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しおりを挟む「えええぇぇぇ~~~!だ、団長!こ、この命令は何ですか!」
アユフィーラは驚きすぎて、朝からフロア全体に響くほどの声を上げた。ちらほらと、出勤している同僚たちが、何だろうと顔を上げる。
手元には、サザン帝国の印籠を押された、封書を持っていた。
「あ、それ見ちゃった?説明するから、コッチ来て」
軽口で答えるのは、サザン帝国の誇る帝国魔術師団を束ねる、ロドリゲス団長であった。
魔術師団のフロアの一角にある、団長室へ入ったアユフィーラは、彼に詰め寄った。
「団長、スレイヤール王国への研究派遣はいいのですが、な、な、な、何ですか?この有能な魔術師を見つけて、結婚して連れて来い、と、書かれていますが!」
驚きのあまり、声がひきつっている。
「あ~、それ、そのまま。その通り」
ロドリゲスは、まるで何もなかったかの如く、にこやかに答えた。飄々としている団長は、いつものごとく表情から感情を読み取ることは難しい。
「け、結婚?それが命令ですか?」
「そうだよ。まぁ、一つのヘッドハンティングだね。ほら、うち人材不足だからさ~」
「そんなの、無理です。私、男性を、それも有能な魔術師の方を惹きつけるようなこと、できません」
「そうだねぇ、魅了の魔法も、魔術師相手では見破られて使えないしね」
色仕掛けを命令されるのは、魅了の魔法を得意とする魔術師が中心となる。アユフィーラは、これまで魅了の魔法を扱ったことがない。そして、魔術師に魅了の魔法をかけようとしても、大抵は成功しない。
「そうですよ、それに私、もう20歳です。その…私の容姿は、あまり男性受けしません」
「はは、20歳なんて、まだ若いじゃないか!それに、君は十分、異性を惹きつける容姿をしているよ」
魔術師としては、まだまだひよっこのアユフィーラであるが、女性の結婚適齢期としては、残念ながら後期適齢期に入っている。それに女性からアプローチして、結婚まで結びつけることは、男性が行うよりはるかに難しい。プロポーズでさえ、男性側が行うもの、が常識の世界だ。
そして、アユフィーラはどちらかといえば「ぽっちゃり」としている。スレンダーで、背の高い女性が美しいと言われる中、背も低く、安産型なので、流行のドレスなどは似合わない。
「とにかく、有能な魔術師の方と結婚する、なんて、私にはできません」
「でも、スレイヤール王国には、行きたくないか?ほら、あの国は魔道具の開発では、いい味だしているし」
「そ、それは、そうですが」
「君の専門は、医療魔道具の開発だったよね。サザン帝国では、魔道具の構成や作成には長けているが、開発そのものの領域は、スレイヤール王国が一歩リードしている」
「ですから、研究員として派遣されることは、嬉しいです。でも、結婚は無理です」
「まぁまぁ、まずは研究員として行ってみなよ。結婚は、…まぁ、いい出会いがあればいいだろう、くらいで、さ」
「そんな、気楽な立場ですか?私」
「…頑張ってくれ。とにかく、帝国の命令だから、さすがに俺でもどうにもできん」
哀れみの目をもって、ロドリゲスはアユフィーラを見つめた。彼も、この命令がいかに無茶を言っているのか、わかっている。が、既に命令されているのだ。それも、帝国の印を持って、発行されている。
「…そ、そんな。…その、結婚できなかった場合は、私、どうなるのですか?」
「うーん、いい質問だね。私が聞いた話だと…まぁ、こちらに帰国後に、強制婚約式へ参加、となるのかな」
「強制婚約!マジですか!」
その言葉を聞いて、一瞬で青ざめてしまう。
「うん、マジ」
じっと見つめる。そこに嘘はない。
「そんな…私の人生、詰んだ…」
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