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第五章
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しおりを挟む「クローディア、クレイグ様、一緒に踊りましょう!」
結婚式の後の披露パーティーでは異国の踊りが紹介された。太鼓のリズムと手拍子だけで踊るものだ。
舞踊団の人に一緒に踊ろうと誘われる。慣れないけれど、若い人たちが率先して踊っている。二人で腕を組んで、片足を上げて三回まわり、そして反対方向に三回まわる。
陽気な踊りだけど、クレイグはこういう踊り無理だよね……と隣にいる人を見ると突然クレイグが私の腕を引っ張った。
「クローディア、踊るぞ!」
「きゃぁっ」
私たちが踊りに加わると、俄然盛り上がってくる。歓声が上がり手拍子が大きく鳴る中、クレイグが普段の冷静な顔を崩して笑いながら踊り始めた。
「ふふっ、ふふふっ!」
こんなにも弾けているクレイグを見るのは初めてだ。私も嬉しくなって笑顔がこぼれる。
「ありがとう、クレイグ」
「どうした?」
しばらく踊った私たちは、息を切らしながら隅の方に移動した。
「だって、こんなにも……卑怯な私を許してくれて、結婚してくれて、……嬉しくて」
「君は卑怯な技が得意なんだろう? 私はそんな君が好きなだけだよ」
「っ、クレイグ!」
今、好きって言ってくれた。好きって。私のことが好きって。
「何度でも言うよ、ようやくその権利を手に入れたからね。クローディア、愛しているよ」
私のこころの声が駄々洩れしていたのだろうか、クレイグは私の額にチュッとキスをした。常に冷静なことで有名な彼が浮かれている。そのことだけで、周囲にいた人たちから歓声が上がる。
「ク、クレイグ……わた、私も好きっ!」
今度は私から、思いっきり背伸びをして彼の頬にチュッとキスをした。レーヴァンほどではないけれど、彼も背が高い。
ヒュー、ヒューっと周囲から煽る声が聞こえてくる。「もっとやれ!」とスーレル王太子殿下も叫んでいた。
クレイグはその声に応えるように私の頬を両手で挟むと、軽くなんかない、ディープなキスを私にしてきた。下唇を食み、上唇を吸いながら舌をチロリと出して私の口内を犯す。
そのクレイグのご乱心ともいえるキスに周囲はさらに盛り上がった。最後にチュパッと派手に音を立てて唇を離したクレイグが、周囲に宣言する。
「花嫁は疲れたようなので、これから私が寝所へ案内したい。皆、今日は無礼講で楽しんでほしい」
おーっという歓声が上がり、クレイグは私を横抱きにして公爵邸の中へ入っていく。その顔は、口角を上げて嬉しそうに笑っていた。
——クレイグ、ありがとう。あなたの揺るがない愛情のおかげで、私は幸せを感じている。
「はぁっ、はぁっ、あああああ————!」
「おめでとうございます!女の赤ちゃんですよ!」
レーヴァンとの結婚式から一年後、私は待望だった赤ちゃんを産んだ。紫の瞳をした女の子だ。まだ髪の色はわからない。
「よかった、クローディア」
「身体は大丈夫か、ディア」
二人の夫が産院に駆けつけてくれる。普段、顔を合わせることのない二人だけれど、さすがに一人目の出産なので心配して来てくれた。生まれた子どもが何を引き継ぐかは、その子の性格や適性を考えてから決めることにしている。
二人は時々、どうやら私には秘密で会うことがあるようだ。聞けば、私が誘拐されたあの事件の時からやり取りがあったらしい。
この子の名前はどうしようかな、そんなことを考えていたら二人がそれぞれ、釣書を持ってやって来た。
「クローディア、この子にぴったりの男の子を見つけて来た。この子なら、将来のルートザシャ公爵を継ぐのに相応しい騎士となるに違いない」
「ディア、私たちの娘にふさわしい男の子だよ。娘がシュテファーニエ公爵を継ぐ時に、支えになる夫になるだろう」
「「さぁ、婚約者を決めよう」」
二人ともどうかしている。こんな生まれたての娘に婚約者候補の釣書を持って来るなんて。このままでは、この娘の婚約者が二人になってしまう。
「だっ、ダメよ! 婚約者が二人だなんて! 絶対にダメ!」
【婚約破棄はまだ早い? それは密かな二重婚約……にはしません!】
(おわり)
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