【完結】初恋相手にぞっこんな腹黒エリート魔術師は、ポンコツになって私を困らせる

季邑 えり

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 訪ねて来た少年は、美しい銀髪と、強い魔力持ちであることを示す黒い瞳をしていた。整った容姿は、まだ幼さを残しているが、将来はかなりの美男子になることが予想される。

 グレアム・ソングフィールドは、自分を訪ねて来た少年を快く応接室に迎え入れた。その少年の魔力の強さと、年齢に見合わない高尚な態度に、興味が出た。

「僕はシキズキ・ドースと申します。姉がお世話になりました。こちらは、手紙とお借りしていた宝石です。姉は現在、体調を崩しており、弟の私が代理で届けさせてもらいました」

 少年の姉に渡していた宝石をわざわざ、返却に来たと言う。…女性にプレゼントしたものを、返してくるとは。

「シキズキ君か、わざわざ届けてくれて、ありがとう」
「こちらこそ、忙しいところ面談のお時間を下さり、ありがとうございます」

 丁寧な言葉遣いに、珍しく輝くような銀髪。整った顔でもあるし、これは好印象を持たれやすい少年だな。

「君は、かなりの魔力持ちだと聞いたけれど。将来は、魔術師を目指すのかな?」
「はい、宮廷魔術師になりたいと、思っています。そのための学校に通いたいと思いますが…」

「…我が国の魔術学校では、君ほどの魔力持ちでは、満足できないかもしれないね」
「師となる方に、弟子入りすることも考えたのですが。なかなか僕の興味のある魔術分野では、難しくて」

 悩ましいであろう、才能のある者に共通する、学ぶ場を探している。

「そうだな、魔術師として極めるのであれば、やはりサザン帝国学園の魔術研究科であろうな…」
「はい、そこに行きたい希望はありますが…」

 我が国から、サザン帝国に留学するには、国家の推薦状と、莫大な留学資金が必要となる。その二つを、この貧乏伯爵の息子が用意することは、難しいであろう。

「そうか、シキズキ君。君も、私の祖母の残した遺言のことは、聞いているだろう。ドース伯爵家を支援するように、とのことだが、どうだろうか。君が望むのであれば、その魔術師の勉強のための資金と、必要な協力を支援しよう」

「それは!‥‥‥ありがたい話ですが、まずは父と話します」

「ああ、そうしてくれ。我がソングフィールド家としてはドース家を支援したい気持ちに変わりはない。サザン帝国であれば、私も近々、外交官として派遣されることが決まっている。留学の為の、手続きも出来るだろう」

 それに将来、有能な魔術師を育成し、今から恩義を売ることが出来るのであれば、ソングフィールド家としてもいい投資となる。

「で、君の興味のある魔術はどういった分野になるのかな」
「は、はい。僕は今、性魔道具を開発したいと思っています」

「は? すまない、もう一度、聞かせてほしい」
「性魔道具、です。セックスやオナニーのための魔道具です」

「そう、か。っは、君の年齢であれば、そう、だな」

 少し意外な答えに、驚いてしまった。だが、思春期は性のことに関心が高まる時期だ。彼の年齢を考えれば、わからなくもない。

「ええ、僕は長いこと魔力だまりに苦しんできて、それを解決することができたのは、精通してオナニーが出来るようになったからです。その時、オナホールや、数々の性魔道具を知り、興味を持ちました。更なる開発を重ねて、性の問題に取り組むことができれば、と思っています」

「そうか、確かに、魔力だまりの解決のための、性魔道具か」

 意外にも、真面目な答えが返って来た。

「それだけでなく、もっと快感を共有できるような魔道具ですとか、中イキしやすくする媚薬とか、いろいろ開発したいところですね」

「…君の年齢にしては、詳しいね」
「勉強しましたから」

 ニコッと笑う顔は、純粋そのものだ。だが、その裏では何を考えているのかわからないような、狡猾さも持ち合わせているようだ。とはいっても、まだ13歳であることを考えれば、将来はもっと違うことに目を向けることもあるだろう。

「とにかく、学校や留学については、ぜひ支援させてほしい。ドース伯爵にも、改めて話をしよう」
「わかりました。そう言ってくださること、感謝します」

 終始にこやかに話をすることができた。一般的に気難しい魔術師が多い中、あれだけの魔力を持ち、にこやかな美男子の魔術師がいれば、あの王太子殿下辺りが目をつけそうだな。殿下は有能な人材を駒のように扱うところがある。

「グレアム・ソングフィールド様、お会いできて、その、嬉しかったです」

シキズキは、キラキラとした笑顔で返事をした。

「ああ、前向きに検討してほしい」

「では、失礼します。また、お会いできると嬉しいです」
「そうだな、次回に詳しい取り決めをしよう」

 彼の留学話は、この会話から始まった。後に、ソングフィールド家が後ろ盾となり、留学の道が開かれることになった。

 その留学先でシキズキは自分が恋に落ちるなど、この時は思いもしなかった。自分の中に渦巻く魔力にまだまだ翻弄され、将来を憂いているただの少年だった。彼が彼女に出会うのはまだ先の話であったが、運命の糸はこの時から、絡み始めていた。


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