルに突っ伏しながら気絶したアユフィーラを見て、驚きながらもシキズキはさっと彼女を抱き上げて、医務室に運んだ。

 突然のことに周囲の学生たちも驚いていたが、シキズキがアユフィーラを軽々と抱き上げて走っていく姿は、さながら王子様がお姫様を攫う姿にも見えて、「はぁ~」というため息も聞こえてくるようだった。


*****3


「先生、先生、だれかいますか?」

 医務室に飛び込むと、シキズキは医務官を探した。

「どうした、気絶しているのか」
「はい、食堂で突然、苦しそうな顔をして、その後意識を失いました。呼気はあるのですが…」

「まぁ、ベッドに寝かせて」
 そう言うと、医務官はアユフィーラを診察した。彼女の名前を聞いて、医務官はあることを思い出した。

「ああ、彼女ね。これは…大丈夫よ。彼女の持病みたいなものだから。寝かせておけば、安定するハズよ」
「先生、彼女のこの症状は、魔力だまりから発生する症状ですか?」

「あら、さすが主席ね。彼女からは事前に、魔力だまりの申請があったから、その通りよ」

 魔力だまり。魔力を多く保有する子どもの多くは、幼い頃は魔力だまりという症状に苦しめられることが多い。苦しみが多いほど、その魔力の保有量が多いことを表す。

 成長するに従って、魔力だまりは解消されることが多いが、時に成人後も苦しめられる魔術師も存在する。
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