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三年後の二人2
しおりを挟む「その、責めるようなこと言ってごめん。あの後、解雇をしたのも、慰謝料を渡したのも父の仕業だった」
「やっぱり、そうだったんですね」
「僕は……、景子。君と結婚するために頑張って来た。コンクールで結果を残して、帰国したら君はもう玉造の家にいないし、本当に焦ったけど、許して欲しい……!」
「坊ちゃま」
「興信所を使って調べたよ。君と、子どもの洋子のことも。一人で、頑張ってきたんだね。僕たちの愛の結晶を産んでくれて、ありがとう」
「……坊ちゃま!」
「景子、君を今でも愛している。僕と結婚して欲しい」
予想もしないその言葉に、思わず涙が溢れてくる。この三年間、お互いに離れていた期間、坊ちゃまも私を想っていてくれた。その言葉が嬉しい。
「坊ちゃま! ……いいのですか?」
「その、坊ちゃまはさすがに止めて欲しいな。これでも立派な大人になったと思うけど」
「そ、そうですね。でも、なんてお呼びすれば……」
「旦那様でいいよ」
「へ?」
「結婚して、旦那様って呼んでくれればいい。あぁ、パパでもいっか。洋子もいることだし」
私が目を瞬かせて驚いていると、坊ちゃまは胸のポケットから小さな箱を取り出した。
「はい、結婚指輪」
「へ?」
箱の中にはペアになっている指輪があった。その小さいほうの指輪を取り出すと、坊ちゃまは私の手をとって左手の薬指にはめた。少しぶかぶかしていて大きい。
「サイズは直して貰おう。景子も僕にはめてくれる?」
「はい」
大きい方の指輪をとって、坊ちゃまの長い指にはめる。節で一度止まるけれど、それを坊ちゃまの右手が支えてくれた。
「この大きい手で、ピアノを弾くのですね……」
「今から、この手で君を愛したいけど……いい?」
「え? そ、それって……」
「その、初めての時はゴメン。理性が飛んでしまって、とんでもない恰好になってしまって。今から、それを上書きしたいけど……ダメかな?」
「ダ……、ダメじゃないです」
そう伝えると、坊ちゃまは景子、と私の名前をまたあの低い声で呼んで引き寄せた。
「でも、私なんかでよろしいのですか? 玉造のお家は……」
「もう、僕の腕なら君と洋子と、3人で暮らしていけるよ。なんなら、玉造の姓を捨ててもいい。ま、それはまた今度話そう。景子……、会いたかった」
「坊ちゃま、私も」
「だから、名前」
「……洋平様」
「洋平でいいよ」
そう言った途端に降りて来たキスは、甘くて痺れて……私は蕩けるように彼の腕の中に堕ちた。
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