【完結】初恋相手にぞっこんな腹黒エリート魔術師は、ポンコツになって私を困らせる

１－３

シキズキ・ドースは、サザン帝国学園の魔術研究科に留学して、もうすでに最終学年になっていた。入学式で出会った新入生を探すため、毎朝校門で多くの学生をみているが、お目当ての学生を見つけることは、未だできていなかった。

今日こそは、見つけ出したい。そのイライラとした雰囲気から、今朝から誰も挨拶もしてこない。そんな彼の目の前を、一人の女学生が歩いて行った。そのまだ少女と言える学生から、ふわっと漂う魔力の香りにシキズキは、「見つけた」と呟いた。




　アユフィーラは、始業時間まではまだ時間がある。大丈夫、余裕をもって到着できたわ、と安堵した。入学式依頼、体調不良もあり午前中だけ休むことも多かったが、今日はどうやら大丈夫そうだ。

　馬車を下りて学園の門を抜けると、学び舎まで少し歩く。多くの学生が歩いている中、一人だけ街路樹にもたれかけ、前を通り過ぎていく学生たちを見ている人がいた。長身で銀髪のその人は、顔の造作もよさそうだが、とにかくその日の朝から漂う雰囲気から、周囲の人間が話しかけられる様子ではなかった。

　その人が、アユフィーラを見ると一瞬驚いたような顔をして、そしてすぐ、彼女に向かって走って来た。

――え、私？の方に来ている？

　そう思った瞬間、彼はアユフィーラの両肩を持って、聞いてきた。

「あ、君、俺とキスしよ？」
「へ？あの、私ですか？」
「そう、君」

「あの、誰かと間違えているとか…」
「いや、君」

　銀色の髪を短く刈り上げ、魔術研究科の最終学年を表す徽章をつけたその人は、黒曜石のような瞳を輝かせて、アユフィーラを見つめていた。いや、背の高い彼が、背の低い方のアユフィーラを見下ろしていた。

「君と、キスしたい」

　至って真剣な眼差しで見つめてくる。これが交際している男女の、美しい景色を見ながら囁かれていれば、ロマンティックであっただろう。だが、ここは校門で、次々と学園の学生たちが通り過ぎていく。

　ただでさえ、見目麗しく、要するに、とてつもなく目立つ容姿をしたその人は、とんでもない言葉を発していた。学生たちが、何があるのだろうかと振り返っていく。

　二人は、今が初対面であった。少なくとも、アユフィーラは彼と話したことはない。

「な、む、無理です」

「えーと、無理じゃないよ」
　そう言うと、シキズキはさっとアユフィーラを引き寄せて、その頬を両手で挟んだ。何事かと思っているうちに、彼は顔を近づけて、アユフィーラの唇に、やわらかい唇を重ねた。

「―――！！！―――」

　驚いて言葉も出ない、嫌、出せない。塞がれた唇は、すぐに貪るように、唇を挟んできた。

「っむ、んん」

　角度を変えながら、何度も唇を食される。頬にあった手は、片方は顎を持ち上げ、もう片方は後頭部に回し、逃げられないように支えられた。突然降って来た嵐のようなキスに、アユフィーラの心が、ドクンと飛び跳ねた。