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強制婚約式、それは我がサザン帝国の誇る、悪しき慣習。結婚適齢期の男女を集めて、強制的に組み合わせて、結婚させる。かつては強制参加だったようだが、今は希望する者か、抽選で当たった者が参加する。別名、赤の日…
アユフィーラは、サザン帝国でもほどほどに力のある、デズモンド侯爵の一人娘。家の存続のために、いつかは結婚して、婿をとることを両親、親族一同から期待されている。貴族の一員として、政略結婚もあるにはあるが、今はロマンス重視の傾向が強い。
両親が選ぶ相手となれば、それなりにアユフィーラの意思も尊重されるであろうが、強制婚約式は帝国が相手を選ぶ。一度相手が決まれば、覆すことはできない。若者には至って不評な制度である。
もちろん、アユフィーラも参加などしたくない。これまでは、侯爵家の一人娘のため、参加免除となっていたが、帝国の意向となると拒否できない。
青ざめたアユフィーラを慰めるように、だが言いにくそうに、ロドリゲスは言葉を継いだ。
「まぁ~、ほら、君の恋人も、あの国にいるんだって?」
やはり、彼のことを帝国は知っていたのか。この命令を聞いた時、そして派遣国が、あのスレイヤール王国と聞いた時、真っ先に思い浮かべたのは、彼だった。
「……元、恋人です。元。…それも、4年も前に終わっています」
アユフィーラの、初めての恋人 ―――シキズキ・ドース
今、彼はスレイヤール王国の、宮廷魔術師団の次期筆頭魔術師と名高い。いわゆる、超エリート魔術師。帝国は、彼をスカウトするため、昔の恋人であった、アユフィーラを指名してきたのだ。
「その、元恋人と結婚しろ、と命じているわけではない。だから、他にもいい魔術師がいたら、アプローチしてみればいい。何事も、チャレンジだ、チャレンジ」
「団長…」
じとっとした目でみてしまう。
「出発は、1か月後だ。それまでに、引き継ぎとか、挨拶とか、しておきなさい。派遣期間は1年から、最大3年まで延長できる。一度行けば、なかなか帰国できないからね、よく準備しておくといいよ」
「…はい、わかりました」
抵抗しても、無駄なのだろう。
「まぁ、密命はともかく、スレイヤール王国の魔術師たちと、交流を持つのはいい機会だよ。知らなかった知識や、魔術の研鑽になるからね。君の保有している魔力も、生かされるかもしれない。チャンスだと思えばいい」
「はい、団長」
団長としては、チャンスが与えられた、と考えるように励ましてくれたのだろう。
とんでもない命令だが、魔術の研究のため、長期間仕事をしなくてもいいのは感謝なことだ。その嬉しさがある一方で、彼、シキズキのことを思い出すと、ため息しか出ない。
そう、私は彼に捨てられた。もう、4年も前のことだけれど、忘れたことはない。
シキズキ・ドース。もう、二度と会うことのない人だと思っていた。もう、彼の漆黒の瞳に、私が映ることはない。…そう、思っていた。
「はぁ~、また、彼に会わないといけないのかな…」
また一つ、ため息をつきながらアユフィーラは、デスク周りを片付けはじめた。
*****
ようやく入学することのできた、サザン帝国学園の魔術研究科。アユフィーラは16歳になって、魔術師となるために学園に入学した。侯爵令嬢、それも跡取り娘が魔術師になりたいと言った時に周囲に反対されたが、ようやく父から認められた。
学ぶからには、中途半端にするな。それが父からの命令であった。
新入生のオリエンテーションも終わり、ようやく授業が始まった。アユフィーラは、自身の持つ魔力も大きいが、真面目な性格も手伝って優秀な成績で入学することができた。
アユフィーラは、サザン帝国でもほどほどに力のある、デズモンド侯爵の一人娘。家の存続のために、いつかは結婚して、婿をとることを両親、親族一同から期待されている。貴族の一員として、政略結婚もあるにはあるが、今はロマンス重視の傾向が強い。
両親が選ぶ相手となれば、それなりにアユフィーラの意思も尊重されるであろうが、強制婚約式は帝国が相手を選ぶ。一度相手が決まれば、覆すことはできない。若者には至って不評な制度である。
もちろん、アユフィーラも参加などしたくない。これまでは、侯爵家の一人娘のため、参加免除となっていたが、帝国の意向となると拒否できない。
青ざめたアユフィーラを慰めるように、だが言いにくそうに、ロドリゲスは言葉を継いだ。
「まぁ~、ほら、君の恋人も、あの国にいるんだって?」
やはり、彼のことを帝国は知っていたのか。この命令を聞いた時、そして派遣国が、あのスレイヤール王国と聞いた時、真っ先に思い浮かべたのは、彼だった。
「……元、恋人です。元。…それも、4年も前に終わっています」
アユフィーラの、初めての恋人 ―――シキズキ・ドース
今、彼はスレイヤール王国の、宮廷魔術師団の次期筆頭魔術師と名高い。いわゆる、超エリート魔術師。帝国は、彼をスカウトするため、昔の恋人であった、アユフィーラを指名してきたのだ。
「その、元恋人と結婚しろ、と命じているわけではない。だから、他にもいい魔術師がいたら、アプローチしてみればいい。何事も、チャレンジだ、チャレンジ」
「団長…」
じとっとした目でみてしまう。
「出発は、1か月後だ。それまでに、引き継ぎとか、挨拶とか、しておきなさい。派遣期間は1年から、最大3年まで延長できる。一度行けば、なかなか帰国できないからね、よく準備しておくといいよ」
「…はい、わかりました」
抵抗しても、無駄なのだろう。
「まぁ、密命はともかく、スレイヤール王国の魔術師たちと、交流を持つのはいい機会だよ。知らなかった知識や、魔術の研鑽になるからね。君の保有している魔力も、生かされるかもしれない。チャンスだと思えばいい」
「はい、団長」
団長としては、チャンスが与えられた、と考えるように励ましてくれたのだろう。
とんでもない命令だが、魔術の研究のため、長期間仕事をしなくてもいいのは感謝なことだ。その嬉しさがある一方で、彼、シキズキのことを思い出すと、ため息しか出ない。
そう、私は彼に捨てられた。もう、4年も前のことだけれど、忘れたことはない。
シキズキ・ドース。もう、二度と会うことのない人だと思っていた。もう、彼の漆黒の瞳に、私が映ることはない。…そう、思っていた。
「はぁ~、また、彼に会わないといけないのかな…」
また一つ、ため息をつきながらアユフィーラは、デスク周りを片付けはじめた。
*****
ようやく入学することのできた、サザン帝国学園の魔術研究科。アユフィーラは16歳になって、魔術師となるために学園に入学した。侯爵令嬢、それも跡取り娘が魔術師になりたいと言った時に周囲に反対されたが、ようやく父から認められた。
学ぶからには、中途半端にするな。それが父からの命令であった。
新入生のオリエンテーションも終わり、ようやく授業が始まった。アユフィーラは、自身の持つ魔力も大きいが、真面目な性格も手伝って優秀な成績で入学することができた。
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