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本編
1.ハレンチな言い伝え
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花の咲き誇る都では、お祭りが近づいている。この街には、あるハレンチな言い伝えが残っている。
昔、騎士様がお仕えする、美しいお嬢様に愛を伝えるため、お祭りの日にいやらしいパンツを贈った。花や宝石といったありふれたプレゼントの中から、一風変わったパンツのプレゼントを喜ばれたお嬢様は、騎士様と恋人になったという。
それ以来、お祭りの日にパンツを贈り、それを受け取ると恋人になる、という風習が生まれた。
女性であれば、ボクサーパンツを。男性であれば、女性用パンツを贈る。買いに行くのも恥ずかしいが、それを乗り越えることこそが、愛の証明として盛り上がる。もちろん、恋人同士であれば、いやらしいパンツも贈りあう。
メイティーラ・エルドバ伯爵令嬢は、お祭りの日が近づいてくると、ため息をついた。
「やっぱり、無理よね・・・グレン様が、私にパンツを贈ってくださるなんて」
彼女の婚約者である、グレン・ゴウ侯爵子息は、無口で無表情で、無駄なことをしない3無男だ。茶色の長い髪を後ろで一つに束ね、細長い眼をした彼は、地味ながらも整った顔をしていた。また背が高く、学園の騎士科に所属していたことからも、貴族の子女の間では、密に人気があった。
2年前に、家の都合で二人は婚約をする間柄となった。それまで、お互い意識することもなかった相手が、突然婚約することになったのだ。メイティーラにしてみれば、3つ年上のグレンは無口なこともあり、初めは彼が苦手だった。
「グレン様、お庭に花が咲きました」
「・・・そうか」
「蝶が飛んでいます。トンボもいました。」
「・・・そうか」
今も続く顔合わせの時は、常にメイティーラが話題を提供し、彼がそれに相槌をうつ、という具合であった。
メイティーラは、銀色の流れるような髪に、グリーンと珍しい瞳の色をしている。その儚げな様子と、艶やかな肌。稀にみる見目麗しい彼女は、「緑碧玉の美女」と呼ばれていた。スレンダーではあるが、出るところも出ていた。
婚約が発表された時は、まだ15歳だったので、その美しさはまだ蕾といったところであった。それが、この2年で花が咲くようにメイティーラは、美しく成長した。最近でも、婚約を知らない貴族から釣書が届くほどである。
女性にしては、背の高い方であったが、グレンと並ぶとバランスがいいので、あまり気にならなかった。
「やっぱりグレン様は、私のことをお嫌いなのかしら」
ここ最近は特に、二人で会う時は難しい顔をすることが多い。
「君は、その・・・いや、何でもない」
「グレン様?何か、おっしゃいましたか?」
「・・・いや、いい」
そう言って、会話が終わることもしばしばであった。メイティーラは、それでも彼が優しいことや、細い眼で見つめられると嬉しいこともあり、グレンが好きだった。自分の派手な外見とは反対に、静かで内向きな性格には、無口でもグレンの性格は心地良かった。
でも、グレンから直接的な愛の言葉や、態度を示されたことはない。メイティーラは、果たしてグレンが自分のことをどう思っているのか、わからず、不安になっていた。
―――やはり、ただの政略結婚の相手なのかしら。
メイティーラは、グレンのことを想うと悲しい顔をすることが多くなった。
「どうしたの、メイ。浮かない顔をしているね、せっかくの美女が、もったいない。笑顔を僕に見せてよ」
相変わらず、調子良く話しかけてきたのは、幼馴染のリーバイであった。
彼は、フィルパラウ伯爵の次男で、メイティーラと同い年ということあり、小さな頃より仲が良かった。今も、学園の同じクラスで学んでいる。お互いもうすぐ卒業となる。
「リーバイ、もうすぐお祭りね。でも、ね・・・」
小さな子どもの頃は、リーバイと下着を交換したこともある。さすがに物心ついてきてからは、それはしていない。
「メイは、思ったことをはっきり言った方がいいよ。お祭りを楽しみたいんでしょ。」
「そうね、ところでリーバイは、今年こそは誰かに贈るの?」
リーバイも18歳と年頃であるが、まだ婚約者は決まっていなかった。次男であることと、本人が恋愛結婚をしたいと望んだからである。彼ほどの容姿と性格であれば、家格さえ合えば選り取りみどりだ。
「パンツのこと?贈りたい相手はいるけどね、ちょっと障害があってさ、どうしたものかと思っているところ」
「そうなの?リーバイなら、どんな女の子でも貰ってもらえそうだけど。もしかして、人妻とか?」
「はは、それはないよ。僕のことはとにかく、メイはどうするの?」
気兼ねなく話ができる男友達は、メイティーラにはリーバイしかいなかった。他の男性は、とにかく瞳の奥に違う欲望を秘めていることが多く、その気配がメイティーラは苦手だった。その気配なく接してくれるのは、リーバイと、グレンだけだった。
「私?私は・・・今年もグレン様に用意しているわ。でも、受け取ってもらえそうにないけど。」
言い伝えは、男性から先に女性に贈ることになっている。そのお返しとして、気持ちがあれば女性も男性に贈る。昨年も用意していたが、グレンからはパンツをもらえなかった。もらえないのであれば、贈ることはできない。
「じゃあ、メイが用意したパンツ。受け取ってもらえなかったら、僕がもらうよ。いい?」
「え?どうしたの?リーバイは、贈りたい相手がいるのでしょ?」
「まぁ、本当に贈ることができるかは、まだわからないからね。その時の保険」
リーバイはニカっと笑うと、ちょっと強引にメイティーラに握手をしてきた。こうなると、否定しても無駄だということは過去の経験からわかっている。まだ、どうなるかわからない話みたいだし、メイティーラは曖昧な顔をして頷いた。
昔、騎士様がお仕えする、美しいお嬢様に愛を伝えるため、お祭りの日にいやらしいパンツを贈った。花や宝石といったありふれたプレゼントの中から、一風変わったパンツのプレゼントを喜ばれたお嬢様は、騎士様と恋人になったという。
それ以来、お祭りの日にパンツを贈り、それを受け取ると恋人になる、という風習が生まれた。
女性であれば、ボクサーパンツを。男性であれば、女性用パンツを贈る。買いに行くのも恥ずかしいが、それを乗り越えることこそが、愛の証明として盛り上がる。もちろん、恋人同士であれば、いやらしいパンツも贈りあう。
メイティーラ・エルドバ伯爵令嬢は、お祭りの日が近づいてくると、ため息をついた。
「やっぱり、無理よね・・・グレン様が、私にパンツを贈ってくださるなんて」
彼女の婚約者である、グレン・ゴウ侯爵子息は、無口で無表情で、無駄なことをしない3無男だ。茶色の長い髪を後ろで一つに束ね、細長い眼をした彼は、地味ながらも整った顔をしていた。また背が高く、学園の騎士科に所属していたことからも、貴族の子女の間では、密に人気があった。
2年前に、家の都合で二人は婚約をする間柄となった。それまで、お互い意識することもなかった相手が、突然婚約することになったのだ。メイティーラにしてみれば、3つ年上のグレンは無口なこともあり、初めは彼が苦手だった。
「グレン様、お庭に花が咲きました」
「・・・そうか」
「蝶が飛んでいます。トンボもいました。」
「・・・そうか」
今も続く顔合わせの時は、常にメイティーラが話題を提供し、彼がそれに相槌をうつ、という具合であった。
メイティーラは、銀色の流れるような髪に、グリーンと珍しい瞳の色をしている。その儚げな様子と、艶やかな肌。稀にみる見目麗しい彼女は、「緑碧玉の美女」と呼ばれていた。スレンダーではあるが、出るところも出ていた。
婚約が発表された時は、まだ15歳だったので、その美しさはまだ蕾といったところであった。それが、この2年で花が咲くようにメイティーラは、美しく成長した。最近でも、婚約を知らない貴族から釣書が届くほどである。
女性にしては、背の高い方であったが、グレンと並ぶとバランスがいいので、あまり気にならなかった。
「やっぱりグレン様は、私のことをお嫌いなのかしら」
ここ最近は特に、二人で会う時は難しい顔をすることが多い。
「君は、その・・・いや、何でもない」
「グレン様?何か、おっしゃいましたか?」
「・・・いや、いい」
そう言って、会話が終わることもしばしばであった。メイティーラは、それでも彼が優しいことや、細い眼で見つめられると嬉しいこともあり、グレンが好きだった。自分の派手な外見とは反対に、静かで内向きな性格には、無口でもグレンの性格は心地良かった。
でも、グレンから直接的な愛の言葉や、態度を示されたことはない。メイティーラは、果たしてグレンが自分のことをどう思っているのか、わからず、不安になっていた。
―――やはり、ただの政略結婚の相手なのかしら。
メイティーラは、グレンのことを想うと悲しい顔をすることが多くなった。
「どうしたの、メイ。浮かない顔をしているね、せっかくの美女が、もったいない。笑顔を僕に見せてよ」
相変わらず、調子良く話しかけてきたのは、幼馴染のリーバイであった。
彼は、フィルパラウ伯爵の次男で、メイティーラと同い年ということあり、小さな頃より仲が良かった。今も、学園の同じクラスで学んでいる。お互いもうすぐ卒業となる。
「リーバイ、もうすぐお祭りね。でも、ね・・・」
小さな子どもの頃は、リーバイと下着を交換したこともある。さすがに物心ついてきてからは、それはしていない。
「メイは、思ったことをはっきり言った方がいいよ。お祭りを楽しみたいんでしょ。」
「そうね、ところでリーバイは、今年こそは誰かに贈るの?」
リーバイも18歳と年頃であるが、まだ婚約者は決まっていなかった。次男であることと、本人が恋愛結婚をしたいと望んだからである。彼ほどの容姿と性格であれば、家格さえ合えば選り取りみどりだ。
「パンツのこと?贈りたい相手はいるけどね、ちょっと障害があってさ、どうしたものかと思っているところ」
「そうなの?リーバイなら、どんな女の子でも貰ってもらえそうだけど。もしかして、人妻とか?」
「はは、それはないよ。僕のことはとにかく、メイはどうするの?」
気兼ねなく話ができる男友達は、メイティーラにはリーバイしかいなかった。他の男性は、とにかく瞳の奥に違う欲望を秘めていることが多く、その気配がメイティーラは苦手だった。その気配なく接してくれるのは、リーバイと、グレンだけだった。
「私?私は・・・今年もグレン様に用意しているわ。でも、受け取ってもらえそうにないけど。」
言い伝えは、男性から先に女性に贈ることになっている。そのお返しとして、気持ちがあれば女性も男性に贈る。昨年も用意していたが、グレンからはパンツをもらえなかった。もらえないのであれば、贈ることはできない。
「じゃあ、メイが用意したパンツ。受け取ってもらえなかったら、僕がもらうよ。いい?」
「え?どうしたの?リーバイは、贈りたい相手がいるのでしょ?」
「まぁ、本当に贈ることができるかは、まだわからないからね。その時の保険」
リーバイはニカっと笑うと、ちょっと強引にメイティーラに握手をしてきた。こうなると、否定しても無駄だということは過去の経験からわかっている。まだ、どうなるかわからない話みたいだし、メイティーラは曖昧な顔をして頷いた。
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