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1年後

1年後の二人②

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 馬車の揺れが、くる。股間にくる。パンツを履いていない、というのはこれほど、不安にさせるものなのか。さっきから、揺れる度に下半身にいる自身の息子と、その袋が揺れて、触れあう。それが何とも気持ち悪い。

「これは、なかなか・・・くるね」
「はい?何かありましたか」
「いや・・・いい」

 ここで愚痴を漏らすのは、何か負けを認めたような気がするので、いつもの無口を貫く。そう、自分は無口で無表情で無駄のない3無し男なのだ。まぁ、結婚してから、ずいぶんと緩んできたが。

「今日の料理が、楽しみだね」
「はい、そうですね」

 妻のメイティーラは、白色の生地に銀色の刺繍がついた、上品なワンピースを着ている。その美しい佇まいからも、「緑碧玉の美女」と言われるほどの美貌からも、今日の彼女は清楚な雰囲気を醸し出していた。

―――この可憐な美女が、今日は黒のパンツを履いている。それも、中央が割れているパンツだ。それを知るのは、この俺だけだ。

 卑猥なことを想像しつつも、その表情は変わらない。無口なまま腕を組み、高尚なことを考えている様に見えるグレンの頭の中は、黒い下着姿のメイティーラがアンアン言っているのであった。今日はお祭りだから、と、少し浮かれているグレンであった。

 馬車が目的の丘の上のレストランに着いた。

「さ、メイティーラ。今日の料理を堪能しよう」

 この際、エアパンツのことは忘れよう。昨年のメイティーラは、スカートだったから見られる可能性があったが、自分は男性で、トラウザーズを履いている。どうやっても、パンツを履いていないとはわからないだろう。トイレは個室を使えばいいことだ。

 二人がレストランに入ると、今日はお祭りのためか、バイキング方式であった。席に座るのもよし、食事を選びながら立ち話する人達もいた。

入って来た二人を、目ざとく見つけた人物がいた。メイティーラの幼馴染の、リーバイである。

「やぁ、メイ・・・あ、今はゴウ夫人だね。と、グレン殿。お久しぶりです」
 二人に近づき、挨拶に来る。メイティーラにとって、リーバイと会うのは、結婚式以来であった。もう、半年も前になる。久しぶりに見る彼は、その髪を短くし、さっぱりとした様子であった。

「奇遇ですね、僕たちもこのレストランに来たところです」
 リーバイの視線の先には、美しい金色の髪をウェーブさせた、可愛らしい雰囲気の女性がいた。リーバイの手招きで、彼女もメイティーラ達のところに挨拶に来た。

「ええと、今、お付き合いしている、ソフィール嬢、リングストン伯爵の娘さんだよ」
「はじめまして、メイティーラ・ゴウと申します」
「メイティーラさんですね、リーバイさんからは、幼馴染と聞いています」
「そうですね、私たち夫婦のキューピッドでしたの」

 どこをどうしたら、リーバイがキューピッドになるのだろうか。そんな疑問が顔にでていたのだろうか。グレンはメイティーラを見つめると、「ふふっ」と微笑みを返してきた。

これは、今夜ちょっとイジワルをしながら聞き出さないと・・・とグレンは不埒なことを考えていると、ソフィール嬢とメイティーラの会話が耳に入って来た。

「メイティーラ様は今年、どんなパンツを頂いたのですか?」
「あら、今年は黒でしたの」
「黒」
 ソフィール嬢は、少し頬を赤くして、「いいですわねぇ」と呟いていた。

「ソフィール様も、リーバイからパンツを頂いたのかしら?」
「ええ、素敵なパンツですわ」
「まぁ、どんなパンツですの?」

 女性は昼間から、大胆なことを話している。とりあえず、席を確保して料理をとろうとした時、ソフィール嬢の答えがグレンの耳に届く。

「エアパンツでしたの」

 ごふっと思わず咳き込んでしまう。パッと振り返ると、ちょうどリーバイと目が合った。

(お前・・・エアパンツを贈るということは、ソフィール嬢は今、何も履いていないということか?)

「まぁ、奇遇ですね。私も夫に、エアパンツを贈りましたの」

 今度はリーバイがごふっと咳き込んでいた。グレンとリーバイの視線が絡む。

(ということは、グレン殿は今、何も履いていないということか?)

 お互いのパートナーがよからぬ想像をしているとは思わず、女性陣はおしゃべりを続けていた。

「まぁ、それは素敵なアイデアですね。私もいつか真似したいと、切実に思っていますの」
「そうですよね、エアパンツは、忍耐力がいりますよね」
「でも、メイティーラ様の黒もうらやましいですわ」
「そうかしら?黒でも、なぜか中央が割れているのです。不思議な穴ですわ」

 グレンは慌ててメイティーラを呼び寄せ、「それは後から、教えるから」と、とにかく二人の会話を終わらせた。グレンは背中に嫌な汗が流れているのを感じるのであった。

「ソフィール様、可愛らしい方でしたね」
「・・・そうだな」
 以前は、リーバイと仲が良すぎるのではないかと勘繰っていたが、彼にも相手がいるのであれば、ただの幼馴染という間柄だけか。一つ不安要素が減ったことに安堵したグレンであった。


 今年はバイキング方式ということもあり、料理だけでなく、デザートも選び放題であった。

「メイティ、ここのデザートも美味しそうだよ」
「あら、素敵ですね。美味しそうだわ」

 小さく切り分けられた、宝石のようなケーキ達。バニラババロアには、オレンジ色をしたソースがかかっていた。

「このババロアは、ソースが絶品だね」
「ソースを気に入られましたか?」
「ああ、ここのオレンジソースは、色もいいし、甘さも程よくて、美味しいよ」

 グレンにしては珍しく、デザートを堪能していた。

「では、ソースだけお土産にいただこうかしら」
「ん?ソースだけかい?」
「はい、デザートにちょうどいいかと思いまして」
「デザートは、購入しなくてもいいのかな?」

 他のパティスリーで購入したいのだろうか、でもソースだけをここで購入すると、味がちぐはぐしないだろうか、そんなことを考えていると、メイティーラはまたも意外な答えを返してきた。

「デザートは、ここにありますわ」
 メイティーラは自分自身を指している。
「で、ソースをかけるので、舐めてほしいかなぁって」
 ふふ、と頬を両手で挟み、恥じらう姿であるが、内容は思いがけない提案だ。もちろん、グレンは反対する意思はない。

「では、ソースが新鮮なうちに、味わわないとね」
 グレンはその瞳を細めて、メイティーラを見つめる。今夜が楽しみだ。彼女のあそこにも、あそこにもソースをつけてみよう・・・と、また不埒なことを考えるグレンであった。

彼は、今、自分がパンツを履いていないのに、下半身にある一物を大きく、固くしていることに、気が付いていなかった。パンツがあれば、少しは抑えてくれるであろうその膨らみが、今日は大きく存在感を表していた。

気が付いたメイティーラは、そっとその膨らみを、トラウザーズの上からそっと撫でた。

「うっ」

 不意に昂りを触られたグレンは、つい声が出てしまった。

「メイティ・・・すまない、パンツを返してもらえないか?」
 今朝、彼女はグレンが履いていたパンツをカバンに入れていた。

「えっ?エアパンツがありますわ」
「そんな、イジワルを言わないでくれ・・・」

 涙目になる。

「今日の君は、ちょっと、いや、かなり魅力的すぎるからね。はは、パンツがないと収まらないよ」
 
 説得してみる。

「あら、エアパンツも、いいものですわよ」

 もう、メイティーラへの来年のプレゼントは、エアパンツに決まりだ。ゼッタイだ。そしてまた馬車の中でめくってみせる。心に誓うグレンであった。
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