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しおりを挟む突然、校門で繰り広げられたキスシーンに、周囲の学生たちが騒然となった。なにせ、キスしているのは、あのシキズキ・ドース。留学生ながら、常にトップの成績を収め、かつ輝くような銀髪に、長身に筋肉が程よくついた精悍な体躯、そして、その容姿は見る人全てを惹きつける。
普段は優等生の鏡のような彼が、朝の、それも校門で繰り広げられている所業に、だれもが驚いていた。
だが、だれもその相手を知る人はいない。なぜなら、新入生として入って来たばかりの、それも目立つ特徴の一つもない、いや、むしろ背も低く、ふくよかな体格の彼女を特別な目で見る人などいなかった。―――その時までは。
「はぁ~、たまんねぇ…」
時間にしてみれば短かったが、衝撃のあまり永遠にも感じたそのキスは、シキズキのその言葉でようやく終わった。
「な、なんで…」
ようやく話すことができるようになったが、どうにも言葉がでない。周囲からの視線も痛い。これほど注目を浴びることは、これまでなかった。
「あ、君の名前、教えて」
何もなかったかの如く、平然とした表情で聞いてくる彼に、ふつふつとした怒りが沸き上がって来た。アユフィーラにとって、初めてのキスだったのに、カッコイイとはいえ知らない人に、突然奪われたのだ。
バチーン
平手でシキズキの頬を叩くと、「知りません!」と言ってアユフィーラはその場を駆け出して行った。
その場には、叩かれた頬をさすりながら茫然とした表情で、シキズキが立っていた。「いてぇ…」と呟きながらも、その切れた口角を少し上げていた。見つけた獲物は逃さない。そんな獣のような目で、走っていくアユフィーラを、見つめていた。
*****
「ホラ、あの娘よ…」「え?あんな子?」「嘘でしょ~」
ざわざわとした食堂で、ランチを食べようと一歩足を踏み入れると、そこにいた上級生たちの間で、ひそひそと噂話が繰り広げられた。時には、聞こえるような声で、話している。
「アユフィーラ、気にしちゃダメだよ」
「セリア、ありがとう…」
クラスで初めてできた友達、セリアと一緒でなければ、とてもこの食堂に入る勇気はなかった。まだ馴染めていない学園で、いきなり注目されることになってしまった。それも、マイナスの視線ばかりだ。
アユフィーラが、特別に美人であれば、まだ良かったのかもしれない。が、ちび・でぶ・めがね、とマイナス要素がそろっている。かつ、入学したてとあって、化粧をすることもなかった。要するに、野暮ったい。
なぜ、こんな自分とキスをしたいと、彼が言って来たのか、本当にわからなかった。
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