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第五章
5-16
しおりを挟む辺境から王都への出発前に、レーヴァンの荷物を取りに領主の館に行くことになった。
「私もついていくわ」
「いいのか?サーシャ嬢がいると思うが……その、平気か?」
レーヴァンは私がサーシャ嬢から何か言われないか不安なようだけど、私にしても、サーシャ嬢が本当にレーヴァンを諦めているのか知りたかった。
「大丈夫よ、普段からただ大人しい令嬢をしているわけじゃないわ」
簡単に髪をセットしてから化粧をする。デイ・ドレスを着れば馬に乗ることもできた。二人で館を訪ねると、元さやにおさまった私たちを見たサーシャ嬢は案の定、驚いた顔をしている。
「驚いたわ、本当に記憶が戻ったのね」
「あぁ、君には言いたいことがたくさんあるが、とにかく、世話になった。病人であった俺を助けてくれたことは、感謝している」
冷たく低い言葉で話すレーヴァンには、昨日のような甘い雰囲気は全くない。記憶を取り戻した彼は、これまでのサーシャ嬢のついてきた嘘がすべてわかるのだ。
でも、それを糾弾することなくレーヴァンがお礼を言うと、サーシャ嬢は私を呼びつけて二人きりで話したいという。
「クローディア、いいのか?」
「えぇ、私も確かめたいことがあるから」
レーヴァンが荷物を片付けている間、私たちは庭園の東屋に移動した。そこでサーシャ嬢が取り出してきたのは、あのブローチだった。
「クローディア様。これ、本当はあなたのためにレーヴァンが用意していたものです」
手渡されたブローチ、それは私とサーシャ嬢の瞳の色をしている。
「これを持って、とっとと王都にでも帰ってください。ほんとに、いい男を二人も手玉にとって、卑怯な人」
チッと舌打ちしかねない口調でサーシャ嬢が私を見て呟いた。その素直で嫌味な言葉を聞いて、私は目が覚める思いがする。
「ふふっ、ふふふっ、そうね、卑怯よね……私」
思わず私はねじが外れたおもちゃのように笑いだした。
「ふふっ、そうなの。私、卑怯な女なの。…………忘れていたわ」
ブローチを握りしめながら、私はサーシャ嬢に礼を言った。
「ほんと、私にとって卑怯って、褒め言葉だったのにね。ありがとう、サーシャさん。私、自分が卑怯な女だってこと、思い出したわ」
それは本当に、ストンと私に降りてきたのだ。二人の男を手玉にとる卑怯な女。それも、極上の二人を。
「そ、そうなの。開き直ったのね、さすがだわ」
私の言葉を聞いて、サーシャ嬢は呆れたような顔をしている。
「えぇ、もう迷わないわ、もう、ね」
「はぁ、良かったわね。私も早く、次の男探さないとな……」
どうやらレーヴァンが言っていたように、彼女はもうレーヴァンに未練がないようだ。これで安心して、私は彼の所に戻ることが出来る。
お礼を伝えると、複雑な顔をしたサーシャ嬢は「お礼なら顔のいい男で、強い人を紹介して」と言ってきた。一瞬、レオンの顔が思い浮かぶが余計なことに首を突っ込むとまた叱られかねない。
私たちは彼女に別れを告げ、翌日に王都に戻ることに決めた。馬を駆ければ一日で済む道のりをレーヴァンは理由をつけて到着を遅らせる。今は、今だけは二人で過ごせるから。
王都に到着した私たちを待っていたのは、父だけではなかった。そこにはエール王国からやってきた母と、そしてクレイグがいた。
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